ウクライナ人道危機:赤十字の緊急救援と中長期支援

 2022年2月24日にウクライナにおける武力紛争が激化してから、今月24日で1年4か月が経ちました。推計で今も826万人が国外に逃れ、509万人が国内で避難している一方で、476万人が元居た地域に帰還しています(2023年5月現在、IOM)。南東部の戦線では現在も戦闘が激化し、キーウなどへの各都市へのミサイルやドローン攻撃は今も断続的に発生していますが、現地では人びとが武力紛争と共に日常生活を送っています。
 今回は、日本赤十字社の国際救援課でウクライナ人道危機への支援調整を担当している松山勇樹職員より、最近の現地の様子についてお伝えいたします。

日常生活の中の武力紛争

 私は先月から今月にかけて主にウクライナ赤十字社への支援調整のために首都キーウや中部の都市ヴィンニツァ等を訪問しました。キーウへの訪問はこの一年余りを通じて今回で4回目となります。現在のキーウの街の雰囲気を一言で表すのは容易ではありませんが、昨年夏に初めてキーウを訪れた時に比べると、より多くの人が通りを歩いたり、公園やベンチで話をしたり、カフェやレストランでくつろいでいます。特に、武力紛争激化から一年が過ぎ、電力インフラ等への攻撃が相次いだ厳しい冬を何とか乗り切った後の今春頃からは街の雰囲気はとても明るく賑やかになりました。

 一方でミサイルやドローンによる攻撃は今も断続的に発生していて、人々は武力紛争と隣り合わせの日常生活を送っています。南東部の戦線に近い地域では今もなお状況はより深刻です。特に今月上旬に発生した南部へルソン州のカホウカ水力発電所ダムの決壊が及ぼす影響は甚大で、数千人が避難し、数十万人の住民や農地への給水が喫緊の課題となっています。赤十字は、地元のウクライナ赤十字社を中心に、救援活動をはじめ、被災者への中長期的な支援活動にも注力しており、日本赤十字社も現地の活動を資金援助しています。

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ダム決壊対応にあたるウクライナ赤十字社スタッフたち。
日本赤十字社が支援するイヴァノ=フランキウスク州支部の巡回診療チームも発災直後に西部から被災地に駆けつけ避難者の診療活動にあたった。©URCS

中長期化する人道危機を見据えて

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 赤十字は、そのような緊急救援活動に日々対応しつつ、ウクライナ赤十字社が中心となって3か年計画『URCS ONE PLAN 2023-2025』を策定し、復興や開発といった中長期的な取り組みにも着手しています。この3か年計画は、国際赤十字のみならず、国連機関や各国政府、他NGOとの協働も想定されており、これに基づき先月キーウのウクライナ赤十字社本社では、各国大使館との意見交換会が開催されたり、世界保健機関(WHO)を招いて保健分野に関するワークショップが行われたりしています。 

 日本赤十字社もこの3か年計画に沿って、ウクライナ赤十字社のリハビリテーション部門を中長期的に支援するとともに、中部ヴィンニツァ州において「ウクライナ赤十字社コミュニティセンター」を開設し、地元行政や他機関と協働しながら、コミュニティレベルの中長期的な人道支援を展開していくパイロットプロジェクトも支援しています。

ウクライナ赤十字社と日本赤十字社がつむぐ助け合い

 最後に、今回私が初めてヴィンニツァを訪問した時のことですが、地元のウクライナ赤十字社支部長のセルジーさんが「私は2011年の東日本大震災の際に日本赤十字社を訪問したウクライナ赤十字社代表団の一人なんですよ!」と言いながら当時の書類や写真を嬉しそうに見せてくれました。ウクライナ赤十字社と日本赤十字社は、これまでに2011年の東日本大震災のみならず、1986年のチョルノービリ原子力発電所事故、更には1923年の関東大震災の際にも、お互いに支援し合ってきました。今は私たち日本赤十字社がウクライナ赤十字社を支援する時ですが、今後来る次の日本での大災害時にはきっとウクライナの人びととウクライナの赤十字社が支援してくれると信じています。

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ウクライナ赤十字社ヴィンニツァ支部長のセルジーさん(中央)と本社のソフィアさん(右)

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セルジーさんは2011年東日本大震災時に東京の日本赤十字社本社を訪問した際の写真を大切に保管している。

 日本赤十字社は引き続き「ウクライナ人道危機救援金」を募集しています。
 皆さまご支援のほどよろしくお願いいたします。

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