アジア太洋州地域:給水・衛生災害対応キットの普及

 現在、地球上には力を合わせて立ち向かうべき課題が沢山あります。その中のひとつに、私たちも身近に変化を感じることが多くなった地球温暖化問題があります。地球温暖化の影響による気候変動によって、自然災害の数は確実に増えています。中でも5つの地域(アメリカ、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、中東)のうち最も災害発生数が多く、死者数負傷者の数が最も多いのがアジア大洋州地域です。一昨年から昨年の2年間でアフガニスタン、オーストラリア、バングラデシュで洪水、インド、パキスタン、タイ、中国、キリバス、ツバルで干ばつ、フィリピンでは台風や熱波が起こっています。洪水は最も被害が大きく、同地域の災害の74.4%、世界の総死亡者数の88.4%を占めるといわれています。

危機に備え、人を育てる

 日本赤十字社(日赤)はこうした地域の特徴を踏まえ、国際赤十字・赤新月社連盟(連盟)と協働でアジア大洋州地域の国々に向けた給水・衛生災害対応キットの配備事業を行っています。同キットには災害時に効果的に給水や衛生活動を展開できるようにタンクや浄水剤、水質検査キット、簡易トイレ設置用資材、衛生教育用資材などが含まれており、キットを活用した救援活動を現地スタッフやボランティアが行えるよう、研修等の人材育成がセットになっています。毎年対象国を日赤と連盟で協議して決定しますが、2022年4月から20235月はバングラデシュ、マレーシアそしてラオスが対象となり、合計112名の研修生を育てることができました。

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浄水テストの使い方を確認する研修参加者©マレーシア赤新月社

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備品のチェックを行う研修受講者と連盟職員©ラオス赤十字社

 バングラデシュでは緊急時の衛生促進と月経衛生管理に関する専門研修に12の地区から24名のユースが参加、緊急時の給水衛生研修に13地区から26名が参加しました。浄水システムの設置や運転を実践に加え、大量の水の処理方法や、家庭での水の安全な管理方法、排せつ物の処理や井戸の消毒、簡易トイレの設置方法等を学びました。24地区27名を招集した振り返り研修も効果的でした。

 マレーシアでも緊急時の給水衛生研修に5地区から計18人(女性10人)が参加、上級者研修に24名が参加しました。オンラインの事前研修の受講を要件に座学とグループワークを組み合わせ、給水キットや浄水システムの知識・実践に加え、緊急時の国際赤十字の仕組みやアセスメントやデータ管理を学び、シミュレーションを通じた演習も行われました。

 ラオスでは2016年から少しずつ対象の地域を広げて同事業の支援を継続してきました。北部、中部、南部の支部代表を集めての振り返りワークショップでは12の支部から44名が参加し、給水キットを使った緊急時の対応について支部同士の経験共有等を行いました。ラオス赤十字社では災害に起こりやすい支部への浄水器や水質検査用品の優先的配備や給水キットに関するガイドラインの現地語訳が配布されるようになりました。また、2018年と2019年の洪水災害でも連盟と日赤で支援した同社の給水キットが活用され、地元政府当局からも当該活動をより認知されるようになっています。

安全な水を自分たちの手で(実際の自然災害への対応)

 バングラデシュ北東部は、インド上流の豪雨により、20226月後半に集中豪雨と鉄砲水で壊滅的な被害が広がり、約200万人に影響がありました。バングラデシュ赤新月社は、35万人の洪水被災者の支援を目標に緊急対応を行い、20227月時点で、70,285人に175,714リットルの安全な飲料水を提供、300以上の井戸の消毒が行われました。これはまさに、バングラデシュ赤新月社の研修を受けたスタッフとボランティアが災害給水衛生対応チームとして活動し、5つの水処理ユニットを配備して達成されたものです。浄化された水を配布する前には、水質検査が適切に行われ、衛生資材や生理用ナプキンの無料配布は衛生に関するメッセージとともに配布され、簡易トイレの設置も行われました。

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洪水災害発生時に地域の人々に安全な水を供給するユースボランティア©バングラデシュ赤新月社

 この事業では、連盟と日赤が協力することで、各国の災害時に備えた給水や衛生管理能力を高めるだけでなく、アジア大洋州地域に広く参加者を募る連盟主催の研修も実施しています。アジア・大洋州地域の参加者間で広く経験や知見を共有できること、研修を経た参加者が講師になっていくことで、継続的な人材育成が可能になっています。同事業は複数の日赤支部(令和5年度は第3ブロック及び第5ブロック *)の参画により2009年から継続実施されており、得た学びを翌年の研修に活かすことで、年々洗練されたものになっています。

*第3ブロックは富山、石川、福井、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、第5ブロックは鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知の支部にて構成されています。

 災害はどこにでも、誰にでも起こりうるリスクです。徹底した備え(備蓄品や資機材、それを使用できる人、いざというときに連携するあらかじめの約束事等)と防災意識の定着は、命を守るために地球上で暮らす私たちすべての人間に求められています。

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