災害・感染症の現場を支える保健人材の育成~小笠原看護師によるジュネーブからの報告~

 世界各地で頻発・複雑化する災害や感染症、紛争などの人道危機に対応するため、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)は各国赤十字・赤新月社と連携し、保健・医療活動の支援や、地域のレジリエンス(回復力)を高める取り組みを進めています。
 日本赤十字社和歌山医療センターの小笠原佑子看護師は、現在、IFRCジュネーブ事務局の緊急保健部門に派遣されており、災害時の保健活動の支援に取り組むとともに、より質の高い医療と公衆衛生支援の実現に向けたガイドライン作成や人材育成にも携わっています。
 今回、小笠原看護師から現地での活動報告が届きましたので、ご紹介します。

画像 2026年4月にケニア・ナイロビで開催された保健医療コーディネーター育成(EHCA)研修©IFRC

災害現場を支える「保健医療コーディネーター」

 災害や紛争などの緊急事態が起きた際、最初に現場に駆けつけるのは地元の赤十字・赤新月社のスタッフやボランティアです。しかし、被害が甚大な場合には、被災国赤十字社からの支援要請に基づき、IFRCの調整のもと、世界中から人材や専門サービス、資機材を迅速に動員する仕組み(Surge[1])があります。
 この仕組みには、短期で派遣される専門人材(緊急対応要員)や、緊急対応ユニット(ERUs:Emergency Response Units)などがあり、大規模災害でも迅速かつ質の高い支援を可能にし、一人でも多くの命を救うことにつながっています。
 こうした緊急対応の中で重要な役割を担うのが、「保健医療コーディネーター」です。IFRCが緊急対応要員を対象に行っている教育は多岐にわたりますが、今回は保健医療コーディネーターの育成を目的に実施しているEHCAEmergency Health Coordination and Assessment)研修をご紹介します。
 では、保健医療コーディネーターとはどのような役割を担うのでしょうか?災害や感染症の流行など緊急対応が必要な現場において、赤十字の保健医療分野に関する活動計画を策定・調整し、その質を確保する役割を担います。被災国の赤十字社と共に、医療や公衆衛生を含む対応の方向性をリードするため、高い専門性と豊富な経験に加え、判断力やコミュニケーション力も求められます。大きな責任を伴う重要なポジションです。

[1] 詳細はこちらのリンク参照(英語)

画像 参加者の経験をもとに活発な議論が行われるグループディスカッション(EHCA研修)©IFRC

アフリカでの研修実施

 2026年4月末、IFRCはノルウェー赤十字社の協力のもと、EHCA研修をケニアのナイロビで開催しました。
 アフリカ地域では、感染症や栄養不良などによる健康課題が深刻であり、流行性疾患の影響も大きいです。そのため、赤十字・赤新月社の活動の中でも、保健医療分野の緊急対応のニーズが特に高く、資金面やSurgeでの支援が続いています。こうした背景から、地域内で保健医療コーディネーターを育成し、対応力を高めることを目的として、今回の研修が実施されました。
 9日間にわたる研修には、25名が参加し、うち約7割がアフリカ地域の赤十字・赤新月社やIFRCからの参加者でした。募集枠を大きく上回る100名以上の応募があり、この地域でのニーズと関心の高さがうかがえます。
参加者の多くは現場経験が非常に豊富で、IFRCや国連関係の緊急支援に携わった経験を有しており、グループワークやディスカッションでは、実体験に基づいた活発で深い議論が交わされました。
 研修前半では、保健医療コーディネーターに必要な知識やツールを講義形式で学びます。そして後半では、講義で得た学びをもとに約2.5日間にわたるシミュレーション演習を実施しました。実際の緊急事態さながらに、昼夜を問わず新たな情報が提示される中、参加者は限られた時間で状況分析やアセスメント、活動計画の立案、プレゼンテーションを行います。実際の現場さながらの緊張感の中で、実践力を養う非常に実用的な内容となっています。

画像 EHCA研修の運営を担う小笠原看護師(写真左)©IFRC

「誰も取り残さない」ために

 赤十字の活動は、世界中のボランティアによって支えられています。
 緊急時においてもその力を最大限に活かし、「誰も取り残さない支援」を実施するためには、全体を見渡し、適切に方向づけるコーディネーターの舵とりが欠かせません。
 人材育成には時間と経験が必要ですが、この研修で参加者が踏み出した第一歩が、将来の現場で人びとを救う大きな力になると信じています。
 研修終了から約10日後、アフリカ地域でエボラ出血熱が再び猛威を振るっているという一通のメールが飛び込んできました。ほどなくして、そのニュースは世界中をかけ巡り、WHO(世界保健機関)はこれを「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と位置づけました。IFRCもジュネーブ事務局と地域事務所が一丸となって、現地の赤十字社とともに全力で対応を進めています。
 また、今回の研修に参加したメンバーの中には、すでに現地に派遣され、第一線で活躍している人がいます。その知らせを受け、今回の研修運営に携わった者としては、胸が熱くなる思いがありました。

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