レバノン:パレスチナ人医療従事者にスキルアップの機会を
パレスチナ赤新月社レバノン支部(パレスチナ赤レバノン支部)は、レバノン国内で5つの病院を運営しており、パレスチナ難民だけでなく、シリア難民やレバノン人を含めたぜい弱な立場にある地域の人びとに、二次および三次医療を提供しています。
この5つの病院に勤める医師や薬剤師のほとんどは、国外の大学で学び免許を取得した人たちです。パレスチナ難民の身分や社会的地位は常に不安定で、移動などの制限も伴います。それは医療従事者にとっても同じで、医師も看護師もスキルアップの研修を受ける機会がほとんどありません。そのため、専門性の高い知識や技術を持ったスタッフが限られてしまうことが課題でした。
日本赤十字社(日赤)は、パレスチナ赤レバノン支部病院の医療サービスの向上を目指して2018年から医療支援事業を行っており、昨年の7月からは、現地の大学と協力し、医師・看護師向けの研修を導入しています。昨年9月に情勢が急激に悪化したレバノンでは、難民キャンプを中心にパレスチナ赤レバノン支部の医療従事者が救急活動を支えました。一時的な停戦を迎え街なかは日常を取り戻しつつありますが、彼らが必要なスキルを磨き、対応に備えることはたいへん重要です。
研修が無事修了し、麻酔技師の証明書を受け取った看護師ら©PRCS
麻酔技師の養成(看護師向け研修)
麻酔技師は、主に麻酔の管理と監視を行う専門職で、麻酔科医と協力して、手術前、手術中、手術後の患者のケアを担当します。レバノンでは麻酔科医が不足しているため、サポート役である麻酔技師を育成することは安全な手術実施のために重要です。麻酔機器や薬剤の準備、点滴の準備などを行ったり、心電図や血圧、酸素飽和度などのモニタリングを行って患者の状態を監視します。また、麻酔の導入と維持、気道の確保、患者の体位調整などをサポートします。研修を通じて麻酔技師という専門分野を得ることができた看護師たちは、緊急時の蘇生措置も学んでいることから、2024年9月以降の武力衝突の激化時には手術室だけでなく、救急部門や集中治療室などでも活躍しました。
講義の一環で蘇生措置を学ぶ看護師ら©PRCS
手術室での実地研修に臨む看護師©PRCS
診断技術の向上(医師向け研修)
2023年10月までは、日赤の医師が現地で診断技術の向上を目指した指導を行ってきましたが、現在は現地の大学と協力して放射線学の研修を継続しています。昨年8月のエコー基礎研修に続き、今年1月には、外傷に特化したレントゲンやCT、エコーに関する放射線学研修を開催しました。これは、武力衝突による患者の対応が増えたことから強化が必要な知識であり、5つの病院から集まった医師たちからは、学ぶ機会を得たことへの喜びの声が聞かれました。
エコーの操作を確認する参加者(中央)と講師(右)©PRCS
講師(右)からのアドバイスを真剣に聴く参加者たち©PRCS
来年度は、各病院の救急救命室(ER)のスタッフに、成人や小児の心停止や不整脈などに対する救命処置(ACLS、PALS)や、外傷患者の初期評価と管理(ATLS)、新生児の蘇生(NRP)などの研修をサポートする予定です。ERスタッフが専門知識を習得することで、緊急事態に迅速かつ適切に対応できるようになり、より多くの患者さんに適正な医療を届けることが期待されます。日赤は引き続き、パレスチナ赤レバノン支部病院の医療支援事業を継続していきます。