緊急救援
世界各地では、絶え間なく自然災害や紛争が発生し、日々、人びとのいのちや健康を脅かしています。大規模な災害や紛争が発生すると、何よりもまず、被災者に対する医療や衣食住の支援といった緊急救援が必要となります。緊急救援は赤十字の最も重要な使命の一つであり、支援を必要とする人びとへ迅速にアクセスするため、平時から緊急事態に対し万全の備えをしています。
災害時の緊急救援
自然災害等の発生時、地元の赤十字社のスタッフ・ボランティアが被災地に真っ先に駆け付けて救援活動を展開し、人道支援の最前線で活動します。しかし、被害規模が甚大で被災地の対応能力を超えた救援活動が必要と判断された場合、被災国赤十字社は救援活動を続けながら、国際赤十字・赤新月社連盟(連盟)に国際的な支援を要請します。連盟は、この要請に基づきニーズ調査を行い、支援計画(「Emergency Appeal : 緊急救援アピール 」と呼ばれる)を発表し、他の国や地域の赤十字社へ支援を要請します。各社は、連盟の調整のもとで資金・物資・救援要員派遣などの支援を行い、被災国赤十字社の救援活動をサポートします。 (参考サイト : 連盟の情報プラットフォーム - 『IFRC GO』 )

救援活動のツール

緊急対応ユニット(ERU:Emergency Response Unit)
ERUは、大規模な災害等が発生した際に、赤十字の迅速な災害救援活動を可能にするための連盟の緊急救援ツールのひとつです。そのコンセプトは、緊急事態や大規模災害の発生に備え、緊急出動が可能なように事前に訓練された専門家チームと標準化された資機材をユニットとしてあらかじめ整備しておくというものです。
1980年代後半から90年代に発生したアルメニア地震、湾岸戦争中の大量のクルド難民発生、アフリカ大湖地域の難民危機などの複合危機の際、人道支援団体として新たな対応を迫られる中で、これらの緊急事態、大規模災害への即応体制構築の必要性から「ERU構想」は誕生しました。
日本赤十字社が保有するERU
日本赤十字社(日赤)は、2001年から診療所ERU(旧:基礎保健 ERU)を整備・保有しており、2019年にはアジア地域の赤十字社で初めて、被災地で野外病院を展開する病院ERUの導入・整備を決定しました。病院ERUは、これまで高次の病院に送らざるを得なかったような、生命にかかわる重篤な状態の患者にも対応できる手術・入院機能を備え、二次医療の提供を可能にします。病院ERUについては、2021年に整備が完了し、2024年には世界保健機関(WHO)が定めた国際的な緊急医療チーム(EMT:Emergency Medical Team)の基準を満たしていることの認証を取得しました。
ERUの詳細:こちら(PDF)
病院ERUウェブサイト:こちら(外部サイト)(日赤が整備を進めている病院ERUをバーチャルツアー機能で紹介します。リアルなテント内の様子を360度自由にご覧いただけます。)
ERUの活動実績
日赤は2001年に診療所ERUを登録して以降、下記の災害等に対し ERUを派遣しており、各活動の反省を踏まえて、よりよい活動を実施するために ERU整備体制の充実を図っています。(*日赤は要員のみ派遣)
| 年 | 災害等名称 | 診療所ERU | 病院ERU | 共同社 |
| 2001 | インド地震 | 〇 | ||
| 2003 | イラン南東部地震 | 〇 | ||
| 2004 | スマトラ島沖地震・津波 | 〇 | ||
| 2005 | パキスタン地震 | 〇 | ||
| 2006 | ケニア洪水 | 〇 | オーストラリア赤十字社 | |
| 2008 | ジンバブエ・コレラ対応 | 〇 | オーストラリア赤十字社、香港紅十字会 | |
| 2010 | ハイチ大地震 | 〇 | オーストラリア赤十字社、香港紅十字会 | |
| 2010 | チリ大地震 | 〇 | カナダ赤十字社 | |
| 2010 | パキスタン洪水 | 〇* | フランス赤十字社 | |
| 2010 | ハイチ・コレラ対応 | 〇* | カナダ赤十字社、英国赤十字社 | |
| 2012 | シエラレオネ・コレラ対応 | 〇* | フィンランド赤十字社 | |
| 2013 | フィリピン台風 | 〇 | オーストラリア赤十字社、フランス赤十字社 | |
| 2015 | ネパール地震 | 〇 | オーストラリア赤十字社、香港紅十字会 | |
| 2016 |
ギリシャ・移民難民対応 |
〇* | ドイツ赤十字社、フィンランド赤十字社 | |
| 2017 | ソマリア・コレラ対応 | ○* | カナダ赤十字社 | |
| 2017 | バングラデシュ・南部避難民対応 | 〇 | ||
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2017 |
バングラデシュ・南部避難民対応 | ○* | フィンランド赤十字社 | |
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2019 |
モザンビークサイクロン | ○* | カナダ赤十字社 | |
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2021 |
ハイチ地震 | ○* | フィンランド赤十字社 | |
| 2023 | トルコ・シリア地震 | ○* | フィンランド赤十字社(巡回診療型ERU) 要員の派遣に加えて、医薬品等を寄贈 |
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| 2025 | ミャンマー地震 | 〇 |

緊急対応(RR:Rapid Response)要員
RRは連盟の緊急救援ツールのうちのひとつで、RR要員とは「緊急の派遣要請に即応できるよう、個人の専門的な能力やこれまでの活動実績をもとに、連盟が管理する人材プールの各専門分野に事前に登録されている人材」を指します。連盟は、自然災害などが発生した直後に、特定の専門知識を持つRR要員を迅速に現地へ派遣します。
RR要員としての登録は、原則として、研修の受講歴や、過去の派遣実績などを踏まえて、各赤十字・赤新月社から推薦された人を対象に、連盟による選考を経て行われます。RR要員の派遣は、緊急時に必要な専門分野に応じて要請される仕組みとなっています。
RR要員の種類:こちら(外部サイト・英語)
RR要員の派遣実績
| 年 | 事業名 | 職種 |
| 2022 | ウクライナ人道危機 | MHPSS Coordinator Warehouse Officer |
| 2023 | アフガニスタン地震救援 | Health Coordinator |
| 2024 | モンゴル冷害救援 | MHPSS Coordinator |
| 2024 | バヌアツ地震救援 | Procurement Officer |
| 2025 |
ミャンマー地震救援 |
Welcome Service Officer |
| 2025 | パキスタン洪水救援 | Procurement Officer |

緊急救援物資
緊急時、速やかに被災者のニーズに応えられるよう、マレーシアのクアラルンプールにある倉庫に救援物資を備蓄しています。災害発生時には、被災国赤十字・赤新月社の要請に基づき、連盟と協力して同倉庫の備蓄物資を被災地へいち早く届けます。
発災から48時間以内に5,000世帯、その後2週間で計20,000世帯分の救援物資を被災地に届けることを目標に連盟と合同で数十万もの物資を備蓄。アジア・大洋州地域を中心とした大規模災害の発生時に役立てられています。

おむつ、生理用品、歯科衛生品、カミソリ、タオルなどがセットになっています。避難施設など人が密集する場所での集団感染を防ぎ、また個人の尊厳を守るためにも衛生環境を整えることは重要です。悪い衛生環境が続くと、避難施設で集団感染などが発生し、死活問題になります。赤十字の配付する衛生用品セットは、内容物が標準化されており、安全安心で迅速に提供できる救援物資の一つです。

シェルターツールキット
のこぎり、金槌、釘、ワイヤー、ロープなどがセットになっています。自分たちが住んでいる家やテントは一刻も早く修繕して、安心して暮らしたい。しかし、多くを失った人々にはそのための道具や資材をすぐに手に入れることができません。このキットには人々が安心を取り戻すためのツールが詰まっています。

キッチンセット
アルミニウムの鍋やフライパンなどと一緒に5人分の食器類がセットになっています。このキットによって、自分たちの文化や風習にあった調理をして"食事"をすることができ、困難な状況下でも、人々が自身の健康や尊厳を保つ助けとなります。
上記でご紹介したもの以外にも、テント、毛布、ビニールシート、蚊帳、飲料水容器など合計10品目の救援物資を整備して、災害や紛争等によって発生する緊急事態に備えています。
紛争時の緊急救援
赤十字の誕生以来、その活動の中心となってきたのは、武力紛争における犠牲者への支援であり、紛争地における赤十字の活動を主に担っているのが赤十字国際委員会(ICRC)です。
ICRCは以下の4つに分類された活動を展開しており、日本赤十字社は、ICRCへの資金援助や人的貢献などを通じて、長引く紛争や暴力により、政治や治安情勢が不安定なために被災者へのアクセスが困難な国や地域で苦しんでいる人々に、赤十字の原則に基づいた支援を行っています。
- 保護活動 (捕虜や被拘束者の訪問・離散家族支援)
- 支援活動 (救援物資の配付、保健医療、安全な水へのアクセス確保、生計支援等)
- 予防活動 (国際人道法の普及、地雷・不発弾のリスク啓発)
- 赤十字間の連携 (紛争地域における赤十字間、他の機関との連携において主導的役割を担う)

現在実施中の救援・中長期事業
