農村医療と住民の健康を支えるボランティア  ~ルワンダの現場から~

 ルワンダは1990年代の内戦終結以降、急速な経済発展を遂げ、「アフリカの奇跡」とも称されています。しかし、人口の約8割が暮らす農村部では、依然として高い貧困率や社会インフラの未整備による課題が残っています。安全な飲料水やトイレの不足、感染症のまん延、気候変動の影響による自然災害など、複合的な社会問題が人びとの日々の暮らしに影を落としています。首都キガリとの経済格差も深刻です。
 このような状況を受け、日本赤十字社(日赤)は2019年、ルワンダ赤十字社(ルワンダ赤)と連携し、「ルワンダ気候変動等レジリエンス強化事業」を開始しました。この事業では、ルワンダでも特に貧困率が高い南部ギサガラ郡を対象に、水・衛生環境の改善、環境保全・緑化、生計支援、事業の持続性強化など、多岐にわたる活動を実施しています。
 この記事では、2024年6月から10月まで事業管理要員として派遣された、日赤愛知医療センター名古屋第二病院の田中看護師が、ルワンダの現状について保健医療の観点からお伝えします。

■ルワンダの医療の現状

ルワンダには、日本の国民皆保険制度に似た公的健康保険の仕組みがあります。このうち、国民の約90%が加入する保険では、1人あたり年間3,000Rwf(約330円)の保険料を支払うことで、医療費が1割負担に減額されます。リファラルシステム(患者紹介システム)に従わないと保険の適用外となり、医療費は全額自己負担となってしまうため、病気の種類にかかわらず、身近なところにある村のヘルスセンターから高次医療機関へ段階的に受診する必要があります。
 日本と比べて医療水準が不十分で、CTやMRIなどの高度な医療機器は国内に数台しかありません。首都キガリには大学病院などの大規模な病院がいくつかありますが、日赤の事業地であるギサガラ郡には郡病院が1つあるのみです。そのため、この病院では、約40万人もの人びとを診ているのです。郡病院には医師が配置されていますが、村のヘルスセンターには医師が不在で、看護師が診断や薬の処方を行っています。

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ギサガラ郡のヘルスセンターで検査を待つ患者

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ヘルスセンター長の看護師(中央)

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ヘルスセンターで手洗いをする親子

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ヘルスセンターにある分べん台

■地域の人びとを支えるコミュニティヘルスワーカー

 コミュニティヘルスワーカーとは、地域住民から選ばれて、保健衛生の研修を受講後、地域における医療相談などの活動を実施しているボランティアです。日本の民生委員に近い存在でしょうか。彼らは、住民が体調不良になったとき、家に訪問して症状を確認し、高熱の患者にはマラリアの簡易迅速キットによる検査をします。症状が重く、ヘルスセンターに連れて行く必要のある患者には付き添いをして、ヘルスセンターの看護師に引き継ぎをします。他にも、保健衛生促進活動や栄養指導、ファミリープランニング、妊婦のケアなども実施しています。
 現在、日赤の事業地にはコミュニティヘルスワーカーと赤十字ボランティアを兼任している人が8名います。彼らはコミュニティヘルスワーカーの活動、赤十字ボランティアとしての活動の両方を実施しているので、毎日忙しく働いています。彼らが無償でも活動を続ける理由として、地域を良くしたいという強い思いがあることをインタビューを通して感じることができました。住んでいる場所によっては、ヘルスセンターまで歩いて1時間以上かかるような住民にとって、コミュニティヘルスワーカーは心強い存在だと言えます。

画像 コミュニティヘルスワーカーへの聞き取り調査を実施する田中看護師

■最も弱い立場にいる人びとへ支援を届ける

 ギサガラ郡の村を1人で散策していたときの出来事です。ある家の前で3人の女性が立ち話をしており、そのうちの1人が私に話しかけてきました。ルワンダ語で挨拶すると、彼女たちは笑顔になり、口々に話しかけてきました。3人は、カメラを持っていた私に、写真を撮ってほしそうにポーズをとったため、早速撮影して、画面を見せると喜んでいました。その後、最初に話しかけてきた女性は私の服の赤十字標章に気付き、その標章について話しているようでした。彼女はしばらく話をした後、私を自宅に招待してくれました。家の中はほこりっぽく昼間なのに薄暗い部屋で、家具はほとんどなく、ボロボロの車いすが置いてありました。部屋の中を見渡すと、ベッドに寝ている男性がいました。挨拶しようと近づくと彼の手足にはまひがあることに気付きました。彼女は男性の手足を曲げ伸ばしさせたり、食器を持ってきて、ご飯を食べさせる様子を私に見せてくれたりしました。ふと彼女の顔を見ると、目には涙が浮かんでいました。彼女は毎日、このように彼の世話をしているということを必死に伝えている様子で、私は彼女の言葉を理解できませんでしたが、伝えたい思いは痛いほど感じられました。
 男性は瘦せており、小学生くらいの体格でしたが、年齢はおそらく青年期に入っているように感じました。今にも壊れそうな硬い板のベッドで寝ていましたが、床ずれなどはなく、手足の関節の可動域も保たれていて、彼女がいかに愛情を込めて彼を世話しているのかが一目でわかりました。その後、彼女は男性を車いすに乗せ、2人で並んだ写真を撮るように私に合図をしました。写真を撮ると、彼女は満足そうにほほ笑み、私は彼らに別れを告げて家を後にしました。

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女性の自宅の中の様子

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女性と車いすに乗った男性

 この10分ほどの出来事は、私にとって非常に印象的で忘れられない経験となりました。彼女が赤十字標章を見て私に期待を抱き、何かを求めていたことが感じられ、地域住民に赤十字が信頼されていることを実感しました。それと同時に、彼らに必ず支援を届けなければならないという使命感を強く抱きました。
 あの男性は何年、もしかしたら何十年も外の景色を見ていないかもしれません。災害が起きたら、あるいは、彼を世話している女性が病気になったら彼はどうなるのか、深く考えさせられました。私たち赤十字職員が支援を届けるべき最も弱い立場の人たちとは誰であるかを強く認識することができた出来事となりました。私たちはこれからも彼らのような人たちのために活動を続けていかなければならないと感じています。

■これからの支援

 ギサガラ郡での「レジリエンス強化事業」は当初計画通り、今年6月で終了します。事業で達成した成果を踏まえて、別の地域で次期事業を継続していくことで、話し合いを続けています。今後の事業では、保健医療分野の活動を強化したいと考えています。そのためには、保健医療ニーズや課題をさらに調べ、どのような支援が届けられるのかを協議していく必要があります。私の派遣は終了しましたが、後任として昨年10月から同じ病院の鳥越看護師がルワンダに派遣されています。これまで私が行ってきた活動を鳥越看護師に引き継ぐことで、活動が途切れることなく発展し、ルワンダの地域住民の生活環境がさらに向上することを願っています。

画像 赤十字ボランティアたちが全員集合

「ルワンダ気候変動等レジリエンス強化事業」

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