2025年度の国際活動を振り返って ~総括編 第4号 頻発、激甚化する災害への対応 緊急事態への備え~
先週の総括編第3号に続き、今回は2025年度の国際救援事業のうち、主に大規模自然災害に対する赤十字の活動をお伝えします。また、緊急時に迅速な支援を可能にするための備えや、国際活動を支える日本赤十字社(以下、日赤)の国際要員についてもご紹介します。
ミャンマー地震救援事業
2025年3月28日、ミャンマー中部でマグニチュード7.7と6.7の大規模な地震が連続して発生しました。被害は広範囲に及び、多くの人びとが住まいや生活の基盤を失いました。長年にわたる武力衝突や自然災害により深刻化していた人道状況は、今回の地震によってさらに悪化しました。
ミャンマー赤十字社は、発災直後から、捜索・救助や応急手当、給水、救援物資の配付などの救援活動を実施しました。国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)と赤十字国際委員会(ICRC)は緊急アピールを発出し、保健医療、水・衛生、避難所支援、こころのケアなど、幅広い分野での支援を展開しました。
日赤は、資金援助や救援物資の提供、医師や看護師、薬剤師、ロジスティクス要員からなる緊急対応ユニット(Emergency Response Unit=ERU)の派遣を通じ、ミャンマー赤十字社や国際赤十字と連携しながら、被災者のいのちと健康を守る活動を支えてきました。発災から間もなく1年をむかえる今、緊急救援から復興へと移る中で、日赤も中長期的な支援に取り組みつつ、地域の回復と人びとの尊厳ある生活再建に向けた取り組みを続けます。

ミャンマー赤十字社が展開する巡回診療に同行する日赤看護師(写真中央左)©MRCS/IFRC

巡回診療に同行し、よりよい医療サービスを提供できるよう現地の医師への助言やフィードバックなどを行う日赤医師(写真一番左)©JRCS/MRCS/IFRC
ミャンマー地震救援事業:
https://www.jrc.or.jp/international/results/myanmar_jrcs.html
台湾東部沖地震救援事業
2024年4月3日に発生した台湾東部沖地震は、花蓮県を中心に大きな被害をもたらしました。台湾赤十字組織は発災直後から支援活動を開始し、被災した地域の人びとの生活再建と地域の防災力強化に向けた多面的な復興支援を続けています。
2025年11月には、日赤からの資金援助を受けた台湾赤十字組織の支援により、花蓮県政府が進めていた花蓮市の仮設住宅が完成し、被災者の生活再建が大きく進みました。台湾赤十字組織は、被災者の生活再建と並行し、将来の災害に備えた地域基盤づくりとして、地震で被害を受けた現地の消防署の再建工事も支援しており、新たな消防署は地域の緊急対応拠点として多くのいのちを守る役割を担う予定です。また、災害時に孤立してしまいやすい山間部の地域における避難所兼コミュニティセンターの建設支援も進んでおり、完成後は避難所としてだけでなく、平時には地域住民の交流の拠点として活用される予定です。
子どもたちを支える教育支援も重要な取り組みです。台湾赤十字組織は、学校や教育団体と連携し、オンライン学習や実践的な教育機会を増やすことで、都市部と遠隔地の学習格差の縮小を目指しています。さらに大学生を対象とした防災キャンプでは、学生たちに心肺蘇生法や応急手当を学んでもらうことで、地域の防災や防災教育を担う若いリーダーを育成しています。子ども向けキャンプでは実践的な防災体験を通じて、災害時に自ら考え行動できる力を育んでいます。
台湾赤十字組織は、災害対応力の向上を目的に赤十字ボランティアを対象とした救助訓練も強化しています。救助訓練やドローン操作などの研修を実施し、倒壊建物での救助活動や情報収集など、現場で求められる技能の習得を進めています。こうした取り組みは、被災地の花蓮県がより安全で強じんな社会へと前進し、地域全体の災害対応力が高まることを目指しています。

防災キャンプに参加した子どもたちは、家に帰って学んだことを家族に伝えると語りました©台湾赤十字組織
2024年台湾東部沖地震救援事業:
https://www.jrc.or.jp/international/results/2024Taiwan_Earthquake.html
トルコ・シリア地震救援事業
2023年2月に発生したトルコ・シリア地震。日赤では2025年も、トルコとシリア両国での支援を継続してきました。
トルコでは、被害の大きかったアドゥヤマン県で日赤支援による献血ルームの設置と献血バス2台の配備が完了。また、災害の教訓を「次の災害」への備えにつなげるため、日赤との二国間協議も進んでいます。
シリアでは2025年も山火事といった自然災害や武力衝突などの混乱が続いています。また、紛争の影響などからシリア国外で避難生活を送っていた人びとも、2024年末の政変を受けて100万人以上がシリアに帰還。人道支援ニーズはひっ迫した状況にあります。2025年5月に日赤国際部職員がシリアに出張した際にも、がれきの街でシリア・アラブ赤新月社の巡回診療が人びとのよりどころとなっている様子が見られました。
トルコ・シリア地震救援事業:
https://www.jrc.or.jp/international/results/turkey_syria_jrcs.html
パキスタン洪水救援事業
2025年6月以降、気候変動の影響で激化したモンスーンの豪雨により、パキスタン全土で大規模な洪水が発生しました。村々の浸水や道路・橋の損壊が相次ぎ、数百万人が避難を余儀なくされるなど、人びとの暮らしと生活基盤に深刻な影響が及びました。
パキスタン赤新月社は、発災直後から全国の支部やボランティアを動員し、食料や安全な水の提供、衛生キットの配付、避難所支援、巡回診療などを展開しました。
日赤は、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の要請を受け、IFRCが発出した緊急救援アピールに対して資金援助を実施するとともに、職員1名を現地に派遣しました。同職員は、調達部門のIFRC緊急対応要員として、物資の品質や安全性を確保しながら、現場のニーズに応じて物資を迅速に調達・配付する体制づくりに取り組み、現地の救援活動を支えました。

浸水が続く地域で、住民の避難誘導を行うパキスタン赤新月社ボランティア©PRCS

IFRCパキスタン事務所で、現地スタッフと調達物資の確認を行う日赤職員(写真右)©IFRC/PRCS
2025年パキスタン洪水救援:
https://www.jrc.or.jp/international/results/2025/1126_049583.html
ハリケーン・メリッサ救援
2025年10月28日、超大型ハリケーン「メリッサ」がジャマイカを直撃し、記録的な暴風雨により約160万人が被災しました。長期化する浸水や停電、断水は、住民の生活再建や保健医療体制に深刻な影響を及ぼしました。
ジャマイカ赤十字社は発災直後から、被害調査や避難所支援、救援物資の配付、心理社会的支援を実施しました。
日赤は、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の要請を受け、ジャマイカでの国際赤十字による救援活動を支援するため、緊急救援アピールに対する資金援助を行うとともに、カナダ赤十字社主導でジャマイカに派遣された診療所ERU(Emergency Response Unit)に医師2名を派遣しました。巡回診療を通じて、急性期対応に加え、慢性疾患の治療や妊婦健診などを支援しました。現在、診療所ERUの活動は終了し、同ERUが担った保健医療活動は、医療資機材の引き渡しや研修を通じて現地の保健医療体制へ引き継がれています。発災直後の緊急時から復興初期へと移行する中、地域医療の回復に向けた支援が続いています。

現地の産科医とともにエコーによる妊婦検診を行う日赤医師(写真右)©JRCS

避難所を訪れ巡回診療を行う日赤医師©JRCS
アジア大洋州各国赤十字社・赤新月社への給水・衛生災害対応キットの整備
自然災害、紛争、または感染症のまん延など、さまざまな緊急事態において、「安全な水を手に入れること、衛生面に配慮した生活を整えること」(この記事では、給水・衛生・衛生促進(Water、Sanitation and Hygiene):WASHと表記します)は、病気を防ぐこと、いのちを救うことにつながり、被災した人びとにとってきわめて重要です。私たち赤十字のような人道支援団体は、緊急事態が発生してすぐに現場に到着し、最後に去る存在であり、私たちが緊急時のWASHの確保に迅速かつ効果的に対応できるかどうかが、何百万人もの人びとの生死を分けることになるのです。
日赤は2009年以来、この事業を通じて、アジア・大洋州地域の30カ国以上の赤十字社・赤新月社のWASH対応能力の強化に取り組んできました。IFRCと協力し、毎年数カ国を選定し支援を行う同事業で、2025年はアフガニスタン、パキスタン、東ティモールで、WASH対応能力強化の研修や関連する資機材整備を実施しました。日赤が提供する資金は、研修開催にかかる費用に加えて、消耗品の補充資金、研修用教材の作成費用、そして実際の災害時の対応費用に活用されました。
この事業は長年、日赤支部の協力のもと継続しているもので、2025年は東京都支部・福岡県支部職員と本社職員で現地を訪問し、事業の成果や課題を確認しました。
アジア大洋州地域:給水・衛生分野における災害対応能力強化事業(APWASH):
https://www.jrc.or.jp/international/results/APWASH_jrcs.html
IFRCアジア大洋州地域拠点倉庫への緊急救援物資の備蓄
日赤は、マレーシア・クアラルンプールにあるIFRCアジア大洋州地域拠点倉庫に、毛布やテント、衛生用品キットなど、緊急時に必要な救援物資を備蓄しています。これは、主にアジア大洋州地域を対象に、発災から48時間以内に5,000世帯、その後2週間で2万世帯分の物資を被災地へ届けることを目標とした、IFRCの備蓄戦略に基づくものです。
2026年度は、IFRCバングラデシュ国事務所への倉庫用テントの提供に加え、2025年3月末に発生したミャンマー地震への対応として、以下に挙げる7品目、約2,900万円相当の救援物資を寄贈しました。
【ミャンマー地震救援:寄贈品目】
- 防水シート 6,760枚
- 家庭用テント 379張
- 衛生用品セット 5,704個
- コットン毛布 1万1,500枚
- 家屋修繕キット 638個
- 飲料水用容器 6,961個
- 倉庫テント 1式

ヤンゴン国際空港に到着した救援物資を確認する日赤職員(一番左)とIFRCおよびミャンマー赤十字社のスタッフとボランティア©JRCS/IFRC/MRCS
これらの救援物資は、IFRCとの協力のもと日赤があらかじめ備蓄していたもので、現地に迅速に届けられ、ミャンマー赤十字社による初動対応などに活用されました。
災害が頻発するアジア大洋州地域において、緊急時に必要な救援物資を速やかに届けるため、日赤は今後もIFRCと連携し、ロジスティクスの支援体制の強化に取り組んでいきます。
日赤の診療所ERUがIFRC/WHOによる国際認証を取得
日赤は、海外の大規模災害などに備え、診療所ERUおよび病院ERUを整備・保有しています。2026年2月、2024年12月の病院ERUの国際認証に続き、診療所ERUについても、IFRCと世界保健機関(WHO)の協定に基づき、WHOが定めた緊急医療チーム(Emergency Medical Team:EMT)基準を満たす国際認証を取得しました。これにより、日赤が保有する病院ERU・診療所ERU(移動型診療所含む)はいずれも、被災地において質の高い医療支援を提供できる体制であることが国際的に証明されました。日赤は今後も訓練を重ねながら、実派遣に備えた体制強化に取り組んでいきます。
(ERUの詳細はこちら(PDF)(1.6 MB))
2025年度国際要員の派遣実績
自然災害や紛争、感染症など、世界各地で発生する人道危機に対して支援を届けるためには、現地での活動を担う人材の存在が欠かせません。日赤では、国際救援・開発協力事業に従事するスタッフである「国際救援・開発協力要員(国際要員)」を派遣し、現地での赤十字社・赤新月社スタッフやボランティアと連携しながら、人道支援活動を展開しています。
国際要員には、医師や看護師、薬剤師といった医療職のほか、事業管理担当やロジスティシャン(物資調達の専門員)など多様な職種が含まれており、保健・医療支援、地域保健活動、こころのケア(心理社会的支援)、プロジェクト全般の管理など、幅広い分野で活動しています。近年では、現地派遣に加えて、オンラインによる技術支援などリモートでの支援も組み合わせ、状況に応じた柔軟な支援体制を構築しています。
2025年度は、延べ58人の国際要員(うちリモート派遣4名)がアジア・大洋州、中東、アフリカ、欧州など各地に派遣され、国・地域の人道ニーズに応じた支援が行われました。
今後も日赤は、世界各地の人道課題に対応するため、国際要員の育成と派遣体制の充実を図りながら、現地の赤十字・赤新月社と協力し、持続的で効果的な人道支援活動を推進していきます。
