社長メッセージ

清家篤社長 ごあいさつ
より多くの人と、赤十字の輪を未来へ
皆さまには日頃から、日本赤十字社の活動をお支えいただいておりますことに、心より御礼を申し上げます。
2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震は、甚大な人的・物的被害をもたらしております。犠牲となられた方々に深い哀悼の意を表しますとともに、被災されたすべての皆さまに心からお見舞い申し上げます。日本赤十字社は、発災直後から医師や看護師、事務管理要員からなる救護班や災害医療コーディネートチームを派遣し、被災地の支援に力を尽くしております。避難生活を余儀なくされている方々の健康管理にも十分配慮しつつ、被災された方々に最後まで寄り添った支援に努めてまいります。
この令和8年熊本地震だけでなく、近年、地震や山林火災、台風、大雨など、さまざまな災害の発生するリスクは一層高まっています。大規模な災害はいつ発生するか正確に予測することは困難です。それゆえ発災時の被害を最小限に抑えるために、平時からの備えと適切な避難行動の徹底が不可欠です。日本赤十字社では、大規模地震に対する救護班などの派遣計画を策定し、私たちの強みである全国的なネットワークを生かし、その総合力を結集して迅速かつ柔軟な対応のできるよう、体制の強化に努めています。加えて、発災直後における情報発信の重要性も高まっており、公式SNSを活用した避難行動の呼びかけなど、広報面での取り組みも強化しているところです。
また、気候変動の影響により水害や土砂災害などが激甚化するなか、赤十字防災セミナーの新規カリキュラムとして「大雨・台風の避難スイッチ」を開発し、2026年4月から順次展開しております。「この程度なら大丈夫だろう」という正常性バイアスによって、いざというときに適切な避難行動をとれないことも少なくありません。一人ひとりが、自宅や地域の危険を自分のこととして捉え、早めの備えと避難行動につなげられるよう、引き続き防災セミナーの普及・啓発に取り組んでまいります。
防災の備えとともに、いざというときにいのちを救える力を社会全体に広めていくことも、日本赤十字社の重要な使命です。いのちを救う方法や、健康で安全に暮らすための知識と技術を普及する講習事業は、その原型となる衛生講習会が開始された大正15年から数え、2026年で100周年の節目を迎えます。長年にわたりこの事業を築き、支え続けてくださった関係者の皆さまに改めて敬意と感謝の意を表します。私たちは「いのちをまもる勇気 つないだ100年 これからも」を標語に掲げ、講習事業をさらに推進してまいります。
この赤十字講習100周年の記念事業として、現在、AEDトレーナーや心肺蘇生訓練人形などをセットにした「キャラバンセット」を全国47都道府県で巡回させ、各地で講習普及イベントを開催する「全国巡回キャラバン」を実施しています。そこでは記念ノベルティの作成なども組み合わせながら各種記念企画を進めています。いざというときに行動できる人を一人でも多く増やすべく、全国にこの取り組みを届けてまいります。
海外に目を転じますと、世界の分断と多極化はますます進行し、それによる紛争の頻発化・長期化がもたらす人道ニーズは拡大し続けています。特に、2026年2月に始まった中東地域での軍事的緊張は、周辺の多くの国を巻き込む事態に発展しています。日本赤十字社は海外救援金を募集し、国際赤十字機関と連携しながら公平・中立・独立の立場で、被害にあわれた方のいのちと尊厳を守るための緊急支援を、今後も継続してまいります。
ウクライナ人道危機は2026年で5年目となり、人々の生活への影響も深刻化しています。日本赤十字社は訪問リハビリテーション支援などの中長期的な取り組みを着実に進めています。またイスラエル・ガザ人道危機においては、医療支援に加え、2026年1月からリハビリテーション事業を開始するなど、引き続き、現地の人々に寄り添った支援に努めてまいります。
こうした国際情勢の影響もあり、ここ数年、物価も上昇し続けています。高い賃上げが続くなかで、日銀の政策金利も引き上げられるなど、長く続いたデフレの時代は終わりを告げ、物価・賃金・金利が上昇するインフレの局面に入りました。これは、日本赤十字社を支えてくださる皆さまの生活や企業の活動にもさまざまな影響を及ぼすものです。また、少子高齢化という人口構造の変化もさらに加速しております。
こうした大きな変化のなかで、全国各地で赤十字の活動を継続し、必要とされる支援を届け続けていくためには、さまざまな方からのご支援・ご協力に基づく財政的基盤や人的基盤の強化が不可欠であり、引き続きその基盤強化に努めてまいります。
2027年5月には、日本赤十字社は創立150周年の節目を迎えます。これまで、「一緒に創ろう 日赤の未来」という標語のもと、会員やボランティアの皆さまをはじめ、赤十字運動を担う多くの方々と意見を交わしながら赤十字の歴史を振り返り、その存在意義や役割について改めて考え、将来に向けた検討を重ねてまいりました。その過程で改めて認識したのは、「苦しんでいる人を救いたいという思いを結集し、いかなる状況下でも人間のいのちと健康、尊厳を守る」という日本赤十字社の使命が、これから先も決して変わることのない普遍的なものであるということです。私たちはこの使命を果たし続けていかなければなりません。
一方で、社会環境の急速な変化に適切に対応するためには、新たな視点と柔軟な発想を持って、活動のあり方や基盤の強化に絶えず取り組んでいかなければなりません。こうした変化のなかで将来の方向性を明確にし、「新しい時代の赤十字」を形作ってまいります。そのためにも、より多くの方々に赤十字運動へご参加いただくとともに、赤十字運動への理解と共感の輪をより一層広げていきたいと考えております。
そのために皆さまのお力は欠かせません。今後とも力強いお力添えを賜りますようお願い申し上げます。
せいけ・あつし◎ 1954年生まれ。1978年慶應義塾大学経済学部卒業、博士(商学)。慶應義塾大学商学部教授などを経て、2009年から2017年まで慶應義塾長。現在、全世代型社会保障構築会議座長なども務める。