【NHK海外たすけあい】インドネシア洪水:日本赤十字社看護師が現地から報告、現地では「第二の津波」とも
2025年11月末から12月にかけて、東南アジア各地で記録的な豪雨による災害が発生しました。インドネシアでは、スマトラ島のアチェ州、北スマトラ州、西スマトラ州で洪水や土砂崩れが相次ぎ、道路や橋の崩落、通信・電力の遮断など、広域にわたる深刻な被害が報告されています。インドネシアでは洪水による死者が1,000人を超え、現地では「第二の津波」とも語られています。これは、2004年にスマトラ島沖で発生した大地震とこれに伴う津波を経験した人びとが、その記憶と今回の洪水を重ね合わせて表現している言葉です。当時の津波は甚大な被害をもたらしましたが、今回の洪水による被害も深刻で、住民の生活や心に深い傷を残しています。
被災地では、災害の直後からインドネシア赤十字社が中心となって、救援活動を続けています。その一環として、12月7日から13日には、アチェ州などのアセスメント(被災状況調査)が実施され、日本赤十字社のインドネシア現地代表部(ジャカルタ)に事業管理要員として派遣中の大阪赤十字病院の新井看護師が参加しました。
山腹に位置するこの地域では、今回の洪水により20軒もの家屋が流された(アチェ州ピディ)
水が引かず泥水が残る地域では、長靴を持たない住民がはだしで歩く姿も(アチェ州ピディジャヤ)
■孤立する集落、現地アセスメントで浮かび上がった課題
新井看護師が同行したチームは、洪水により孤立した集落の多いアチェ州北部を中心に、被災者や医療関係者などへの調査を行いました。道路や橋の崩落により車両での移動が困難な地域も多く、徒歩や船で被災地に入る場面もありました。家屋や農地は流失・埋没し、復旧には長期を要する見通しです。
避難所はモスクや民家を間借りする形が多く、プライバシーや衛生環境は十分とは言えません。トイレや水場の不足、濁った水の使用により感染症リスクが高まっており、300人が暮らす避難所にトイレが3つしかないケースも確認されました。
住民からは「雨が降ると恐怖で眠れない」「家を失い、何も残っていない」といった声が聞かれ、洪水の体験による心理的影響の大きさが浮き彫りになりました。子どもたちも一見元気に見えるものの、恐怖の記憶を抱え、夜間の豪雨でフラッシュバックを起こす子も少なくありません。
被災前はレストランだった場所に10人ほどが避難している(アチェ州ビルン)
アセスメントで訪れた先で、子どもたちに話を聞く新井看護師(右端)(アチェ州ビルン)
健康面では、泥水への接触による皮膚疾患、砂ぼこりや生活環境の悪化による呼吸器症状が増加しています。また、妊婦からは強いストレスによる体調変化も報告されています。被災者全体において、健康を維持するために必要な物資や医薬品の不足が深刻な状況です。
現地では、インドネシア赤十字社が国際赤十字と連携し、アセスメントや支援物資の配付、水の供給、医療活動などを続けていますが、道路崩壊や燃料不足により、支援活動は容易ではありません。
停電し、通信状況が悪いため、発電機と衛星ブロードバンドインターネットを設置
停電の中、太陽光を利用して会議を行うインドネシア赤十字社のスタッフ
■新井看護師が伝える「今も続く支援の必要性」
新井看護師は「この洪水災害は、日本ではほとんど報道されていません。しかし現地では、安全な水、衛生的な避難所、医療、こころのケア、生活必需品などのすべてが今も不足しています」と語りました。「日本赤十字社は、長年築いてきたインドネシア赤十字社との相互協力関係を基盤に、アセスメントチームに帯同することで、現地の実情を確認しました。想像以上に被害は広域かつ深刻で、道路や橋の寸断により支援が届かない地域が多く、住民は孤立したまま助けを待っています。現地では“第二の津波が来た”と語られ、2004年の津波を思い起こさせるほどの衝撃です。日本の皆さんには、この甚大な被害と、今も続く支援の必要性、そして復興に長い時間がかかる現実を知っていただきたいと思います」と、現地の状況と日本の方たちへのメッセージを述べました。
大阪赤十字病院で助産師としても勤務する新井看護師は、村で開業している助産師に対して、母子保健に関する聞き取りを実施
水を受け取りに来た住民は「きれいな水がもらえるから本当に助かっている」と話す
■災害への備えと地域防災力強化の取り組み
インドネシアは災害が多発する国であり、人びとの命と暮らしを守るための備えが欠かせません。日本赤十字社は、インドネシア赤十字社と協力して地域に根ざした防災事業を進めています。2024年からは、ジャワ島のスカブミ県とジャンバル県における学校での防災教育、村落での防災体制づくりに加え、インドネシア赤十字社の事業実施基盤の強化にも取り組んでいます。こうした活動を通じて、地域コミュニティのレジリエンス(回復力)向上を目指しており、新井看護師も引き続き現地で防災活動に携わっています。
なお、日本赤十字社は、12月1日から25日まで「NHK海外たすけあい」キャンペーンを実施しています。皆さまの温かいご支援を、どうぞよろしくお願いいたします。
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