激動するシリア、今こそ支援を届け続けるために
14年に及ぶ武力紛争、経済危機、そして地震や干ばつといったシリアでの人道危機。報道などで目にする機会は多くはありませんが、その複雑で深刻な被害の矢面に立たされる多くの一般市民には、電気、水、医療など主要インフラにさえ手が届かないような過酷な状況が続いています。さらに、昨年12月にシリアの国内情勢が急展開をむかえてからは、レバノンなど隣国に避難していた人びとのうち51万人以上がすでにシリアに帰還するなど(UNHCR、5月30日)、変化と混乱の中でさらなるニーズも生まれています。
日本赤十字社(以下、日赤)では、2015年からシリア支援を継続し、2023年のトルコ・シリア地震以降はその規模をさらに拡大しています。主に保健分野に焦点をあて、巡回診療や身体障がいのある方へのリハビリ支援、医薬品購入、食料セットの配付など、シリア・アラブ赤新月社(以下、シリア赤)の活動を幅広くサポートしてきました。
今回、これまで支援してきた事業をモニタリングするとともに、移行期にある同国への今後の支援についてシリア赤および国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)シリア事務所スタッフと対面で協議を行うために、日赤職員3名がシリアを訪れました。ここでは、人びとの声や現地の様子をお伝えします。
アレッポ、紛争や地震の被害でがれきと化した町。シリア赤の巡回診療車の周りには、サービスを待ちわびる人びとの長蛇の列があった©SARC
■「自分にできることがあるから、シリア赤で活動を続ける」
まずシリア北部の都市アレッポに向かい、シリア赤が展開する巡回診療をモニタリングしました。この地域は紛争や地震の被害を大きく受け、多くの建物ががれきのようになって点在していて水や電気はほぼ届かない壊滅的な状態にあり、最寄りの病院も40キロ以上離れています。シリア赤の巡回診療は医師、看護師、データ入力担当、ドライバー各1名で1チームとなってこのような最も支援を必要とする地域を回り、基礎的な診察や薬の処方を行います。また、この日はボランティアのヘルスプロモーター(予防的な観点から、健康教育などを行う役割)も同行し、診療までの待ち時間を活用して健康に関する啓発活動も展開されていました。
この日巡回していた医師や看護師に話を聞くと、この地域にもこれまで国内外での避難生活を余儀なくされていた人びとが帰還しつつあること、受診者の多くは慢性疾患を抱えていること、医薬品は常に不足しており、機材も十分ではないこと、電気や安全な水が安定的に確保できないため診療所の開設もすぐには難しいことなど、山積する課題が改めて浮き彫りになりました。
このような過酷な状況下で活動を続ける理由について、これまで9年間シリア赤で活動してきたという看護師は「シリア赤では、人道支援団体として多くの人を助けることができる。助けが必要な人のために自分にできることがあるから、活動を続けます」と語りました。
巡回診療車、中には簡易ベッドや流し台も搭載されている©JRCS
巡回診療の合間、シリア赤の医師と看護師(写真中央2人)から話を聞く日赤職員(写真左)©JRCS
■ニーズに応えるさまざまな支援のかたちと、ありがとうの声
母子保健や心理社会的支援といったより専門的な診療やケアを医療へのアクセスが難しい地域にも届けるために、シリア赤では助産師や心理士が地域を訪ねる「アウトリーチ活動」も行っています。私たちがアレッポの次に訪れた都市ホムスで、生まれたばかりの赤ちゃんを抱いてアウトリーチ活動に参加していたアーヤさん(仮名)に話を聞くことができました。「周りに医療施設がないので、毎週火曜のこのアウトリーチ活動を毎回のように利用しています。シリア赤のスタッフはとても親身に接してくれ、もらう薬や情報もとても助かります。」
アーヤさん(仮名)、赤ちゃんは生後40日©JRCS
首都ダマスカスから車で30分ほど走ったクドサヤという町にある病院では、昨年10月に日赤の支援で設置されたソーラーパネルを視察。電力供給が不安定なシリアにおいて、この病院では運営にかかるすべての電力をソーラーパネルの発電でまかなうことができており(日照量が減る冬季を除く)、病院の診療活動の安定化や持続性確保などに大きく役立てられています。
クドサヤの病院、赤丸内がソーラーパネル©JRCS
■シリアの今、そしてこれから
ダマスカスの中心地では一目見ただけでは紛争の影響をあまり感じられないようなところもありますが、そこから数キロ離れると被害を受けた建物が連なる景色がありました。ダマスカスにある連盟のオフィスやアレッポのホテルでは数十秒の短い停電が頻繁に発生しており、電力が不安定な状況が続いています。モニタリング先の病院の中には、患者さんで混み合う待合室に対して薬局の棚はほとんど空っぽのようなところもありました。
シリアが直面する人道危機は今後も予断を許さず、大きな転換期にある今こそ長期的な視点に立った支援が必要です。シリア赤では今後、巡回診療など移動型の活動をベースとして最も弱い立場にある人びとへのサービスを継続するとともに、重点地域を絞って水・衛生や生計・就業、保健医療など生活再建のための包括的な支援を集中的に行う方針を打ち出しています。
日赤も、今回のモニタリングに基づく追加支援について早急に検討を進め、人びとが新たな一歩を踏み出せるよう支援を継続してまいります。
以下の「中東人道危機救援金」では、現在もご寄付を募集しております。皆さまには引き続き、ご関心、ご協力をお寄せいただきますよう、よろしくお願いいたします。