災害多発国インドネシアで取り組む防災 〜教室での気づきが、地域の「備え」に変わる〜

 1万7,000を超える島々からなるインドネシアは、地震や津波、洪水、土砂災害など、さまざまな自然災害のリスクにさらされています。日本赤十字社(以下、日赤)は、インドネシア赤十字社(以下、PMI)とともに、ジャワ島のスカブミ県とジャンバル県でインドネシア防災強化事業を進め、地域の人びとが自ら考え、行動し、災害に備えることができるように取り組んでいます。

 2024年11月に始まった3か年の事業は折り返し地点を迎え、後半の展開に向けて着実に歩みを進めています。6月に中間評価を行った際には、村や学校、ボランティアの意識や行動に変化が見られました。

 今回は、日赤インドネシア現地代表部(在ジャカルタ)に事業管理要員として派遣された釧路赤十字病院の長谷川看護師が、現地で出会った人びとと、そこで目にした「備え」の広がりについてお伝えします。

学校から各家庭に広がる防災教育

 2026年8月に、支援対象校である西ジャワ州スカブミ県のチサアット高校を訪問した際、通常行う防災の授業や活動に加えて、今回日赤が推進する防災セミナーの一つである「家具安全対策ゲーム(KAG)」を活用した防災ワークショップをトライアルとして行いました。KAGは、自宅の平面図を描きながら、地震の際に起こる家具の転倒や避難経路の妨害などのリスクを可視化し、身の安全を守るための対策を学ぶ教育プログラムです。生徒たちに自分の部屋を思い浮かべてもらい、災害時に起こり得る危険や必要な備えについて学んでもらいました。

 約90名の学生が参加し、「停電になっても避難しやすい部屋づくりが大切だと気づいた」「家具が倒れにくい工夫をすることで、けがを防げることを理解した」など具体的な感想が寄せられました。なかには「さっそく家に帰ったら家族と相談してみます」と話す生徒もいました。

 生徒たちが持ち帰った気づきは、家族との会話を生み、家具の固定や避難経路の確認といった実践につながっていきます。学校で芽生えた「備え」の意識が、一つひとつの家庭へと広がっていくことが期待されます。

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家具安全対策ゲーム(KAG)で発表する生徒

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チサアット高校での防災ワークショップの様子

着実に進む地域主体の防災

 村で防災の中心を担っているのは、「SIBAT(シーバット)」と呼ばれるPMIの村落防災ボランティアです。SIBATのメンバーは、防災・減災への理解を深めて、経験を積みながら住民に知識を普及し、村の防災計画の策定や避難経路の設定などの活動に取り組んでいます。

 2026年8月から9月にかけては、スカブミ県とジャンバル県で、SIBATが主体となって避難訓練を実施しました。住民が安全で円滑に避難する方法を考え、訓練後の振り返りまでを一連の活動として行いました。住民からは「SIBATは私たちにとって心強い存在なんです」という声も聞かれました。

 村にとってかけがえのない存在になりつつあるSIBATとPMI支部職員への聞き取りをもとに災害時に必要なヘルメットやメガホンなどの資機材をこの事業を通じて提供しました。知識や計画に加え、実際に行動するための道具を整えることも、地域の「備え」につながります。

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ジャンバル県ケパンジェン村での災害用備品の贈呈式

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スカブミ県チダダップ村のSIBATと協力して実施した避難訓練の様子

「Gotong Royong」助け合いは、もともとここにある

 SIBATへの聞き取りのなかで、何度も出てきた言葉があります。「Gotong Royong(ゴトン・ロヨン)」。インドネシア語で「相互扶助」「助け合い」を意味する言葉です。

 過去の災害についてSIBATのメンバーであるヌルイ ロハマンさんに尋ねると、「近所の人たちと協力しました」「みんなが大変な状況だったから、助け合えばもっと早く乗り越えられると思ったんです」と話してくれました。助け合いは、災害が起きてからあらためて呼びかけるものではなく、日々の暮らしのなかにすでにあるのです。

 この事業が担っているのは、すでにある助け合いの力に、「知識」と「技術」を足していくことです。一方で、学ぶべきものは日赤の側にもあると感じました。それは自分たちの村は自分たちで守るという、SIBATの熱意と行動そのものです。

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聞き取りに応じてくださったSIBATメンバーの
ヌルイ ロハマンさんと長谷川看護師

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ジャンバル県プジャクロン村のSIBATメンバー

忘れられない出会いが教えてくれたこと

 現地での活動中に忘れられない出会いがありました。アチェ州の洪水被害の災害対応視察同行(※)で出会った、被災中に妊娠し、厳しい生活環境のなかで出産を迎えた家族です。

 被災中は清潔な水の供給が途絶えていました。無事に生まれてくるのか、生まれた後も赤ちゃんの世話に必要な水を確保できるのか、など不安はずっと続いたといいます。それでも、訪問したとき、赤ちゃんはすくすくと育っていました。お母さんと赤ちゃん、2人の笑顔が忘れられません。

 災害が起こったときに失われるものは、家や田畑だけではありません。安心して眠る夜も、子どもを育てる日々も、そのすべてが揺らぎます。だからこそ、災害が起きる前の「備え」が必要です。

 インドネシアには現在約2億8千万人が暮らしていますが、国家開発計画省の推計では、 人口は今後も増えていくと見込まれています。一人でも多くの命を守るために、今進めている防災の取り組みは、インドネシアの人びとにとって欠かせないものであり続けるはずです。

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被災中に生まれた赤ちゃんと母親©PMI

インドネシア防災強化事業についてもっと知りたい方はこちらをご覧ください

インドネシア防災強化事業|活動実績|国際活動について|日本赤十字社

(※) 2025年11月末から12月にかけて、東南アジア各地で記録的な豪雨による災害が発生。インドネシアでは、スマトラ島のアチェ州などで洪水や土砂崩れが相次ぎ、広域にわたる深刻な被害がありました。

詳細はこちら:【NHK海外たすけあい】インドネシア洪水:日本赤十字社看護師が現地から報告、現地では「第二の津波」とも|トピックス|国際活動について|日本赤十字社

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