インドネシア防災強化事業:平時の備えが、未来のいのちを守る ~現地に派遣された日本赤十字社の看護師がインドネシアで見た「自分ごと」の防災~

 今回は、2025年11月から2026年3月まで日本赤十字社のインドネシア現地代表部(ジャカルタ)に派遣された、大阪赤十字病院の新井助産師・看護師の報告をお伝えします。

■災害の現場で感じたこと

 私が現地に派遣されていた2025年11月末、インドネシア・スマトラ島で大規模な洪水が発生しました。3州53県にもまたがる広い範囲で道路や橋が壊れ、通信や電気も途絶え、多くの人々が日常を失いました。現在は、発災から4か月が経過し、緊急対応から復興へと支援フェーズは移っていますが、被害が広域なことから、思うように復興が進んでいない現実もあります。インドネシア赤十字社は、きれいな水の供給や保健医療、生活再建支援など、さまざまな分野で支援を続けています。
 発災直後にインドネシア赤十字社とともに被災地を訪れたときに強く印象に残ったのは、人々が互いに支え合いながら懸命に生活を立て直そうとする姿でした。一方で、「災害が起きてからの支援だけでは足りない」ということも感じました。もし彼らが災害時にどう行動すればいいか知っていたら、減災の備えがなされていたら、発災後の支援体制がシステム化されていたら、防げたかもしれない被害が確かにありました。平時からの防災教育や備えの積み重ねが未来のいのちを守ることにつながる、その大切さを現場で実感しました。

(洪水被害に関するニュースはこちらから)

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洪水によって被害を受けた小学校。門が破壊され校庭や教室には土砂が蓄積している。©日本赤十字社

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発災当時の、避難所での聞き取りの様子現在も多くの被災者が避難所や仮設住宅での生活を続けている。©日本赤十字社

■学校や地域から広がる「備える力」

 日本赤十字社はインドネシア赤十字社と協力し、2024年から2027年にかけてジャワ島のスカブミ県とジャンバル県で学校や地域での防災力を高める取り組みを進めています。支援地の教員やボランティアへの研修を重ねながら、少しずつ活動の輪が広がってきました。
 2026年1月には、大きな防災・減災イベントが行われ、スカブミ県とジャンバル県あわせて20校、約1万人もの生徒と教員が参加しました。
このイベントの特徴は、「外から与えられたものではなく、現場の人たち自身が主体となって実施したこと」です。学校では先生たちが中心となり、地域ではボランティアが主体となって、準備から運営までを担いました。

■生徒たちが「自分ごと」として考え始めた

 学校でのイベントは、大きく4つの要素で構成されていました。
災害に関する授業、防災・減災の取り組みを広める「防災大使」の選出、防災・減災キャンペーン、そして避難訓練です。私が訪れた学校では、教室中に活気があふれ、「地震はなぜ起こるのか」「そのとき自分はどう動くべきか」などの先生の問いかけに対し、生徒たちは次々と自分の考えを書き出していました。
 防災大使は、中学校以上の各校から1〜2名が選ばれます。候補者たちは、今後どのような活動を行いたいかをスピーチし、審査員からの質問に答え、災害に関する知識を発表しながら、全校生徒の前で自らをアピールしていました。ある学校では、インドネシアのさまざまな伝統衣装を身にまとい、英語で堂々と演説を行う姿も見られました。
 防災・減災キャンペーンの内容は学校ごとに異なりますが、多くはポスターや動画のコンテストとして実施されていました。動画コンテストで優勝したクラスの生徒は、こう話してくれました。「最初は何を作ればいいか分からなくて難しかった。でも、災害のときにパニックになることが危ないと気づいて、それを伝えたいと思った。」彼らは、災害時に起こりうる危険と、その回避方法を自分たちで考え、映像として表現していました。そこにあったのは、「やらされている学び」ではなく、自分たちのいのちに関わることとして捉えた、真剣な 「『自分ごと』としての学び」でした。

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コンテストに向けてポスター制作をする学生。©日本赤十字社

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制作中のポスターについて話を聞いている日本赤十字社職員ら。©インドネシア赤十字社

 避難訓練について、本イベントを主導したスカブミ県のスチ先生は「以前は、防災訓練は「形式的なもの」として受け止められることも多かった。しかし今では、生徒たちが自ら友人を誘って練習したり、非常用持ち出し袋について質問したりするようになりました。学んだことを家に持ち帰り、家族に伝える生徒も出てきています。学校全体でも、役割分担が明確になり、避難経路や集合場所の確認が日常的に行われるようになってきました」と話してくれました。また避難の際に渡る橋の柵がなくて危ないといった、具体的な課題も見えてきました。知識だけでなく、行動や意識が少しずつ変わり始めています。

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避難訓練に参加する学生©日本赤十字社

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動画コンテストの上映©インドネシア赤十字社

■「支える」から「ともに進める」へ

 今回のイベントには上述のとおり約1万人もの生徒と教員が参加しました。しかし、この取り組みの本当の価値は、参加人数の多さだけではありません。インドネシア赤十字社の支部スタッフが前に立つのではなく、学校や地域の人々が自ら考え、動き、形にしていったその過程で、「自分たちの地域は自分たちで守る」という意識が育まれていったことです。
 災害は避けることができませんが、その被害を小さくすることはできます。その鍵となるのが、日常の中での小さな積み重ねです。学校での学び、地域での話し合い、一人一人の「もしも」の事態の想定、そうした一つ一つが重なり、いざというときに人々のいのちを守る力になります。インドネシアの学校と地域で始まっているこの変化は、まだ小さな一歩かもしれません。それでも確かに、未来へとつながる力として、着実に根づき始めています。

画像 スチ先生から話を聞く日本赤十字社職員 ©インドネシア赤十字社

■赤十字の取り組み

 インドネシアは自然災害が多発する国であり、人々の命と暮らしを守るための備えが欠かせません。日本赤十字社は、インドネシア赤十字社と協力して地域に根ざした防災事業を進めています。2024年からは、ジャワ島のスカブミ県とジャンバル県における学校での防災教育、村落での防災体制づくりに加え、インドネシア赤十字社の事業実施基盤の強化にも取り組んでいます。こうした活動を通じて、地域コミュニティのレジリエンス(回復力)向上を目指しています。

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