5年間のルワンダ駐在を通して:日本赤十字社現地首席代表からのメッセージ

日本赤十字社(以下、日赤)は2019年よりルワンダ赤十字社と共同で、「モデルビレッジ事業」を実施しています。このプロジェクトは、貧困や感染症などの社会問題に対して、生計支援や防災、保健衛生の向上を図ることで、住民同士が協力し困難を乗り越える力を育むことを目的としています。今年3月に第1期事業が終了し、現在は最終評価が進められています。

今回は、ルワンダ現地代表部首席代表として2020年から約5年間活動し、今月末に任務を終える吉田職員が、ルワンダでのプロジェクトとその意義を振り返ります。

なぜルワンダを支援するのか?

私は2020年1月からルワンダに駐在し、この6月にルワンダを離任します。このプロジェクトはこれまで、皆さんの温かいご支援に支えられてきました。

ルワンダでの任務を通して、日本の皆さんからは「なぜルワンダを選んだのか」というご質問をよくいただきました。アジアとは違い、日本から遠く離れたアフリカ地域のルワンダを、なぜあえて選んだのですか、という問いです。この問いについて、私が 5 年間考えてきたことをお話ししたいと思います。

画像 村に水が通った直後に水くみをする女性©JRCS

「見えない」人びと

プロジェクトを行ったルワンダ南部に位置するギサガラ郡の住民は、日常生活の中で深刻な課題に直面しています。安全な水や清潔なトイレの不足は、感染症のリスクを著しく高めています。また、特に子どもたちは、遠方まで水をくみに行かざるを得ず、その結果、学校に通えなくなることがありました。

さらに、ギサガラ郡は気候変動の影響も受けており、大雨や土壌侵食といった自然災害が頻発しています。これらの災害は農業生産性を低下させ、慢性的な栄養不足や貧困の拡大を引き起こしていました。

こうした複雑に絡み合う問題に対し、住民が主体となって取り組み、地域社会の共同体モデルとなることを目指して、本プロジェクトでは、ルワンダ赤十字社および地域住民と協力しながら、安全な水と衛生環境の整備、感染症リスクの軽減、子どもたちの教育機会の確保、栄養改善、貧困世帯の生計向上などに取り組みました。

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事業地の小学校で給食を食べる子どもたち©JRCS

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支援のおかげで小学校に戻ることができた女の子©JRCS

この5年間で痛感したことがあります。貧困をなくすプロジェクトに携わっていながらようやく分かったことですが、貧困層というのは、見ようとしなければ姿が見えず、聴こうとしなければその声は聞こえないということです。ご近所から返せないくらいのお金を借りて孤立しているシングルマザー、家族で食べつなぐために、寄生虫がひしめく谷底で幼い子どもをおぶってはだしで畑を開墾する女性、学校に行くことを諦めた子どもたち。子どもたちは苦しい時、声を出さずに涙をこぼしていたことが印象的でした。

同じルワンダの人びとでも、経済発展した首都のキガリの住民で、ギサガラ郡の貧困層に関心を向ける人たちは少数派です。私が、ルワンダ人の同僚に事業地の状況を質問した際に「知らないこと」のきまりの悪さからか、戸惑いや葛藤が入り交じった反応を受けたこともありました。

一方、繁栄から取り残された地方に生きる人びとにとって、都会の人びとは、憧れをいだく存在であると同時に、決して彼らについていくことはできないのだという諦めを感じさせる存在です。持つ者と持たざる者との間で、ゆっくりと、そして確実に社会は分断されていきます。

画像 村に水が通る前の、ある住民の家で。誰よりも彼女たちの信頼を勝ち得ていくことが大事でした©JRCS

貧困のない世界を目指して

遠く離れた日本から支援してくださる皆さんの思いを背負い、困っている人びとに寄り添いたい、という理由でプロジェクトに携わることは、世界中で分断が進む今だからこそ意味があるのだと思います。貧困に苦しみ社会に絶望しかけている人びとの心にささやかな希望の光をともし、ともすれば目を背けてしまうような厳しい現実を日本の皆さんにも伝え、皆がたすけあう輪を広げていく。これは、持てる者と持たざる者とで分断された社会に立ち向かう試みなのです。

私たちがルワンダの農村でやってきた仕事は、住民の暮らし向きをよくすることだけではありませんでした。私たちが目指してきたのは、ルワンダの農村で最も困難な状況にある「見えない」人びとに寄り添いつつ、世界中の「貧困をなくしたい」と願う人びとの気持ちを一つにすることです。地球上で、「絶対的貧困」(1日2.15ドル未満(2025年6月現在)で生活する状態)よりさらに低い生活水準で生きる人びとの割合は1割未満と言われています。「絶対的貧困」とは、人として最低限の生活が送れず、生きること自体が困難な状態のことです。ルワンダでのプロジェクトは第2期事業に引き継がれていきますが、皆さまからいただいた大切なご寄付をもとに行われているこの地道な取り組みが、私たちが生きている間に「絶対的貧困」を地球から無くす一歩となることを願っています。

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