ハイチ大地震:現地での医療活動を終えて ~日赤職員の声~

2021年8月14日に中米カリブ海の島国ハイチ共和国を襲ったマグニチュード7.2の大地震は、80万人以上の被災者を出す大きな災害となりました。地震前から貧困や大統領の暗殺、ギャングの横行による治安の悪化などが課題となっていた同国では、地震後には住まいを失う人や深刻な燃料不足などにより脆弱な立場の人たちがますます苦しい状況に置かれることとなりました。
地元のハイチ赤十字社(以下、ハイチ赤)と国際赤十字は、地震の発災直後から緊急救援活動を開始。現地では地震によって医療施設が被災したため、医療体制がひっ迫する事態となり、この状況を受けて国際赤十字は、フィンランド赤十字社を中心に手術・入院機能をもつ臨時のテント型野外病院(病院ERU)の出動を決定しました。病院ERUは同国南県のレカイに設置され、9月21日の開院から11月末までの約3カ月間、現地の医療を支えました。
現地の病院ERUの活動と、そこで医療救援に携わった日赤職員の声をお届けします。

3か月間の活動を終了した病院ERU

11月30日に閉院を迎えた病院ERUは、3カ月間の活動期間中に約5,400人を診察しました。このうち、入院が必要と診断された人は114人、手術は91件実施されました。また、出産件数は114件にのぼり、帝王切開による赤ちゃんの取り上げ事例もありました。この他、病院ERUでは身体的な障がいがある患者に対して理学療法士による支援の提供や、緊急の保護が必要となる脆弱な人びと(子どもや性暴力被害者など)に対する適切なケア、また必要に応じてさらなる支援先への紹介などが行われました。さらに、コロナ禍での活動となったため、コロナ感染が疑われる患者に対しては、コロナ感染症治療専門の病院と協力した対応を実施しました。

病院ERUへの派遣を終えて ~日赤職員の声~

日本赤十字社(以下、日赤)は、10月から病院ERUに薬剤師2名と看護師2名を派遣し、現地での医療支援活動に貢献しました。現地の治安悪化や活動に必要な燃料の慢性的な不足、目の当たりにする地元の人たちの貧困など、過酷な活動環境下で医療支援に尽力して帰国した日赤職員の声をお伝えします。

日赤和歌山医療センター 榊本亜澄香(さかきもと・あすか)薬剤師:

-現地の状況を教えてください。どんな支援が必要とされていると感じましたか。

現地で共に活動したハイチ人薬剤師のジョージトンさんによると、治安の不安定な状況が続いていることや物価上昇のために生活費がかさんでいることが人びとの負担を大きくしているとのことでした。彼と話した中で今後のハイチの未来のためには新しい世代を育成するための教育も欠かせないという言葉が印象的で、現地での活動中は同じ薬剤師であるジョージトンさんの能力を生かすことにより、地元で活動を続けるハイチの人びとの支援に少しでも貢献するよう努めました。

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医療倉庫でハイチ人薬剤師のジョージトンさんと並ぶ榊本薬剤師(右)©日本赤十字社

日赤医療センター 赤井智子(あかい・ともこ)看護師兼助産師:

-現地での活動の様子と活動する中で困難に感じたことはなんですか。

病院ERUでは手術室に勤務し、夜間は頻繁に発生するオンコールにも対応していました。手術中の患者さんが安全に手術が受けられるように準備をしたり、手術で使用する物品の滅菌作業をする役割を担います。また、助産師として分娩介助や産後の授乳ケアを行うこともありました。病院ERUでは海外の赤十字社のスタッフや地元のハイチ人スタッフが一緒に活動します。言語の壁があり意思疎通が難しい場面もありましたが、多様な人びとと丁寧に意見交換を行い、ハイチの人々にとって信頼される安全な医療の提供と患者さんのニーズや文化・慣習に合わせたケアの提供を目指して活動を行いました。

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術後に患者の松葉杖の調整や痛みの具合を確認する赤井看護師(右)©日本赤十字社

福岡赤十字病院 川口真由美(かわぐち・まゆみ)看護師:

-赤十字の活動とハイチの人びととの関わりを教えてください。

赤十字の活動は、現地の人びとの心の拠りどころになっていると感じました。病院ERUではこころのケアに関するサポートも実施していましたが、来院する子どもたちがとても楽しそうに過ごしているのが印象的でした。これは身体や病気の治療だけでなく、こころの安心感にもつながっていると思います。また病院ERUの活動により助かる命が増えました。帝王切開予定の妊婦さんで緊急対応が必要になった事例がありましたが、円滑な手術により母体も子どもも無事に出産を終えました。

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手術室でフィンランド赤十字社の医師や看護師と働く川口看護師(中央)©日本赤十字社

大阪赤十字病院 仲里泰太郎(なかざと・やすたろう)薬剤師:

-病院ERUの活動終了と現地の様子で印象に残ったことはなんですか。

ハイチの中でも貧富の格差は大きいように感じました。病院ERUの周辺にはビニールシートでできた家で暮らしている人たちもいて、食べ物を求めて子どもたちが鍋を差し出してくることもありました。病院ERUが閉院しても、現地での課題は残ります。貧困や悪化する治安状況、新型コロナの影響も継続しています。現地ではまだ満足な病院機能が回復していない中で出産数が多かったり、健康に不安を抱える人が多いことも事実です。一方でハイチのために何かしたいと思っている志ある現地の人たちがいることも事実で、彼らに活動の中心を委ねながら地元に根付いたハイチ赤が今後も継続して支援活動を続けていきます。

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現地スタッフとの協働は欠かせないという仲里薬剤師(右)©日本赤十字社

ハイチのこれから、復興に向けて

日赤では、被災された方の救援とハイチでの赤十字の人道支援のために、2021年11月末まで海外救援金を募集し、1,936件39,023,400円のご協力をいただきました(2021年12月末時点)。
現地では、被災した人びとの声、地域の人びとの意見に耳を傾けながら支援活動を計画・実施しています。もともとの貧困に加え、燃料・食料などの不足が問題となり、さらなる治安の悪化が懸念される現地ですが、赤十字は改めて人道支援を届ける赤十字のスタッフ・ボランティアの活動への理解と尊重をハイチ国内でも強く呼びかけながら、被災者に寄り添った支援を続けていきます。

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