避難民支援×心理社会的支援活動×看護師

 

 

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看護師 梅野 幸恵
最新の派遣先:バングラデシュ(二国間)

プロフィール紹介
福岡県出身。武蔵野赤十字病院所属。
派遣歴:フィリピン(20082014)、イラク(20112012)、バングラデシュ(201820222023

国際要員を目指したきっかけ

小学生の頃、テレビで見た海外の避難民キャンプでNGOが活動する場面がとても心に残っていて、「紛争や飢饉などで苦しんでいる人びとのために何かをしたい」と思ったのが始まりでした。

そのような避難民キャンプでは病気やけがで苦しむ人が多いと感じ、看護師になったら自分も働けるのではと考えました。看護師になって最初の4年くらいは、看護師としての仕事をこなすことに必死でした。少し仕事に余裕が出てきて周りが見えるようになった頃、自分の目標のために英語を話せるようになりたいと考え、カナダで語学留学をしました。

国際要員として登録、派遣後の関わり

国際要員になるにあたって、自分に足りないと感じていた看護技術を補うため、留学から帰国後は武蔵野赤十字病院に入職。院内で直接的に赤十字の国際活動に関わっている職員は多くはありませんが、上司や同僚はいつも応援してくださり、研修などを通して国際要員の仲間も増えました。自分の目標を上司や職場に伝え、日ごろから問題解決能力を身につけるためにはどんな視点や技術を身に付ける必要があるかを考えつつ、上司とも相談しながら自己研鑽していきました。そして、入職から8年後に、赤十字の国際要員の登録に必要な研修を受けました。派遣の機会を得てからは、派遣経験豊富な先輩方からの経験を参考に、現地の文化や宗教を尊重し、押し付けにならない形で、支援先の赤十字社・赤新月社や避難民の方が自らの力で現地の問題解決をしていけるような働きかけを意識するようにしています。

現地での活動のやりがいは?

バングラデシュの避難民キャンプには2018年に日赤のERU(※1)の一員として派遣され活動しましたが、今回(2022年)は初めてPSS(心理社会的支援 ※2)要員として派遣され、PSS事業に深く携わりました。

現地の様子は、2018年当時と比べ社会インフラが少しは良くなったとはいえ、とても避難民の方がたが安心して安全に暮らせる環境になったとは言い切れない状況でした。そのような環境下で、「PSSコミュニティボランティア」が、戸別訪問や避難民が集まる場所でPFA(心理的応急処置※3)を提供し、悩みやストレスを聞くことで人びとに安心を与え、住民が自らストレスに対処できるようにお手伝いをしています。コミュニティボランティアは、避難民キャンプの住民自身であったり、避難民の受け入れ国であるバングラデシュ出身であったり、さまざまな背景を抱えています。そうした人びとが、バングラディッシュ赤新月社のスタッフからPSSに関するトレーニングを受け、しっかりと人びとの信頼を得て、コミュニティの中でなくてはならない存在になっていると感じました。

ジャングルを切り拓いた土地の高い丘に段々に立ち並べられたテントは、竹やビニールなどで出来ており、サイクロンなどによる大雨で壊れやすいため、キャンプの住民は修理を繰り返しながら生活しています。テントのすぐそばで地滑りが起こることもあり、安全ではありません。そのような中、20233月、あるキャンプで大火災が起こりました。現地赤新月社のPSSチームなどが一丸となり、ただちにコミュニティへ行き、傷の手当やPFAを行いました。その後、火災のあったキャンプから避難してきた住民が、私たちの活動する別のキャンプの親戚を頼って避難してきました。そこには、「コミュニティ・セーフスペース」という被災者の方がたが安心して通える場所があり、そこでもまたPSSコミュニティボランティアによるPFAが行われ、被災者を落ち着かせることが出来ていました。家や家財道具は燃えてしまったけれど、家族を亡くした住民はおらず、このことが被災者の心の救いでもあったようです。

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避難民キャンプの大火災が燃え広がる様子©バングラデシュ赤新月社

私自身は現地語が話せませんが、現地語が話せるバングラデシュ赤新月社のスタッフやPSSコミュニティボランティアがともに現場でこころのケアを行い、レジリエンスを高められるような支援がされていていることはとても誇らしく、素晴らしい活動が出来たと、スタッフやボランティアにお伝えしました。現地のボランティアにとっても自分たちの自信となっているようでした。PSSの活動を含め、2017年から繋いできた赤十字赤新月社の支援活動が実を結んでいるのを実感できた出来事でした。

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被災者についての情報収集の様子©バングラデシュ赤新月社

今後の目標

PSSは、レクリエーションや心理教育を通して、コミュニティで住民が自らレジリエンスを高めるお手伝いをする活動で、とてもやりがいがあります。PFAは日赤の国内救護では「こころのケア」として実施されており、トレーニングを受ければ誰でもできる支援です。今後、PFAの技術も磨きつつ、普段の看護業務や後輩育成、問題解決、マネジメントなど国内での仕事に向き合うことで得られる経験を海外の活動でも生かし、また海外の現場で学んでくることの多くを自分の部署や病院に還元していこうと思います。また、PSS要員としても進化していけるよう、自己研鑽しつつ、今後は病院内でも、患者さんや同僚スタッフのこころの健康を考えていけたらと思います。

最後にひとこと

今回、私はバングラデシュで活動するデンマーク赤十字社へ出向し、PSS要員として活動しました。派遣に送り出してくれた病院はもちろん、デンマーク赤十字社、バングラデシュ赤新月社、そして避難民の方がたにもいろいろなことを教えていただき、感謝しかありません。これからも、PSSへの理解が日赤の国際要員や広く一般に広がっていくよう、活動していきたいと思います。

※1 ERUEmergency Response Unit、緊急対応ユニット):大規模な自然災害等が発生した際、医療や給水衛生活動等が開始できるように専門家と資機材をセットにしたチーム

※2 心理的社会支援(PSSPsychosocial Support):日赤の国内救護活動は、「こころのケア」活動を実施していますが、国際救援活動においても、PSSは紛争、災害下の被災者のこころの健康を守り、レジリエンスを高めるために行っている赤十字の代表的な活動の一つです。

※3 心理的応急処置(PFAPsychological First Aid):困難な状況にある人々(people in distress)が困難な状況にうまく対処し、情報を得た上で判断しながら困難を乗り越えられるように支援する手法の一つです。

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