世界難民の日イベント報告:社会の原動力とは?世界の難民・避難民と私たち

毎年6月20日は世界難民の日です。難民・避難民の保護と支援に対する世界的な関心を高め、国連機関やNGOによる活動に理解と支援を深める日にできれば、ということで国連総会の決議により制定された日です。紛争や迫害から逃れるために故郷を離れなければならなかった人々の苦難に共感し、理解を深める機会であり、彼らが新たな生活を築く中で示す忍耐力や、コミュニティや社会への多様な貢献を認める日でもあります。難民・避難民について皆様と考える機会になればと、6月13日(火)に開催したウェビナーについてご報告します。

レバノンやガザ地区に暮らすパレスチナの人々

パレスチナの人々は故郷を追われてから75年・約4世代にわたり、パレスチナ自治区、ヨルダン、シリア、レバノンといった周辺国・地域で暮らしています。その数655万人(2022年時点UNRWA)で世界の難民の約5人に1人がパレスチナ難民です。仮暮らしと思って住み始めた限られた土地で長い間制限された生活を余儀なくされています。「キャンプ」と呼ばれる難民が暮らすエリアは、都度建て増しや追加の電気配線、上下水道工事を繰り返していることもあり、さらには人口密度も高く、生活環境が良いとは言えない状況です。各国の政治情勢によって、パレスチナ難民の身分や社会的地位は常に不安定で、自由な移動ができない状況です。それはパレスチナの医療者にとっても同じで、日々進んでいく医療技術の習得の機会を持つことが難しいことを意味します。こうした状況を踏まえ、日赤はレバノンのパレスチナ難民キャンプ内やパレスチナ自治区内のガザにあるパレスチナ赤新月社が運営する病院に対して医療技術支援を行っています。病院で働くスタッフ自らもパレスチナ難民ですが、難民が難民に対して、より質の高い医療を提供出来るよう日々努力しており、彼らをサポートするのが日赤の役割です。カウンターパートの医師・看護師は「医療・看護の質の向上は私たちの患者さんのためになります」「緊張と不安が絶えない地域で暮らす我々にとって日本からの支援はとても貴重なものです」と語っています。パレスチナ難民の医療者も自らが周囲の助けとなるよう行動し、また彼らについて遠くから思いを馳せてくれる人たちがいることに望みを持ってくれています。

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日赤看護師による心肺蘇生法のトレーニングの様子©日本赤十字社

中東人道危機救援事業(日赤ホームページ)

バングラデシュ南部 避難民キャンプに生きる人々

2017年8月、ミャンマー・ラカイン州における暴力から逃れるため、多くの人が隣国バングラデシュ南部に避難しました。まもなく6年目を迎える現在も約93万人(5/31時点UNHCR)が暮らす避難民キャンプは、密集した居住地が広がる一方で、露店や雑貨店、喫茶店、食堂が並び、すでに大きな街の様相を呈しています。

そこで生きる避難民は、災害などのリスクやキャンプ外への移動制限といった生活する上での困難や課題と向き合いながらも、日々の生活や毎日のささやかな楽しみを家族や周囲の人たちと大切にしながら暮らしています。友人たちと貴重な息抜きの時間であるサッカーの試合を楽しんだり、ラマダン明けの祝祭に普段よりも手の込んだ料理を準備して晴れ着を着てお祝いをしたりします。彼らはまた、地元のバングラデシュ赤新月社とともに自らがボランティアとなり、キャンプに住む人たちに寄り添い、その声に耳を傾けることで支援が必要な人たちの生活をサポートしています。彼らの姿からは、避難民が支援を待つ受け身の人たちではなく、自分の住むコミュニティが抱える課題や問題に自ら前向きに取り組む力強さを感じさせます。

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バングラデシュ南部のキャンプで暮らすミャンマーからの避難民の家族©AmeRC

バングラデシュ南部避難民保健医療支援事業(日赤ホームページ)

ウクライナ人道危機 複雑な背景や思いの中懸命に生きる避難民

2022年2月24日を境にウクライナ各地で激化した武力紛争により、多数の犠牲者が発生し、建物やインフラの破壊で市民生活にも甚大な影響が出ています。ウクライナ人道危機の深刻化からまもなく1年4か月が経過しますが、現在も多くの人々が安全を確保するためウクライナ国内外への避難を余儀なくされています。「ウクライナ人道危機」と「避難民」について特筆すべきことは、その数の多さです。流動的ではあるものの、現在もウクライナ国内外へ避難している人の数は推定1,300万人以上(国内避難民:540万人1/23時点IOM、国外避難民820万人 5/23時点UNHCR)とされていて、その規模は東京都の総人口に匹敵します。

そんな避難民の暮らしは、部屋を間借りするようなものから、状況が厳しいところではベッドが何台も並ぶような避難所での生活まであります。プライバシーが十分守られているとは言えない環境の中、新しい日常に適応しようと必死に生きる姿、また、誰かのためにできる限りのことをしようと避難民ボランティアとして活動するなど、強く生きる姿があります。家族を残して故郷を離れた人、言語の違う国へ避難した人など、避難民は不安、寂しさ、トラウマなどの複雑な思いを抱えながらも、住む場所や仕事のことなど、現実的な決断を繰り返し、懸命に生きています。私たち赤十字はそんな避難民の苦しみや懸命に前を向く姿に寄り添い、暮らし・健康・尊厳を守る支援を続けていきます。

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ウクライナから避難し、ハンガリー赤十字社の運営する避難所で生活するアリッサさん©IFRC Corrie Butler

ウクライナ人道危機救援事業(日赤ホームページ)

難民・避難民という言葉を耳にすると、どこか遠い国の過酷な環境に生きる人々のイメージが先行しがちですが、彼らはただ外からの支援を待っている人たちではありません。苦しい状況にあったとしても彼らの日々の生活や家族、周囲の人たちを大切にし、貢献しよう、前向きに生きよう、という気持ちは私たちと変わるものではありません。彼らの持つ力強さこそが社会を動かす原動力になっているとともに、私たち一人ひとりの理解や関わりが彼らの支えとなり、社会を動かす力となっていきます。

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★世界難民の日イベントのウェビナー動画はこちらからご覧いただけます!

日赤国際活動のインスタグラムでは世界難民の日イベントと連動して6/13()から6/30()まで、関連写真を毎日投稿しています。ぜひ覗いてみてください! ハッシュタグでも検索できます: #世界の難民と私たち

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