【NHK海外たすけあい】ハリケーン「メリッサ」被災地は今:日本赤十字社の医師が活動するジャマイカ西部の現場から

 ハリケーン「メリッサ」の直撃から約2か月。甚大な被害を受けたジャマイカでは、緊急救援から復興初期の段階に移行しつつあるものの、依然として人道支援のニーズは高く、特に安全な水や衛生、食料、住居、医療、教育などの基本的なサービスの早期復旧が強く求められています。今なお9万世帯以上(約28万人)が自宅に戻れない状況が続いており、その数は先月からほとんど減少していません。インフラの復旧作業が続けられる中、国土の約20%で停電、約17%で断水が続くなど、生活基盤の回復には時間を要しています(12月8日時点)。

 

長引く浸水やがれき、損壊した水道システムの影響により、被災地では衛生状態の悪化が深刻化しています。汚染された水や病原体を保有する動物を媒介する感染症が広がっており、レプトスピラ症[1]はこれまでに26例が確認され、疑い例も含めると8つの教区[2]から71例が報告され、関連する死者数は12人にのぼります(12月8日時点)。さらに、デング熱や破傷風の報告も増加しており、住民の健康への影響が一段と懸念されています。

 また、避難生活が長期化し、先の見通しが立たない状況が続く中、被災者が抱える精神的な負担も大きく、こころのケアのニーズも高まっています。

[1] レプトスピラ症:動物の尿で汚れた水や土に触れることで起こり、高熱や筋肉痛などを引き起こす細菌感染症。

[2] 教区:ジャマイカの行政区画。国内全体で14教区ある。

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クリニックのがれき撤去や清掃・復旧作業を行うジャマイカ赤十字社のボランティア©IFRC

20251219-ed42f8b9fcdadc062430a9aeb24b83e64649755e.jpgジャマイカ赤十字社のボランティアが避難所の子どもたちに心理社会的支援を提供©IFRC

■国際赤十字が展開する巡回診療活動

 こうした状況の中、カナダ赤十字社の主導のもと、国際赤十字の診療所ERU(Emergency Response Unit)による巡回診療活動が継続しています。同チームが活動するジャマイカ西部のウェストモアランド教区は最も深刻な被害を受けた地域の一つで、住宅の約48%が全半壊し、道路やインフラの寸断も続いています。同チームは2つに分かれ、地元のヘルスセンター、病院、避難所を巡回して診療活動を行っています。これまでに14か所を訪問し、313名を診察しました(1214日時点)。

 日本赤十字社は、このチームの一員として、12月7日から日本赤十字社和歌山医療センターの益田医師を派遣しています。ここからは、益田医師からの現地リポートをお届けします。

■「ここまで来てくれてありがとう」診療で見えてきた人びとの姿

 発災から2か月近くが経過した現在、支援は亜急性期から慢性期へと移行し、診療の中心は、けがや急病から、慢性疾患のフォローアップや生活環境の悪化による健康への影響へと変わりつつあります。現地では水道や電気が復旧していない地域も多く、清潔な水が手に入りにくい地域では衛生環境が悪化し、皮膚疾患や手足の感染症が多く見られます。
 診察を通して患者さんのお話を伺うと、家屋の損壊や生活インフラの途絶、さらには家族を失った悲しみなど、皆さん、大きなストレスを抱えている状況が見えてきます。家が半壊していても「これくらいなら大丈夫」と話す方も多く、その姿は、過去に日本の被災地で接した患者さんを思い起こさせます。こうした心理的負担が身体症状に結びついているケースは少なくなく、こころのケアを含めた包括的な診療が欠かせないと強く感じています。

20251219-819afe72f2307977e6aed0efb16238c8d228d200.jpg巡回診療へ向かう車内から見える、倒木や損壊した家屋が残る被災地の様子©JRCS

20251219-6ef1f85f9a4993de0a5991248c603fdb8dc0c91f.jpg現地の産科医とともにエコーによる妊婦検診を行う益田医師©JRCS


 もう一つ、現場で特に重要だと実感するのが「支援者支援」です。現地の医師や看護師の多くも被災者であり、自宅の被害や生活再建の不安を抱えながら日々の診療を続けています。私たちが患者さんを診ることは、こうした現地の医療者の負担を少しでも軽減し、地域全体の医療体制を維持するうえでも大切な役割を果たしています。これは、災害後の亜急性期以降に欠かせない、医療支援の柱の一つだと考えています。

 先日は、妊婦健診を主に行う診療所を訪れ、現地の産科医とともにエコーを使った健診支援を行い、計23名の妊婦さんを診察しました。ある妊婦さんは、来院前に胎児の状態が心配だと言われていたそうなのですが、きちんと診察して赤ちゃんが元気であることが分かると、涙をいっぱい浮かべて喜んでいました。妊婦さんが胎児の健康を願う気持ちは世界共通ですが、とりわけ被災地では、新しい命の誕生は大きな希望になることを改めて感じました。

 被災して厳しい状況が続く中でも、「ここまで来てくれてありがとう」と感謝の言葉をかけていただくことも多く、ジャマイカの人びとの温かさと優しさに触れる場面が数多くあります。生活再建に向けて懸命に歩み続ける現地の人びとに寄り添いながら、地域の回復のために少しでも力になれるよう、残りの活動期間も全力で取り組んでいきたいと思います。

20251222-e3d0e7464a289322af81f9184e6dd233e6a4a915.jpg復旧作業中に倒れてきた樹木により、けがをしてしまった患者さんの縫合をする場面。診療後には「ありがとう、君もこの国を楽しんでね」と温かい言葉を返してくれた©JRCS

 日本赤十字社は、12月1日から25日まで「NHK海外たすけあい」キャンペーンを実施しています。日本赤十字社の国際活動は皆さまからのご寄付に支えられており、このキャンペーンでお寄せいただいたご寄付も、世界で発生している自然災害などで苦しむ人びとのために使われます。皆さまの温かいご支援を、どうぞよろしくお願いいたします。
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