ハリケーン「メリッサ」直撃から2週間、カリブ海諸国での甚大な被害に対応する赤十字の救援活動
最強クラスのカテゴリー5に達したハリケーン「メリッサ」は、10月28日にジャマイカ西部を直撃し、翌29日にはキューバ東部を横断しました。暴風雨により、ジャマイカ、キューバ、ハイチで500万人以上が影響を受け、少なくとも75人が死亡、77万8,000人以上が避難を余儀なくされました(2025年11月8日時点、OCHA[1])。
さらに、数万棟の家屋や学校、医療施設、公共施設が破壊されました。現在も一部のコミュニティは孤立しており、道路の寸断や物流の制約が被災状況の調査や支援物資の配送の遅れを招き、安全な水、食料、医療、住居の確保が急務となっています。
[1] The Caribbean: Hurricane Melissa - Flash Update No. 5 (as of 8 November 2025) - Jamaica | ReliefWeb


ハリケーン「メリッサ」が上陸し、広範囲に被害が及んだジャマイカ南西部のセント・エリザベス教区©Jamaica Red Cross
各国の被害の概要
ジャマイカでは約160万人が被災し、これまでに45人の死者が報告されています。西部と南部で最も深刻な被害を受け、今も捜索・救助活動が続いています。5つの主要病院が損壊し、3,000床以上が影響を受けているため、医療サービスはひっ迫しています。子どもや妊婦など、特に弱い立場にある人びとへの医療提供が最優先課題です。同国は、2024年7月にもハリケーン「ベリル」により農業や漁業に大きな被害が出ており、度重なる自然災害の影響を受けています。
キューバでは、73万人以上が避難を強いられ、現在も5万4,000人以上が避難生活を送っています。メリッサが横断した東部地域は、2024年10月に上陸したハリケーン「オスカー」からの復興途上にあり、最大100万人が水や食料、シェルター、医療などの緊急支援を必要としています。さらに、現在同国ではデング熱やチクングニア熱(蚊に刺されることで広がるウイルス性疾患)の症例が急増しており、ハリケーンの影響による洪水と衛生環境の悪化によって感染症拡大のリスクが一層高まっています。
ドミニカでは、豪雨と強風で給水設備が60か所以上停止し、ピーク時には約127万人が水道を利用できない状況となりました。道路や橋の損傷により複数の地域が孤立し、全国で約19万4,000人以上が影響を受けています。
ハイチでは、南部半島が大きな被害を受け、43人の死亡が確認されました。1,700人以上が避難し、豪雨や土砂崩れで住宅や橋、給水システムなどのインフラが広範囲に損壊しました。行方不明者もおり、アクセス困難な地域で捜索活動が続いています。
■各国赤十字社の対応
ハリケーン「メリッサ」の接近に備え、キューバ、ジャマイカ、ドミニカ、ハイチの各国赤十字社は、上陸前から「事前に備える」ための緊急対応計画を発動し、避難所設営や救援物資の配付、住民への早期警告を行いました。通過後はこうした備えを生かして、各国で必要な緊急支援活動を直ちに展開しています。
ジャマイカ赤十字社
被害が予測された8地域に、毛布や衛生用品などの生活必需品を事前に配付。ハリケーン上陸後には300人以上の赤十字ボランティアを直ちに動員し、これまでに約3,000世帯に食料や救援物資を届けています。毛布3,300枚、衛生キット1,341セット、家屋修繕用工具キット1,073セット、防水シート4,198枚などを配付し、安全な水や食料の供給に加え、20の避難所を開設し、現在も9か所で運営を続けています(2025年11月12日時点)。
被害調査を行うジャマイカ赤十字社のボランティア©Clarisse Smitas/IFRC
キューバ赤十字社
特に災害に対しぜい弱な地域に事前にスタッフを派遣し、緊急時の連絡体制の強化や避難所確認、資機材準備を実施。ハリケーン上陸後は、洪水や土砂崩れの被害を受けた地域で500人以上を救助しました。1,700人を超える赤十字ボランティアを中心に、心理社会的支援や家族の再会支援、避難所運営や救援物資の配付を行っています(2025年11月4日時点)。
ボートで救助するキューバ赤十字社のボランティア©Cuban Red Cross
ドミニカ共和国赤十字社
特にニーズが高まると予測された南部に、救援物資を事前に配備。ハリケーン上陸後は被害状況調査を行うとともに、洪水被害を受けた地域で救助活動や避難支援を実施しているほか、病院からより安全な医療施設への患者の避難・搬送も支援しています。
避難所の小学校で活動するドミニカ共和国赤十字社スタッフ©Dominican Red Cross
ハイチ赤十字社
各地域のコミュニティに備えを呼びかけ、警戒態勢を強化。ハリケーン上陸後も現地当局と連携して、緊急救援活動を続けています。
事前の備えを呼びかけるハイチ赤十字社のボランティア©Haiti Red Cross
各国赤十字社と国際赤十字は引き続き緊密に連携し、被害状況の把握とニーズ調査を進めながら、必要な支援活動を継続していきます。
■国際赤十字・赤新月社連盟および日本赤十字社の対応
ハリケーン「メリッサ」による甚大な被害を受け、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)は、被災国の赤十字社からの要請に応じて、緊急救援アピールを発出しました。
ジャマイカには1,900万スイスフラン(約36億円)、キューバには1,500万スイスフラン(約29億円)を目標とする資金調達を呼びかけています。日本赤十字社もこれに応え、両アピールにそれぞれ500万円の資金援助を行いました。
この緊急救援アピールは、最も深刻な被害を受けた地域の被災者(ジャマイカ約18万人、キューバ約10万人)を対象に、緊急支援から早期復興、そしてレジリエンス(回復力)の強化までを視野に入れた包括的な支援を目的としています。
支援内容には、国際赤十字からの必要な資機材の投入や人材派遣を軸に、安全な水や食料の確保、住宅再建、生計支援、保健医療サービスの提供、心理社会的支援などが含まれ、現地赤十字社と緊密に連携して実施されます。ジャマイカにはすでに現地の赤十字社の救援活動を支援・調整するため、ロジスティクス、保健医療、給水・衛生、シェルターなどの国際要員が派遣されています。
また、国際赤十字は、ハリケーン通過後7日間で180トン以上の救援物資をカリブ海諸国へ輸送し、各国赤十字社と連携して、すでに数千世帯に必要な物資を届けました。物資には、家屋修繕キット、清掃キット、キッチンセットのほか、衛生用品、バケツ、毛布などの生活必需品が含まれています。
国際赤十字が輸送した救援物資©Maria Victoria Langman/IFRC
日本赤十字社もIFRCや各国赤十字・赤新月社と連携し、状況のモニタリングやニーズ把握を続けながら、上記の資金支援に加え、保健医療要員などの現地派遣を含む支援の調整を進めています。

ジャマイカで、お店も家も失った現地住民のポーリンさん。子どもたちが「これからどうするの?」と問いかけてくると言います。ハリケーンで奪われた日常を取り戻すため、支援が急がれています。©IFRC