レバノン:救急外来で働く医師の診断能力向上を目指す

 日本赤十字社(日赤)は2018年から、パレスチナ赤新月社レバノン支部(パレスチナ赤レバノン支部)と共に、レバノン国内のパレスチナ難民に対する医療支援に取り組んできました。202310月以降のイスラエル・ガザ間の武力衝突やレバノン南部での緊張により、日赤からの医療従事者の派遣は一時中断しましたが、その間も、現地の大学と連携して医師・看護師向けの研修を継続しました。

2年ぶりに日赤医師が現地入り

 現地の大学による研修は現地の言葉(アラビア語)での実施であることや、レバノン国内で研修を受講した医師の証でもある、修了証明書が取得できることもあり、受講者には好評でしたが、臨床の現場で経験を積めないことが課題でした。

 このたび安全状況などが確認できたため、2025年7月に、約2年ぶりとなる日赤の医師の訪問が実現しました。日赤の医師はレバノンの難民キャンプ内にある病院で、パレスチナ赤レバノン支部の一般診療医(GP)に対し、臨床現場で超音波(エコー)診断の技術指導を行いました。

 エコー診断は、体内の様子を短時間で確認できる医療技術です。患者の体を傷つけることなく、高額な機器も必要とせず、救急現場でも迅速に対応可能であり、医療資源が限られた現場では非常に重要な技術です。今回、日赤の医師は各病院の救急外来で現地のGPと肩を並べ、エコーの画像を丁寧に一緒に確認しました。

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救急外来でのエコートレーニングを行う日赤の医師(左)とパレスチナ赤の医師ら

臨床現場での支援

 座学による講義ではなく、実際の診療現場で患者を前に、実践的な知識と技術を確認する機会を得た若手医師の中には「日赤の医師と一緒に診療を行ったことで、自分にもできるという自信がついた」と語る人もいました。こうした現場での指導は、大きな励みとなっています。また、ベテラン医師の中には、今回の経験を通じて指導者としての意識が高まり、院内で後輩を育てる力を身につけた例も見られました。

技術だけではない支援

 難民キャンプで働くパレスチナの医療従事者は、スキルアップの研修を受ける機会がほとんどないため、日進月歩の専門性の高い知識や技術を持ったスタッフが少ないことが問題です。パレスチナ赤レバノン支部のアデル医師は、「日赤だけが医療従事者の教育支援をしてくれている」と語り、日赤の活動は単なる技術移転ではなく、信頼と連帯を築く国際協力として感謝されています。

 この度、参加したGPたちの知識の定着と実践力の向上が確認されましたが、技術の習熟度には個人差があり、短期の研修だけでは十分ではありません。武力衝突や危機の中でも続けられる小さくても一つ一つの積み重ねが、やがて現地医療を自立的に支える力となります。

 研修の成果が日常診療の中で根付くよう、日赤はフォローアップを大切に、引き続き、パレスチナ赤がレバノンで運営する病院への医療支援事業を継続していきます。

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患者を前にエコーを確認するパレスチナ赤の医師らと日赤の医師(右)

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