バングラデシュ南部避難民支援:8年が経過―長期化する避難生活と現在の状況、人々の暮らしと尊厳を守る

画像 支援物資(衛生キット)を手にする避難民©BDRCS

8年前の夏、70万人が一斉に国境を越えた―

今から8年前の2017年8月、ミャンマー・ラカイン州での暴力を逃れるために約70万の人々が一斉に隣国バングラデシュ南部のコックスバザールへ避難しました。それ以来、人々の流入は続いており、2024年以降だけでも、12万人以上が新たに流入しました。さらに新たな命も誕生しており、2025年上半期だけで約1万8千人の子どもがキャンプ等で生まれました。2025年6月末時点で避難民は114万人を超えています(UNHCR、2025年6月30日時点、2017年8月以前からの流入も含める)。避難民のうち78%を女性・子ども・高齢者が占め、障がい者や単親世帯、重い病を抱える人など特別な保護を要する人々も少なくありません。
2017年夏から8年経過した今も、安全な帰還の見通しが立たないまま、避難生活は長期化しています。

画像 小さな仮設の住居が延々と続く避難民キャンプの様子(2023年)©JRCS

日本赤十字社のこれまでの支援

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日本赤十字社は2017年の緊急期から今日に至るまで、延べ180人以上の医療要員や心理社会的支援専門家を派遣し、延べ35万人以上の避難民に対して、診察や巡回診療、母子保健、こころのケアなどを実施してきました。
 バングラデシュ赤新月社と共に、避難民の健康のより所となる診療所を運営し、キャンプ内での地域保健ボランティア育成や家庭訪問を通じた健康啓発に注力し、住民自身が互いに支え合う仕組みづくりを後押ししたり、避難民とホストコミュニティ双方を対象にした地域活動を展開し、感染症予防、栄養改善、慢性疾患対策、心理社会的支援など、多面的なテーマで生活の質を高める取り組みを継続しています。
右写真:コミュニティボランティアの家庭訪問に同行する日赤職員(助産師)©JRCS

「ジャパンクリニック」が築いた信頼──バングラデシュ避難民支援の今

2017年、バングラデシュ南部コックスバザールに大量の避難民が流入した直後、日本赤十字社の医療者たちは現地に入り、巡回診療や家庭訪問など、避難民の命を守るための初期対応として直接的な支援をしていきました。一方、2018年4月以降、支援の形は徐々に変化していきました。日本赤十字社は、バングラデシュ赤新月社のスタッフや避難民ボランティアの育成・サポートに注力し、地域に根ざした支援体制を構築することへとかじを切りました。昨年2024年12月に実施された事業評価で明らかになったことは、診療所と地域活動、心理社会的支援の連携が強化され、例えば診察後に定期通院が必要な患者へのフォローや、医師の判断で心理支援が必要とされた患者への専門家紹介など、包括的な支援が支援対象地域においては実現されていることです。「ジャパンクリニック」として地域の信頼を得た診療所の存在は、医療だけでなく地域活動の拠点としても重要な役割を果たしています。

画像 診療所「ジャパンクリニック」の外観©JRCS

一方で、課題も浮き彫りになりました。支援対象外のキャンプへの貢献でもっとできることはないのか、世帯訪問一つとっても取り残されている人はいないか、避難民一人一人を見る際の視点や声かけの質の向上など、今後の改善点が指摘されています。
2025年2月には地域保健活動に特化した調査も行い、バングラデシュ赤新月社と日本赤十字社の活動を通じて、避難民の健康知識が向上したことが確認されました。特に、避難民ボランティアによる声かけが信頼構築に寄与している点は高く評価されています。しかし、調査は同時に、男性と女性の間で知識レベルに差があることや、慢性疾患への理解不足、知識があっても行動に移せない人がいることなど、支援の「次の一手」を考える上でのヒントも示しました。
「支援は、ただ届けるだけではなく、地域とともに育てていくもの。」過去に現地に派遣された日本赤十字社の職員の言葉が、今後の支援のあり方を物語っています。

日本赤十字社バングラデシュ現地代表部首席代表からメッセージ

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2017年の大量流入から8年が経過し、避難民キャンプでの生活しか知らない子どもたちが増えています。移動や就業の自由がなく、教育の機会が制限され、将来への見通しが立たない生活は人々の尊厳を大きく損なうものです。このような厳しい状況でも、自分の生活やコミュニティを良くしようと日々活動する避難民の人々の姿は、人間が生まれ持った強さを改めて私たちに教えてくれます。一人一人がかけがえのない存在として尊重される社会をつくるため、日本赤十字社は活動を続けてまいります。日本の皆さんがバングラデシュで生きる避難民のことを思い、周囲の人へ伝えてくれることが大きな力になります。どうぞ引き続きの支援をお願いします。(右写真:心理社会的支援活動に参加する首席代表©JRCS)

避難民の皆さんへ継続したご支援をお願いいたします。

日本赤十字社は、ミャンマーからの避難民の心身の健康と尊厳を守るため、支援活動を行っています。皆さまの温かいご支援・ご寄付をよろしくお願いいたします。
バングラデシュ南部避難民支援事業へお寄せいただいた海外救援金の受付状況
救援金受付期間:2017年9月22日(金)から2026年3月31日(火)まで
受付状況:2億7,652万7,456円(2025年6月30日現在)
※日本赤十字社へのご寄付は、税制上の優遇措置の対象となります。詳しくは税制上の優遇措置をご覧ください。

税制上の優遇措置

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