パレスチナ:困難な場所へ希望を届ける ~パレスチナ赤新月社 リハビリテーション支援の現場から~

長引く紛争や厳しい移動制限が続くパレスチナ。ガザ地区やヨルダン川西岸地区では、けがや障がいを負った多くの人びとが、医療やリハビリテーションを必要としています。日本赤十字社は2026年1月からガザ地区およびヨルダン川西岸地区において、パレスチナ赤新月社(パレスチナ赤)のリハビリテーション事業の支援を開始しました。今回は、現地からの声をお届けするため、パレスチナ赤本社リハビリテーション部長のビラール・タヘル氏に取り組みについて聞きました。

戦火の中で生まれた「回復を支える活動」

パレスチナ赤のリハビリテーション活動は、1984年にレバノン戦争下のパレスチナ難民キャンプで始まりました。当時、多くの人が重いけがを負いながらも、回復を支える仕組みはほとんどなく、いのちは助かっても、元の生活に戻れない人が多くいました。その後、活動はガザ地区やヨルダン川西岸地区へと広がるとともに、理学療法クリニック、障がいのある子どもたちのための教育施設や専門人材を育成する大学の設立へと発展し、40年以上にわたり、人びとの回復と尊厳を支え続けてきました。現在では、毎日約500人の子どもたちが通う総合リハビリテーションセンターも運営し、身体機能・感覚機能・言語機能の回復だけでなく、学びや社会参加まで包括的な支援を行っています。

「必要な医療を届けるのが難しい」という現実

リハビリテーション活動は常に厳しい制約の中で行われています。ガザ地区では、国境管理の影響により、医療消耗品、義肢装具、補助器具の製造資材といった、リハビリテーションに欠かせない物資の搬入が大きく制限されています。その結果、装具を必要とする人びとが十分な支援を受けられていないのが現状です。ヨルダン川西岸地区では、検問による移動制限や治安の悪化、経済的困窮が重なり、既存の施設に「通うこと」自体が大きな壁となっています。リハビリテーションは1回で終わるものではなく、継続的に通う必要がありますが、多くの人にとって、それが非常に難しいのです。

移動式リハビリテーションという選択

そんな中、パレスチナ赤が力を入れているのが、移動式リハビリテーションチームの活動です。この活動では、センターに通えない人びとのもとに医療スタッフが直接出向き、支援を届けています。活動内容は以下の通りです。

  • 子どもの障がいや発達の遅れの早期発見
  • 理学療法・作業療法・言語療法
  • 車いすなどの移動補助具、補聴器の提供・調整
  • 家庭訪問による家族への助言や心理的支援
  • 障がいの理解や権利についての啓発活動

支援の場は、自宅だけでなく避難所や地域の集会所、時には屋外になることもあります。スタッフは、厳しい環境の中でも「必要とする人がいる限り現場に行く」ことを使命として活動を続けています。

小さな気づきが、回復と未来をつなぐ

特に印象に残っているのは、地域で子どもたちの健康チェックを行っていた際の出来事です。ある子どもの顔色の悪さや浅い呼吸にスタッフが気づき、母親は「特に問題はないと思っていた」と話していたものの、詳しい検査を勧めた結果、先天性の心臓疾患が判明しました。すぐに専門医を紹介し、適切な治療を受けられたことで回復し、今では元気に学校へ通っています。もしあの時、気づかなければ、いのちを落としていたかもしれません。早期の発見と支援は、人生そのものを変える力があります。この事業の目的は、単に身体機能を回復させることだけではなく、リハビリテーション、救急医療、メンタルヘルス支援、地域サービスが途切れることなく連携し、人びとが再び社会とつながり自分らしい生活を送れるようにすることです。そのために、ボランティアの育成にも力を入れ、次世代へ知識と経験を受け継ぐことで、社会全体の「回復力」を高めていくことを目指しています。

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聴覚障がいのある子どもに補聴器を装着するパレスチナ赤のスタッフ©PRCS

日本の皆さまへ

皆さまのご支援は、特に子どもたちの人生に大きな変化をもたらしています。早い段階で受けられるリハビリテーションは、その子の未来そのものを支えます。心から感謝しています。 

皆さまからのご寄付は、医療が届きにくい場所で回復への希望をつなぐ、確かな力となっています。一人一人の尊厳と未来を支える活動へのご支援を、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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パレスチナ赤リハビリテーション部長のビラール・タヘル氏©PRCS

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