2025年度の国際活動を振り返って ~総括編 第3号 武力紛争に伴う難民・避難民などへの対応~
世界各地では、絶え間なく自然災害や武力紛争による人道危機が発生し、人びとのいのちや健康、尊厳を日々脅かしています。2025年度は、いまだ終息の兆しが見えないロシア・ウクライナの武力紛争に加え、イスラエル・ガザの武力紛争が周辺地域へ波及し、レバノンを含む中東地域における人道状況がさらに深刻化する年となりました。またこれらの紛争に加え、気候変動の影響によるサイクロン、洪水、干ばつといった自然災害も世界各地で多くのいのちや人びとの暮らしを奪いました。
日本赤十字社(以下、日赤)の国際救援は、赤十字の世界的ネットワークや緊急対応の仕組みのもと、保健医療・衣食住などを即時に支える緊急支援から、復興フェーズを見据えて現地赤十字・赤新月社を支える支援など、その形はさまざまです。2025年度も、皆さまから寄せられた海外救援金などの財源をもとに、現地で必要とされる支援、状況に合わせた国際救援を展開し、世界各地で苦しむ人びとに支援を届けてきました。
ウクライナ人道危機救援事業
ロシアとウクライナの国際武力紛争が激化して4年がたちました。いまだ終わらない武力紛争によって、人びとのいのちが脅かされ、ウクライナでは940万人の人びとが国内外に避難しています。国際社会は、この武力紛争を終わらせる努力を続けていますが、今も平和への兆しが見られません。
日赤は、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)、赤十字国際委員会(以下、ICRC)、ウクライナ赤十字社(以下、ウクライナ赤)、各国赤十字社と共に、この武力紛争によって困難な状況にある人びとに対して支援を続けてきました。これまでに国際赤十字は、ウクライナとその周辺国において、約2,396万人の人びとに支援を行ってきました。
多くの方々のご協力により、日赤には2026年1月までに約100億円の海外救援金(ウクライナ人道危機救援金)が寄せられました。現在、日赤は、避難民が多く身を寄せるウクライナ西部地域を主な対象に、保健医療分野と社会福祉分野を中心にウクライナ赤と二国間支援事業を実施しています。また日赤からの国際要員の派遣を通じてウクライナ赤への技術支援も行っています。
現在実施中の二国間支援事業
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保健医療分野の支援
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ウクライナ赤の職員にリハビリテーションの技術指導を行う日赤の理学療法士©URCS

ウクライナ赤の緊急対応チームによる救助活動©URCS
現地では、現在も多くの人びとが支援を必要とする状況が続いています。引き続き、ウクライナ人道危機へのご関心をお寄せいただきますよう、よろしくお願いいたします。
ウクライナ人道危機救援事業:
https://www.jrc.or.jp/international/results/ukraine_jrcs.html
中東人道危機救援事業
中東地域では75年以上続くイスラエル・パレスチナ問題に加え、2010年末以降、各地で武力衝突が起きており、多くの人びとが今もなお紛争や暴力の影響を受けながら暮らしています。日赤は2015年、レバノンに中東地域代表部を開設し、中東地域の赤十字社・赤新月社や連盟、ICRCと共に長期的な支援活動を続けています。今年度の主な活動は以下の通りです。
―パレスチナ(ヨルダン川西岸地区・ガザ地区)
武力衝突や移動制限の影響により、両地区は障がいがある人びとがリハビリテーションサービスを受けるのが難しい状況が続いています。
日赤は、パレスチナ赤新月社と共に2026年1月よりコミュニティにおけるリハビリテーション事業を開始しました。現地での活動が安定して続けられるよう、巡回チームの新規編成や障がいを早期発見できる体制づくりを進めています。
パレスチナ赤新月社の支部長(左)とリハビリ部長(中央)と事業地に関する確認をする日赤要員(右)©JRCS
―レバノン
パレスチナ難民として暮らす医療従事者は、移動制限などの影響で、日々発展する医療技術を学ぶ機会が限られています。日赤は2018年から、医師や看護師の派遣、現地大学との連携などを通じてパレスチナ赤新月社レバノン支部が運営する病院への技術支援を行っています。2025年度は、現地大学による、一次救命処置(BLS)、二次心肺蘇生法(ACLS)、小児二次救命処置法(PALS)の研修を実施したほか、情勢の関係で中断していた日赤の医療要員の派遣を再開しました。2025年度は医師2名を派遣し、現地の医師に対して超音波(エコー)検査の実地指導を行いました。
また同国では深刻な経済危機が続き、生活必需品をはじめとした物価の高騰が問題になっています。レバノン赤十字社が運営する診療所は、地域の弱い立場にある方でも利用できるよう、医療サービスや薬の提供を低額で行っており、日赤は同社の診療所が安定的に運営を続けられるよう、資金面での支援を行いました。診療所の利用者からは、危険と隣り合わせの中、いつも通りの診療を受けられることに対して感謝の言葉が届いています。

エコー診断の指導をする日赤医師(一番右)と現地の医師ら©JRCS
レバノン赤十字社の診療所の利用者(左)とスタッフ(右)©JRCS
―イエメンやイラク、イランなど
人道支援ニーズが高いながらも、日赤要員の現地派遣が困難である国や地域、また活動内容がより専門的、あるいは特殊な分野については、連盟やICRCに資金拠出を行い、食料支援やインフラ整備、離散家族再会支援などの活動を支えています(2025年度はイエメン、イラク、中東北アフリカ広域、イスラエル、パレスチナ被占領地)。
また直近の中東各地での情勢悪化については、各国赤十字社・赤新月社や連盟、ICRCの動きをみながらイラン複合危機に対する連盟緊急救援アピールへの資金拠出などを準備しています。
中東人道危機救援事業:
https://www.jrc.or.jp/international/results/middleeast_jrcs.html
バングラデシュ南部避難民支援事業
2017年8月ミャンマーでの暴力から逃れるため、多くの人びとが隣国バングラデシュへ避難し、今では約118万人が移動や自由の制限された避難民キャンプで身を寄せ合い暮らしています。2025年には新たに推定14万人が流入し、キャンプの生活環境の悪化が続いています。
このような中、日赤は流入直後の2017年9月から国際赤十字の一員としてバングラデシュ赤新月社と共に支援を継続しており、診療所における保健医療サービス、地域保健ならびに心理社会的支援の連携を通じて、避難民が安心して健康に暮らせる環境の整備を進めてきました。今年度は、これまでの支援を継続しつつ、現地スタッフおよびボランティアの能力の強化やサービスの質の向上、さらにバングラデシュ赤新月社の避難民支援全体にも貢献できるように、長期的成果を目指した活動を展開しました。
診療所における保健医療サービス
毎月およそ2,600人の患者を診察しています。風邪や胃腸炎のほか、母子保健としての産前産後検診や予防接種、そして糖尿病など長く付き合う病気のケアも行っています。生活習慣病などの予防のため、生活習慣の見直しや運動指導などの健康教育にも取り組んでいます。
現職の医師をはじめ、献身的な診療所スタッフの努力により、日赤が支援しているキャンプ12の診療所はコミュニティから高い信頼を得ており、避難民キャンプにおいて「モデル診療所」であると評価されました。引き続き、他のキャンプの手本となるよう質の高い医療提供や、下記地域保健ボランティアとの連携強化などに取り組んでいきます。

診療所で乳児の体重を測る助産師©JRCS
住民に寄り添う地域保健活動
住民が健康に関する知識や情報を身につけ、病気や災害に自ら対応できる力を育むことを目指し、地域保健ボランティアが担当世帯を月におよそ2~3回訪問する活動を行っています。
現在は高齢者や妊産婦など特に配慮が必要な人びとに支援が届くよう、現地の保健要員やボランティアと共に住民に寄り添った活動を進めています。
特に配慮が必要な、社会的に弱い立場にある人びとのことを学び、どのような支援が必要か考える勉強会を、地域保健ボランティア向けに開催するなどしました。

現地のボランティアと共に、非感染性疾患(NCD)の患者さんの世帯訪問に同行する日赤要員(写真右)©JRCS
心理社会的支援活動
制約の多い環境で暮らす人びとが安心して過ごせる場所や支援を提供しています。子どもたちには安心して遊べる場を、青少年には学びの機会や仲間とのつながりを、大人には作業を通して社会と関わる機会をつくり、心の安定と社会とのつながりを支えています。上記の診療所においても心理社会的支援活動を行っており、それぞれの活動と連携した支援を提供し、人びとの心身の健康をさまざまな面から支えています。
子どもたちのセッションに参加する日赤要員©JRCS
世界各地で発生する災害や紛争の影響もあり、バングラデシュの避難民支援に対する国際的な資金援助は大幅に減少しています。引き続き、皆さまのご協力をよろしくお願いします。
バングラデシュ南部避難民保健医療支援事業:
https://www.jrc.or.jp/international/results/bangladesh_jrcs.html
アフガニスタン人道危機救援事業・2025年地震救援事業
長年にわたる紛争に加え、深刻化する食料不安、干ばつや洪水、地震などの自然災害が重なり、アフガニスタンでは、人口の約45%にあたる約2,190万人が人道支援を必要としています(UNHCR)。
さらに近年、隣国との軍事対立の激化により、国境付近の地域で武力衝突が発生し、多くの民間人が犠牲となるとともに、大規模な国内避難が生じています。また、周辺国からの帰還民も増加しており、人びとの多くは食料や水、医療、安全な宿泊場所など、緊急の支援を必要としています。
日赤は、2025年3月末まで募集を行った「アフガニスタン人道危機救援金」を元に、2025年度も連盟およびICRCへの資金援助を行い、食料や生活必需品の配付、現金給付による生計支援、巡回診療による医療提供、水・衛生環境の改善、冬季対策やこころのケアなど、多岐にわたる活動を支えてきました。
2025年8月、アフガニスタン東部で発生した大規模な地震では、約50万人が被害を受け、2,200人以上が死亡し、山岳地帯を含む広い地域で甚大な被害が出ました。アフガニスタン赤新月社は発災直後から救援活動を開始し、日赤も「2025年アフガニスタン地震救援金」の募集を通じて、緊急救援活動を支援しました。国際赤十字は現在も、支援を必要とする人びとのいのちと健康を守るため、現地での活動を続けています。

地震発生直後、負傷者への応急手当を行うアフガニスタン赤新月社の緊急医療チーム ©IFRC
厳冬期を前に、周辺国から帰還した家族へ防寒キットを届ける ©ARCS