ウクライナ人道危機 人びとの命を守る最前線 ~ウクライナ赤十字社緊急対応チームの活動~

傷病者への応急手当の訓練を行うウクライナ赤のERT隊員 🄫URCS
ロシアとウクライナ間の武力紛争が激化してからすでに4年半が過ぎましたが、ウクライナでは、現在も全国各地でミサイルやドローンによる被害が発生しています。こうした紛争の影響下では、負傷した人びとへの救助だけでなく、交通事故や自然災害など、日常生活の中でも緊急対応が求められる場面も少なくありません。その最前線で活動しているのが、ウクライナ赤十字社(以下、ウクライナ赤)の緊急対応チーム(ERT:Emergency Response Team)です。今回は、日本赤十字社(以下、日赤)ウクライナ現地代表部で首席代表を務める喜田たろう職員から日赤も支援しているERTの活動について報告します。
■ 武力紛争下での緊急対応チームの役割
ERTは、ウクライナ国家非常事態庁をはじめとする関係機関と連携しながら、応急手当や傷病者の搬送、避難支援、厳冬期の支援など、地域の人びとの命と安全を守る活動を続けています。例えば、空襲による被害で避難を余儀なくされた際には、特に高齢者や障がいのある人など、自力で避難することが難しい人びとの避難支援や、負傷した人への応急手当を行います。ERTの活動は、武力紛争によって被害を受けた人びとへの対応だけではありません。交通事故や火災、洪水などの自然災害への対応も重要な役割です。ERT隊員の多くはボランティアですが、こうした活動には、高い専門性に加え、関係機関との円滑な連携が欠かせません。ERTは日頃から訓練を重ね、いつ起こるか分からない緊急事態に備えています。日赤は、主にウクライナ西部地域のザカルパッチャ州とイヴァノ=フランキウスク州でのERTの活動を支援しており、救急車や資機材の整備に加え、隊員の育成や訓練を支えています。
■ 全国のERTが集い、互いに学び合う
2026年7月末、西部地域のフメリニツキー州でウクライナ赤のERT全国訓練が開催され、全国から24チーム、約200人の隊員が集まり、3日間にわたって訓練や経験共有が行われました。訓練では、傷病者への応急手当や搬送、救護資機材の使用方法の確認、市民や要配慮者の避難・誘導、無線通信や救助犬を活用した捜索活動など、実際の災害現場を想定した実践訓練が繰り返し行われ、隊員たちは緊張感のある雰囲気の中で、それまでに学んだ技術をもとに、一つひとつの判断や行動を確認していました。

全国訓練に集まったウクライナ赤ERT 🄫URCS
国土が広いウクライナは地域によって地形や人口、発生する緊急事態が異なるため、各ERTはそれぞれ異なる経験を積み、専門性を高めています。山岳地域では冬山での遭難者救助、水辺の多い地域では水難救助、戦闘の前線に近い地域や都市部では多数傷病者の救助や搬送など、それぞれの地域で培った知識や技術を紹介し、隊員同士が互いに学び合いました。全国訓練では、技術を学ぶだけでなく、各チームがこれまでの活動実績や課題を発表する時間も設けられ、空襲への対応や救急搬送、避難支援など、地域ごとに異なる経験が共有されるたびに、参加者から多くの質問や意見が寄せられ、活発な議論が交わされました。
普段は各地で活動する隊員が一堂に会し、互いの経験から学び合う機会は多くありません。成功事例だけでなく、困難な事例や改善点も率直に共有する姿勢からは、「一人でも多くの命を救いたい」という共通の思いが伝わってきました。今回の全国訓練は、単なる訓練の場ではなく、全国のERTが互いに学び合い、ウクライナ赤全体の緊急対応能力を高める貴重な機会となりました。
救護資機材の使用方法を学ぶERT隊員 🄫URCS
傷病者を救急車へ搬送する訓練 🄫URCS
■ 支援を受けた一人が、今度は支える側へ
今回の訓練で出会った一人のERT隊員の姿は、とても印象的でした。オレクサンダーさんはウクライナ北東部の前線での従軍中に重傷を負い、左足を切断しました。その後、ザカルパッチャ州へ医療搬送され、赤十字をはじめとする多くの支援を受けながら懸命にリハビリに取り組みました。そして現在、彼はザカルパッチャ州のERT隊員として活動しています。
全国訓練の総合演習では、自身の負傷した経験をもとに自ら模擬患者役を務めました。彼を傷病者役として救護・搬送することで、ERT隊員たちはより現実に近い状況を想定した訓練に取り組むことができました。彼は、「ERTの活動は体力的にも精神的にも厳しく、いつまで続けられるか分かりません」と率直な思いを話してくれました。それでも、「新しいことに挑戦しながら、一人でも多くの人の役に立ちたい」と前向きな表情で語る姿が印象的でした。かつて支援を受けた一人が、今は誰かの命を守るために活動している。その姿は、赤十字の支援が単に物資や資金を届けることだけではなく、人びとの希望や生きる力を育み、新たな支援へとつながっていくことを象徴しているように感じました。
今回、日赤が支援するザカルパッチャ州とイヴァノ=フランキウスク州の隊員たちが、全国のERT隊員とともに真剣に訓練に取り組み、経験を共有する姿を目の当たりにしました。日本からの支援は、救急車や資機材を提供することだけではありません。こうした訓練や人材育成を通じて、地域に根差した対応能力を高め、人びとの命を守ることにもつながっています。

訓練で模擬患者役を務めたオレクサンダーさん(左)と日赤ウクライナ現地代表部の喜田代表 🄫URCS

ERT隊員として活動するオレクサンダーさん(右から三人目) 🄫URCS
ザカルパッチャ州とイヴァノ=フランキウスク州のERT隊員 🄫URCS
武力紛争が長期化する中で、ウクライナ赤のERTは全国各地で活動を続けています。赤十字は人びとの日々を支えるための支援を今後も続けるとともに、いまだ終わりの見えない武力紛争と並行して進む復興への支援も進めてまいります。引き続きウクライナ人道危機へご関心をお寄せいただくとともに、「ウクライナ人道危機救援金」へのご協力をどうぞよろしくお願いいたします。