モンゴルで広がるこころのケアと救急法 ― 人びとの支え合う力を育てる2年目の歩み
広大な草原と遊牧文化の中で暮らすモンゴルの人びとにとって、過去に例を見ないほどのゾド(厳しい寒さと雪で人びとの暮らしが脅かされる災害)や都市部への移住の増加など、厳しい自然環境や社会の変化は、日々の暮らしに多大な影響を与えています。災害や事故、こころの不調などの困難に直面した時、自分の回復方法を知っているか、地域として対応するための備えがあるかが、その後を大きく左右します。
2026年ゾド・リスクマップ-被害は国土全域に予測されている(水色から赤になるにつれて高リスク) © モンゴル国国家非常事態庁(NEMA)
こうした課題への対応力の強化を目指し、日本赤十字社はモンゴル赤十字社(以下、モンゴル赤)と連携し、「救急法の普及」と「こころのケア(不安やストレスを抱える人への支援)」の体制強化を柱とした3か年事業を2024年から実施しています。
本事業では、モンゴル赤の職員やボランティアの能力強化を通じて、地域の人びとが互いに支え合い、いのちと健康を守る仕組みづくりを進めてきました。
この記事では、2025年度に1年間リモート派遣として事業を支援した、日本赤十字社和歌山医療センター林要員の視点から、事業2年目の活動成果や中間モニタリングで見えてきた手応え、そして3年目に向けた期待について紹介します。
2年目活動成果:モンゴル各地で広がるこころのケアと救急法の取り組み
2年間かけて普及してきた救急法やこころのケアが、モンゴル赤各支部の主体的な活動として、それぞれの地域に定着したことは、大きな成果でした。
この事業が始まる前から、モンゴル赤では、行政機関や学校、民間企業を対象とした救急法研修を支部ごとに広く展開していました。しかし、今回の事業で救急法の知識や技術を再確認し、統一ガイドラインを配付したことで、各支部における新たな指導員の育成や、より正確な救急法の定着に大きく貢献することができました。
支部が実施する救急法研修。指導員(写真左)は元学校教諭で、研修とガイドラインを通じて救急法の知識を深め、自信を持って研修を実施できていると話す。
一方、こころのケアは、モンゴル赤の活動の中では比較的新しい取り組みですが、既存の活動に組み込む形で徐々に定着してきています。2025年に実施したこころのケア研修には、モンゴル全域から、モンゴル赤の支部担当者が参加しました。研修で学んだ心理的応急処置やストレスマネジメントなどの知識は、各支部の活動現場で広く活用されています(2025年こころのケア研修の様子はこちら)。
小学校で、障がいがある子どもの保護者向けセッションを実施する支部職員。保護者は、心理的応急処置の考え方を取り入れた子どもへの接し方や、自身のセルフケアを学ぶ。
本事業では、悩みや困りごとを安心して相談できる専用の部屋(こころのケアルーム)の設置も進めています。支部のこころのケアルームは、地域に住む子どもや高齢者、障がいのある人、一人親家庭などを対象に、個別支援や、グループ活動の場を提供しています。
2025年11月、中間モニタリングで見えた2年目の結果
本事業の中間モニタリングでは、各支部が、限られた人員の中、工夫を重ねながら、地域に寄り添った活動を展開しているのを目の当たりにしました。スタッフやボランティア同士が経験を共有し、学び合う姿も印象的でした。本事業の取り組みが支部スタッフやボランティアを通じて支援を必要としている人びとに届いているという確かな手応えを感じると同時に、これからの課題も明らかになりました。
支部の担当者より、研修内容の説明を受ける日赤職員。こころのケア研修で配付した資料が効果的に使用されていた。
救急法やこころのケアの知識が定着し、応用力をつけながら継続的に活用されていくためには、定期的な研修や実践の場が必要です。
また、こころのケアについては、各支部がそれぞれの活動に取り入れた結果、「子どもへの対応を学びたい」「困っている人への対応に迷う」など、より専門的で深い知識を学ぶ機会を求める声が上がりました。さらに、こころのケアルームでの支援へのニーズは高いものの、距離や交通の問題で利用しづらい地域があることもわかりました。
支部のこころのケアルームにて、移住者を対象にした籠作りセッション。参加者は手仕事で心を落ち着け、交流や地域情報の取得の場としても活用している。
事業最終年の展望
3か年の最終年となる2026年度は、これまでの成果を一時的なものに終わらせず、地域の中で持続的に生かしていくための基盤づくりとして、モンゴル赤本社や支部の職員自身が中心となり、次の担い手を育てながら、学びや実践を地域の中で循環させていくことを目指します。
また、中間モニタリング結果を踏まえ、子どもや困難を抱える人へのこころのケアなど、より実践的な研修の実施や、こころのケアルームの環境整備が計画されています。
人びとが互いを支え合い、安心して暮らせる地域にするための取り組みは、これからもモンゴル各地へ広がっていきます。
支部のボランティアが配付する物資について説明する支部長(写真左)。地域から寄付された米や小麦粉、生活物資などを常時一定量確保し、支援が必要な家庭に定期的に配付している。