未来のわたしたちの健康のために~自分のコミュニティを守りたい女性ボランティアの紹介~

バングラデシュ南部のコックスバザールにはミャンマーのラカイン州から避難された人びとが(2017年の武力衝突を契機に避難された人と、それより以前に避難されてきた人が混在)が暮らしています。日本赤十字社(以下、日赤)は2017年の避難民大規模流入の直後から現在に至るまで、バングラデシュ赤新月社(以下、バ赤)や各国の赤十字社と協力して病院やクリニックを運営し、避難民への保健医療サービス支援と、地域に根差した健康改善支援活動と救急法(CBHFA)を支援してきました。今号では各地域でCBHFAを展開するコミュニティ・ボランティアについてご紹介したいと思います。

バングラデシュでの日赤の活動を支えるのは海外救援金です。この度、活動報告「きもちのしるし2022」が完成しました!(詳細は後段参照)

CBHFAとは

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CBHFA(Community Based Health and First Aidの略)とは、地域に根差した健康改善支援活動と救急法のことです。医療従事者ではない地域の人たちに、病気やけがの初期対応の方法から、慢性疾患と上手に付き合う生活支援(行動変容支援)、さらなる健康な体作り、安全で健康的な妊娠・出産・産後の生活、乳幼児を中心とした元気な子供の育成など、健康に関する知識や技術を学んでもらい、地域の中でその学びと実践を広げてもらう活動です。
健康に関する知識や技術を持った人材が地域に増えていくと、避難民の方々自身が病気やけがなどの予防や不測の事態への対応をする力を養い、避難民同士での相互支援の力が強くなります。病気やけがの際にはまず周りの人たちで対応ができるということです。また、健康に関するトラブルを予防することもできるようになり、今よりさらに健康になることにつながります。バングラデシュのCBHFAはキャンプから始まりましたが、2022年から避難民を受け入れたキャンプ周辺の地元の人々(ホストコミュニティ)においてもその活動が行われています。

赤十字・赤新月社で働くことは一つの夢だった

バングラデシュ南部のウキア郡にあるキャンプに住むジャスミンさん(21歳)は、結婚しており8か月になる息子さんがいます。彼女の両親が1992年にミャンマーからバングラデシュへ避難してきたことから、ジャスミンさんはバングラデシュで生まれ育ち、バングラデシュの教育を受けました。2017年から他の団体の栄養支援ボランティアとして働いていたある日、病気になりスイス赤十字社の運営する診療所を受診しました。その時、「親身に対応するスタッフに身も心も癒された」と彼女は話します。元気になった後、彼女は赤十字・赤新月社で働きたいと思い、その診療所でCBHFAのコミュニティ・ボランティアの募集を発見し、応募したことがきっかけで本格的に赤十字の活動に携わることになりました。

コミュニティの変化がやりがい!

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仕事について尋ねると、彼女はとても楽しそうに話してくれました。「コミュニティ・ボランティアになってよかった。活動を始めたころは、私の住むキャンプでは手洗いの習慣がなくトイレを使わず野外で用を足すこともあった。今は、みんな当たり前のようにトイレを使い、手洗いができるようになっている。今はたばこをやめるように頑張って働きかけている。多くの人が吸う頻度を減らし、やめた人も増えてきている。コミュニティの中で病気がなくなり、みんなが元気に過ごせることが目標」「最近では、近くに住む人から何かと相談される存在になっている。迷うことがあれば、いつでも連絡してとみんなに言っているので、その信頼にこたえたい」
そんな彼女の今の夢は、息子が元気に育つことと、小さな庭を持つことです。「自分の庭に自分の好きな花を植えて、楽しみたい」と笑顔で教えてくれました。

学生とボランティアの両立を目指す

次に紹介するのは、ホストコミュニティの1つであるウキア郡ハロディアパロン村で2022年の9月からコミュニティ・ボランティアをしているサミエラさん20歳です。彼女は12年生(日本の高校三年生と同等:修了すると大学に進学できる資格となる)の学生でもあります。3人の兄と3人の姉がいる末っ子ですが母親の手伝いもしていました。これまでは、学業に専念していましたが人を助けることは好きだと思っていたので、地元で活動するコミュニティ・ボランティアの募集があることを知りすぐに応募しました。

人の力になることは、やりがいがある

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コミュニティ・ボランティアを始めて間もないころ、ある家庭でサミエラさんは首に大きなできものがある年配の女性に会いました。痛みがあり頭を動かすのにも苦労している状況だったので、近くの病院に行くよう勧めました。腫瘍との診断でしたが、治療を受け治癒することができました。その後、サミエラさんは、この女性に「あなたに病院のことを教えてもらえてよかった。助けられた、ありがとう」ととても感謝されました。この経験を通して、病院へ行くことの大切さを伝える重要性を感じたそうです。CBHFAの説明資料に書いてあることが上手に説明できるかと考えただけでも緊張することが多かったのですが、この件をきっかけに、コミュニティ・ボランティアとして自分の担当地区を巡回するときには、人々がどんなことに困っているのか見落とさないようにしたいと思うようにもなったそうです。

水不足だけど、安全な水を飲んでほしい

コミュニティ・ボランティアとして、今気になっていることを尋ねると、栄養状態の改善、家族計画、安全な水の確保の3つを挙げました。コミュニティの中でも特に女性に栄養不足が多いと感じていて、家庭訪問では栄養のバランスを意識して食べるよう伝えています。また、栄養不足の女性が妊娠・出産することも心配です。乾季にはコミュニティの井戸の水レベルが下がり、十分な水が手に入りにくいこともあり、そんな状況で手洗いの大事さを伝えたり、手洗いの実際の指導をしたりするのは、苦しいこともあると話してくれました。「それでも、病気にならないために安全な水を飲んでもらいたい」と力強く語っていました。「水に困らない、病気が少ない、豊かなコミュニティになることが私の願いです」

英語の先生になりたい

サミエラさんの暮らすキャンプ外のコミュニティでは、普段ベンガル語が話されています。数少ない英語が話せるコミュニティボランティアである彼女は日赤の派遣要員にも英語で話しかけてくれます。先日は「学校を卒業して、もし可能だったら、英語の先生になりたいと考えることがある。あなたがここへ来たら英語で話せるから、英語の勉強も頑張ろうと思う。」コミュニティの健康だけでなく、活動を通してボランティアの成長につながることもコミュニティ・ヘルスの大事な成果です。

「きもちのしるし2022」完成のお知らせ!

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バングラデシュでの日赤の活動を支えるのは海外救援金です。海外で大規模な災害や紛争等の緊急事態が発生した際に、被災国の赤十字社や日赤)が現地で実施する救援活動・復興支援活動を支援するための募集が開催されます。2023年2月現在、日赤は、「ウクライナ人道危機救援金」に加え、「バングラデシュ南部避難民救援金」・「中東人道危機救援金」・「アフガニスタン人道危機救援金」の4つの海外救援金を募集しています。

この度、2022年に海外救援金をもとに取り組んだ活動報告をまとめた「きもちのしるし2022」が完成いたしました。ぜひご覧ください。

きもちのしるし_海外救援活動報告書_2022(PDF 15.9MB)