【NHK海外たすけあい】香港マンション火災:被災した外国人労働者のこころのケアを日本赤十字社看護師がサポート
2025年11月26日に香港北部の大埔地区にある高層マンション「宏福苑(Wang Fuk Court)」で大規模な火災が発生し、団地全体8棟のうち7棟が焼失、死者は160人にのぼり、1,900世帯以上が被災しました(2025年12月9日現在)。
現地では火災発生直後から、中国紅十字会香港支部が被災者への支援を継続していますが、12月初旬の約1週間、マレーシアにある国際赤十字・赤新月社連盟アジア・大洋州地域事務所(APRO:Asia Pacific Regional Office:以下、連盟APRO)に保健要員として派遣中の成田赤十字病院の神作看護師が香港へ出張し、同支部が行うMHPSS(精神保健・心理社会的支援、こころのケア)などをサポートしました。以下、神作看護師からの報告です。
火災現場に駆け付ける中国紅十字会香港支部のスタッフ©中国紅十字会香港支部
■中国紅十字会香港支部による被災者対応
中国紅十字会香港支部は、火災発生直後から対応しており、応急手当の実施や寝具などの支援物資の配付、現金給付支援を行うと同時に、募金の呼びかけなどを行っています。同支部は平時よりMHPSSの分野に力を入れており、これまで啓発活動やボランティアの育成、災害時の被災者支援に取り組んできました。今回の対応でも、緊急対策チームを立ち上げ、コールセンター(MHPSSホットライン)[1]の運営や、被災者一人一人との面談を行い、こころのケアに努めています。
[1] コールセンターでは、MHPSSの研修を受けた市民や心理士の有資格者がボランティアとして24時間態勢で相談に対応しています。火災発生以降、精神的な不安やストレスへの対応支援、必要な情報提供を行う重要な窓口として機能しています。対応言語は香港で日常的に話されている広東語と英語を基本とし、予約制でフィリピンの主要言語の一つであるタガログ語による対応も可能となっています。
被災者に応急手当を施す赤十字スタッフ©中国紅十字会香港支部
■外国人家事労働者への支援活動
今回の火災で被害に遭われた方の中には、住みこみで働くフィリピン人やインドネシア人の家事労働者も数多く含まれています。火災によって、家事労働者の多くはパスポートや雇用契約書、祖国の家族のためにためていた貯金もすべて失いました。また、現在は避難所にて雇用主とともに生活を続けるなど不安定な状況に置かれています。彼らの多くは、言語や制度の壁から、必要な支援や情報に十分アクセスできず、大きな精神的ストレスを抱えています。
香港では、週末になると外国人家事労働者が自宅兼職場である雇用主の家を離れて集い、友人同士で会話やランチ、ボードゲームなどを楽しむ光景が見られますが、こうした集まりの中には、今回の火災の被災者も含まれています。そこで今回、フィリピン人労働者が多く集まるエリアで、赤十字が提供するサポートについての周知を行いました。さらに中国紅十字会香港支部として、フィリピン人労働者を対象にした巡回診療を行い、こころのケアに関する相談ブースも設置しました。
この活動にあたっては、フィリピン人ボランティアを募り、彼らが母国語で安心して思いを表出できる環境づくりが行われました。会場では、看護師による血圧や血糖値の測定、医師による診察や薬の処方が行われた後、希望者には一人一人とじっくり向き合う対話の時間が設けられました。面談中、涙を流しながら火災発生時の体験を語る方も多く、不眠や食欲不振といった不調に加え、「火災で逃げた際の光景(スリッパのまま雇い主の子どもを抱えて逃げたシーン)がフラッシュバックする」など、さまざまな悩みが打ち明けられました。
コールセンターのリーフレットを配付©連盟APRO
巡回診療に同行する神作看護師(写真中央)©連盟APRO
火災発生直後から多くの人道支援団体が支援活動を行っていますが、その多くは一時的な対応にとどまり、活動を終えてしまうケースも少なくないといいます。精神的なサポートは、時間をかけて信頼関係を築きながら継続して行うことが不可欠です。今回相談に訪れた方の多くが、「また話を聴いてほしい」、「やっぱり母国語で話せると落ち着く」と語り、今後の支援につなげるため連絡先を共有してくれました。
神作看護師はこの活動の翌日から、相談者の連絡先リストや診療・相談記録の様式作成に協力し、今後のフォローアップに役立てるための体制づくりを支援しました。中国紅十字会香港支部のスタッフは、「時間の経過とともに報道も減り、支援が届きにくくなる。だからこそ、私たちの活動を通じて、彼女たちの現状を多くの人に知っていてほしい」と話しており、活動の様子をメディアや公式ホームページを通じて積極的に発信しています。中国紅十字会香港支部は、今後も1~2週間ごとのペースで継続的な支援活動を行う方針で、外国人労働者を含むすべての被災者に対する長期的な支援に力を入れています。この記事が、日本の皆さまにとって、被災された方々の現状を知っていただく一つのきっかけとなれば幸いです。
■誰もが支え手になれる―香港で学んだ赤十字のこころのケア
神作看護師は語ります。「今回の香港出張は、中国紅十字会香港支部による緊急時対応や、災害時におけるこころのケアの取り組みを間近で学ぶ貴重な機会となりました。こころの傷は外からは見えにくく、時間がたってから現れることも少なくありません。しかし、災害時のこころのケアは「特別な専門家だけが行うもの」ではなく、適切な知識と姿勢があれば、誰もが誰かの支えになり得るものです。被災者への直接的な支援に加え、その活動を支えるボランティアやスタッフを育成し、継続的に支えていく体制づくりがいかに重要であるかを改めて実感しました。」
「日本においても、こころのケアに関する研修や取り組みは年々広がりを見せています。災害時だけでなく、日常のさまざまな場面においても、相手の気持ちに寄り添い、安心につながる関わりを持つことは大切です。今後も、香港での活動中に得た知見や経験を共有しながら、赤十字のこころのケアの取り組みがさらに広がっていくことを期待するとともに、私自身もその一助となれるよう努めていきたいと考えています。」
日本赤十字社は、国際赤十字・赤新月社連盟への資金援助や人的貢献などを通じてMHPSS(精神保健・心理社会的支援、こころのケア)分野の取り組み強化を支援しております。
日本赤十字社は、12月25日まで「NHK海外たすけあい」キャンペーンを実施しています。日本赤十字社の国際活動は皆さまからのご寄付に支えられています。皆さまの温かいご支援を、どうぞよろしくお願いいたします。
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