レバノン:現場に寄り添う実地指導で、診療の力を高める
日本赤十字社は2018年から、パレスチナ赤新月社レバノン支部が運営する5つの病院への医療支援事業を行ってきました。情勢悪化により一時中断を余儀なくされた医療従事者の派遣ですが、安全状況を見極めながら、2025年7月に続き、12月に今年度2人目となる医師の派遣が実現しました。日本赤十字社からの派遣が中断していた間も現地の大学と連携して研修を継続してきましたが、臨床の現場での経験が積めないことが課題だったため、そのフォローアップが今回の派遣の目的でした。
約2年越しの再訪 ― 現地との信頼を力に
今回派遣されたのは、福岡赤十字病院の松田圭央医師です。松田医師は2023年にもレバノンに派遣され、北部のサファッド病院や南部のバルサム病院で医療支援に携わりましたが、中東情勢の緊迫化により、活動を中断しての帰国を余儀なくされました。約2年の時を経て、改めて実現した今回の派遣。再訪先で温かく迎えられた松田医師は「前回あいさつもできずに別れたみなさんと再会し、一緒に活動することができたことが何よりもうれしかったです」と振り返ります。
現場で育つ診断の力 ― 超音波技術の実地支援
今回の派遣では北部にあるサファッド病院と東部にあるナスラ病院を訪問し、それぞれの病院の救急外来や病棟で、現地の医師と肩を並べながら超音波(エコー)検査の実地指導を行いました。実際の患者さんを前に、あるいは想定症例を用いて、腹部の緊急診療など、診断や治療の判断に直結する使い方を中心に指導しました。派遣期間中は、日々の診療を通じて技術の習熟度の確認を行い、活動の締めくくりには各病院で振り返りと意見交換も実施しました。

エコー診断の指導をする松田医師(一番右)と現地の医師ら
症例が少ない日には、持参した動画教材を活用し、異常所見の見方や判断の流れを確認し、理解を深めました。
医師たちの確かな成長を実感
松田医師によれば、今回の取り組みにより、訪問した両病院の医師たちに、救急外来でのエコー活用能力の確かな向上が見られたということです。事前に設定した評価基準を満たし、診断結果を臨床判断に組み込めるレベルに到達する医師も確認できました。一方で、症例数の不足や参加日数の制限といった要因から、同水準に達することができなかった医師もおり、超音波技術の定着には、継続的な実践機会と組織的な支援が不可欠であることが改めて示されました。
病院ごとの歩みに寄り添い、続く医療の質向上へ

同僚のエコー診断に助言するアジーザ医師(中央)と見守る松田医師(右)
今回水準を満たしたサファッド病院のアジーザ医師と、それを後押しする院長の高い意欲により、今後も院内で現地のスタッフにより、継続的な教育を行っていく意向が示されています。
ナスラ病院では一定の技術向上が確認されると同時に、所属する医師の高齢化といった構造的課題も改めて認識されました。
日本赤十字社は今後もパレスチナ赤新月社レバノン支部の本部や病院の管理者とも相談しながら、各病院の実情や人的資源に応じた持続的な教育体制の構築、ひいては医療サービスの質向上を支援していきます。