バングラデシュ南部避難民支援:長期化する避難生活の健康を支える地域保健活動

2017年8月、ミャンマー・ラカイン州での暴力をきっかけにバングラデシュ南部のコックスバザールに多くの人びとが避難し、現在も100万人弱の人びとが避難民キャンプでの生活を余儀なくされています。資源が限られ、制約の多い避難民キャンプでの生活を始めてから6年が経過する中で、そこに暮らす人びとはどのように地域や自らの健康を保ちながら日々の生活を送っているのでしょうか。
日本赤十字社は、避難民の大規模流入直後からバングラデシュ赤新月社(以下、バ赤)や各国の赤十字社と協働し、避難民キャンプ内の診療所の運営に加えて、2018年から地域に根差した地域保健活動を実施しています。今号では、現地のスタッフやボランティアとともに同活動に携わる東京かつしか赤十字母子医療センターの福島助産師から実際の活動の様子や避難民の声などを紹介します。

※国際赤十字では、政治的・民族的背景及び避難されている方々の多様性に配慮し、『ロヒンギャ』という表現を使用しないこととしています。

赤十字・赤新月社の地域保健活動

現在バ赤が避難民キャンプで行う地域保健活動は、CBHFACommunity Based Health and First Aid)と呼ばれる国際赤十字の手法を用いて行われています。

この活動では、情報や医療サービスが得られにくい地域の人びとが、自分たちの健康維持、促進のために地域の医療資源の存在や、健康被害をもたらす危険な場所・原因となるものを事前に学びます。これにより、病気や怪我の予防・早期発見・治療につなげ、重症化を防ぎ、自分たちの地域で健康に暮らしていけることを目的としています。

2023年12月時点、バ赤は避難民キャンプ内の7拠点で地域保健活動を展開しています。各活動地ではファシリテーターと呼ばれるまとめ役2人とボランティア10人程度がチームを組んで活動しています。ファシリテーターの役割はボランティアの活動を手助けしたり、レポートの取りまとめ、医療施設や外部関係者との連携・調整などを担っています。ボランティアはそれぞれの担当世帯を訪問したり、広めの避難民宅で近隣住民を集めて健康啓発に関する伝達を行ったりしています。ボランティアは、活動地のキャンプに住む避難民ボランティアとキャンプの近隣に住むバングラデシュ人のボランティアで構成され、ひとつのチームとして活動しています。

0124-1.jpg避難民キャンプ内の移動時 ⓒ日本赤十字社

地域保健活動の軸となる健康啓発活動では、①赤十字運動、②救急法、③感染症予防、④栄養、⑤心理社会的支援、⑥家族計画、⑦非感染性疾患(糖尿病、高血圧など生活習慣に起因する慢性疾患)の7つのテーマを中心として、キャンプ内に住む避難民に対してボランティアが健康維持や疾病予防に関するメッセージを届けています。

活動の一日の様子

◆9:00~ モーニングセッション(朝の会)

地域保健活動の1日はファシリテーターとボランティアが一堂に会する朝の会から始まります。ここでは、ボランティアから前日の活動の振り返りや地域住民の声などが共有されます。それをもとにまとめ役のファシリテーターを中心にボランティアはその日の活動に必要な知識の再確認や活動計画を確認してから担当地域の家庭訪問に向かいます。

0124-2.jpgモーニングセッション ⓒ日本赤十字社

◆9:30~ 家庭訪問開始

ボランティアは、1日に10件程度の家庭を定期的に訪問し、最近流行している感染症の予防方法や、正しい応急処置法、家族計画など、住民が健康に過ごすために必要なメッセージを届けます。避難民キャンプでは人口の約半数が子どもであり、一人当たりの女性の出産数も多く、新生児の死亡率が高いことから、適切な家族計画や妊婦・産後健診、施設分娩の促進が喫緊の課題です。また、制限の多い避難民キャンプの環境では運動不足や健康的な食生活を維持することの難しさ、喫煙などさまざまな要因により、糖尿病や高血圧症などの慢性疾患患者も多く、継続的な支援も必要です。ボランティアの家庭訪問の際には、体調の確認や医療施設への定期的な受診の促進なども医療施設と連携したうえで地域保健チームの重要な役割となります。
また個別の家庭訪問だけでなく、複数の住民を集めて行うヘルスセッション(集団啓発活動)も行われています。流行している疾患に関する予防法等の知識をより多くの住民に届けることや、必要とする健康知識が似ている参加者同士によるピアサポートも目的としています。避難民はイスラム教徒が大多数のためセッションは男女別々に行うなど、実施方法にも宗教的配慮をしながら活動が行われています。

230710 Camp14 CBHFA__resize.jpg家族計画方法の説明をする女性ボランティア
(*二の腕の皮下に数㎝のインプラントを挿入し、女性
ホルモンが放出されることで3年程度の避妊効果が期待できる)
 ⓒ日本赤十字社

0124-3.png女性の非感染性疾患患者(糖尿病、高血圧症など)を対象とした運動セッション ⓒBDRCS

◆14:00~ フィードバックセッション(終わりの会)

ボランティアは、1日の活動を終えると朝の会と同じ活動拠点に戻ってきます。終わりの会では、その日に行った活動内容の確認や活動数の集計を行います。取りまとめをするファシリテーターは、ボランティアから活動報告を聞き取り、報告内容に沿って必要な振り返りを行います。

20230726_Closing session_JRCS_resize.jpg

その日の活動数を指で示しながら報告しているボランティアたち©日本赤十字社

医療施設と地域保健活動の連携

毎月、日本赤十字社が支援するバ赤診療所では、医療スタッフと地域保健チームなどでミーティングを行い、それぞれの課題や情報共有を行うことで相互に良い連携を築き上げながら地域住民の健康を支えています。避難民キャンプのように医療資源が限られた環境では、健康知識の普及や病気の予防が重要性を増すため、それらの普及・啓発を草の根で行い、地域の健康を守る地域保健活動が大きな役割を担っています。また、診療所医師が講師となって定期的にファシリテーターやボランティア向けの勉強会を行うなど、基礎的な健康に関する知識向上のため、日々の努力も続けられています。

20240122-c6f611f97a25c068b08226d57a31864686afb2ea.jpg診療所医師によるボランティア向けの勉強会 ⓒBDRCS

避難民の声

最後に地域保健活動の受益者である避難民の声をご紹介します。日赤の活動地に住むアノワラ・ベグムさんは次のように話します。
「バングラデシュに避難してから身体に不調が見られるようになりました。体調が悪化していた時に地域の避難民ボランティアに相談したところ日赤の診療所を紹介してもらいました。高血圧の診断と処方薬をもらい、その後も定期的なボランティアの訪問により症状が改善してたすかりました」​

0124-4.jpg日赤の活動地に住むアノワラ・ベグムさん(写真右) ⓒBDRCS

今後の展望

避難民キャンプでの地域保健活動は、現地のバ赤スタッフや避難民ボランティア等を中心に行われ、避難民との信頼関係も構築されています。今後は長期化する避難生活の中で、障がいのある方や高齢者、妊産婦など、より支援を必要とするにも関わらず一人での外出が難しいために支援にアクセスできない方たちのニーズに一層目を向け、それに応えられる活動を目指しています。
さらに、避難民が大量流入したことで、地域に昔から暮らしている住民(ホストコミュニティ)の生活も大きな影響を受けており、バ赤は2022年からそうした地域への活動も行っています。限られた資源、制約のある条件の中で避難民と地域住民が少しでも健やかに過ごせるよう日本赤十字社は支援を続けていきます。今後とも活動へのご理解とご協力をよろしくお願いします。

本ニュースのPDFはこちら(810KB)

バングラデシュ南部避難民救援金を受け付けています

詳しくは、以下のボタンをクリックして、バングラデシュ南部避難民救援金ページをご覧ください。
また、日本赤十字社のバングラデシュ南部避難民支援に関するこれまでの活動もこちらからぜひご覧ください。