ウクライナ人道危機 ~リハビリ支援を通して聞こえてくる人びとの声~

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リハビリ普及のためのトレーニングで技術指導を行う平野亨子理学療法士(写真中央右)🄫URCS

 日本赤十字社(以下、日赤)は、2022年にロシアとウクライナ間の武力紛争が激化して以降、武力紛争の影響を受けた人びとに対してリハビリテーション(以下、リハビリ)支援を行っています。日赤は、これまでに理学療法士3名をウクライナに派遣して技術支援を行ってきました。今回は今年2月から3月にかけて首都キーウで活動した武蔵野赤十字病院の平野亨子(ひらの・きょうこ)理学療法士から、現地の様子や活動について報告します。

■ 武力紛争の中での人びとの生活

 ウクライナでの武力紛争が激化してからすでに4年が過ぎました。現在も多くの人びとが支援を必要としていますが、日本では報道される機会が少なくなり状況が見えにくくなっています。現地では、先の見えない生活が今もなお続いています。私は2024年に初めて派遣され、今回が2回目の派遣となりました。今回とくに印象に残ったことは、前回と比べて人びとの疲労感がかなり強くなっていたことです。武力紛争の中でも人びとは生活を続けていますが、その負担は確実に蓄積していると感じました。キーウにあるウクライナ赤十字社(以下、ウクライナ赤)の事務所では、一緒に働いているスタッフの一人とよく話をしました。彼女には4歳と6歳の子どもがいて、夫は武力紛争が始まってから軍に入ったそうです。まだ小さな子どもたちが毎晩「パパはいつ帰ってくるの。大丈夫なの」と聞いてくることが一番つらいと話してくれました。

 今年の冬の寒さはとくに厳しく、気温がマイナス20度まで下がる日もあった中、電力施設への攻撃によって人びとは停電が続く生活を強いられていました。電気が使えるのは1日に数時間だけのこともあり、その間に充電、料理、洗濯を済ませなければなりません。夜に空襲警報が鳴ると、子どもたちと小さな部屋に移動して身を寄せ合って長い時間を過ごすという生活が続きます。彼女は「この生活をいつまで続けられるか分からない」と不安を口にしていました。

■ ウクライナでリハビリが普及するための課題

 このような厳しい生活が続く中で、リハビリを必要とする人びとも多く存在します。しかしウクライナ赤の理学療法士からは、リハビリの提供が思うように進まないこともあるという話を聞きました。その背景には、武力紛争による自分自身のストレスや障がいを受け入れることの難しさがあります。「人は強くなくてはいけない」、「弱さを人に見せてはいけない」といった価値観が社会に根づいており、とくに男性や高齢者のなかには、支援を受けることに抵抗を覚える人もいます。このような心理的な要因がリハビリに影響を及ぼしていると感じました。また、ウクライナではリハビリ専門職の数が限られているため、リハビリを必要とするすべての人に専門的な支援を届けることが難しいのが現状です。

■ 地域でのリハビリを普及させるための活動

 このような背景のなかで、今回私が実施した活動は、リハビリ専門職だけではなく、資格を持たないスタッフでも安全に行えるリハビリの知識を広めるためのトレーニングでした。例えば、脳梗塞後の生活管理や転倒予防、歩行補助具の使い方など、日常生活の中で役立つ内容を中心に、専門職でなくても安全に実施できる範囲を明確にしながら伝えました。今回のトレーニングには、ウクライナ全土からスタッフが集まりましたが、彼らがそれぞれの地域に戻って、さらに地域の人びとへ知識を広めていく仕組みになっています。

 実際にトレーニングを実施してから数日後には、一部の州では同様のトレーニングがすでに行われており、一般の人びとからの反応も良かったと聞きました。単に知識を伝えるだけでなく、ウクライナ赤のスタッフ自身が継続して実施できる仕組みを作ることで、支援がタイムリーに地域へ届いたことは大きな意義があったと感じています。リハビリの専門職の人数が限られている中でも、地域の中で支え合い、安全性を保ちながら、より多くの人にリハビリの考え方や予防の知識を届ける。このような仕組み作りこそが、今のウクライナに必要とされている支援の一つではないかと考えています。

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トレーニングを受けるウクライナ赤のスタッフ 🄫URCS

 今回一緒に働いたウクライナ赤の理学療法士の一人に「あなたにとってリハビリテーションとは何ですか」と尋ねたことがありました。彼は少し考えた後、「一般的にはからだの回復を意味するけれど、自分にとってはこのウクライナという国そのものです」と答えてくれました。「住宅が破壊されたり、電力やインフラが止まったりすると、まるで身体の一部がまひしたような状態になることもあります。それでも人びとは、自立しようと前に進もうとしています。だから自分も苦しい状況の中でも前に進もうとしているのです」と話してくれました。この言葉を聞いたとき、リハビリテーションとは単にからだや心を回復することだけではなく、人や社会が再び立ち上がっていくプロセスなのだと感じました。その歩みを専門的な知識と経験で支えていくことが、日本からできる支援の一つではないかと感じています。

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トレーニングで技術指導を行うウクライナ赤の理学療法士(写真中央) 🄫URCS

赤十字は人びとの日々を支えるための支援を今後も続けていくとともに、いまだ終わりの見えない武力紛争と並行して進む復興への支援も進めてまいります。引き続きウクライナ人道危機へご関心をお寄せいただくとともに、「ウクライナ人道危機救援金」へのご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

ウクライナ人道危機救援金

受付期間:2022年3月2日(水)~2027年3月31日(水)

使途: 国際赤十字・赤新月社連盟、赤十字国際委員会、および各国赤十字・赤新月社が実施する、ウクライナでの人道危機対応およびウクライナからの避難民を受け入れる周辺国とその他の国々における救援活動を支援するために使われます。

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