一人ひとりの努力を集結し、核兵器のない世界に向けて行動を~核兵器禁止条約第2回締約国会議に参加しての思い~

 来週1月22日は、核兵器禁止条約の発効日です。
 「核兵器のない世界」という目標は、核兵器保有国を含めた多数の国が共有しながらも、ウクライナ情勢等による安全保障の観点から冷戦ピーク時に匹敵する程にその使用リスクが高まっており、実際の核軍縮の動きは逆行しているとも言われています。そのような中で、2023年11月27日(月)から12月1日(金)まで国際連合本部(於アメリカ・ニューヨーク)にて核兵器禁止条約の第2回締約国会議がメキシコ政府の主催で開催されました。

 1945年に広島と長崎に原爆が投下されて以来、その非人道性から核兵器の廃絶を訴えてきた日本赤十字社(以下、「日赤」)からは、職員3名が参加し、そのうち、身内に被ばく者の方がいる職員が国際赤十字・赤新月社運動を代表して声明文を読み上げました。 

 また、事前に米国赤十字社と核兵器に関してユースが意見交換するイベントを共催していた経緯もあって、今回、米国赤十字社も会議に参加しました。 

 今回のニュースでは、同会議に参加した職員2名のレポートをお届けいたします。

画像 会議場の様子

赤十字の声明文を読み上げた、身内に被ばく者のいる職員の思い

 私の家族には広島の原爆による被ばく者がいることもあり、幼い頃から比較的身近に核兵器について考える機会はありましたが、この大きな国際問題を前に、自分には何ができるのだろうかと答えを見つけられずにいました。近年、ウクライナやイスラエル・ガザの人道危機が一層深刻化している状況等を目の当たりにしながら、このまま傍観者ではいたくない、何か自分にできることを行いたい、という思いが強まっているところ、今回、核兵器禁止条約第2回締約国会議に参加する機会を得ました。人々の平和への願いが国際社会の変化に結びつくために、小さくてもまずは自分から行動を起こしていくきっかけにできたらと思い会議に臨みました。

 今回の会議には、59の締約国とオブザーバーとして35の国と団体が参加し、赤十字からは赤十字国際委員会(以下、「ICRC」)、国際赤十字・赤新月社連盟、そしてアメリカと日本の赤十字社を含む8つの赤十字・赤新月社が参加して、世界の核兵器の現状とリスク、核廃絶に向けた枠組みの強化について議論が交わされました。
会議3日目には、国際赤十字・赤新月運動を代表して、ノルウェー赤十字社と共に声明文を読み上げました。その一部に日本の被ばく者の方の言葉が引用されています。
「“平和は待っていても自動的にやってくるものではありません。”私たちは、被ばく者の方が語る経験と願いを後世に伝えていかなければなりません。」

 会議に参加するにあたって、広島の家族に核兵器についての想いを改めて聞いたのですが、そこで一番強く感じたのは、これ以上誰も同じ思いをしては絶対にいけないという平和への切実な願いでした。声明文を読み上げながら、核兵器により命を奪われた方、今も苦しんでいる方を世界が忘れてしまうことが決してないように、伝え続ける大切さと責任を改めて感じました。

画像 国際赤十字・赤新月社運動を代表して声明文を読み上げる日赤職員

 私たちは、広島・長崎の被ばく者の声を直接聞くことができる最後の世代でもあります。その声は、核兵器がもたらす非人道的な被害を想像力をもって受け止め、核廃絶を共に願う人々の輪を広げていくことに繋がると、今回の会議における被ばく者の方々の証言を聞きながら一層強く実感しました。その経験と願いを次世代に伝えていく道をしっかり作れるよう、まずは私自身が今回聞かせていただいた広島・長崎、そして核兵器開発や核実験による被害者の声と、核兵器の非人道性を赤十字内外に伝えていきながら、様々な形で発信していきたいと思います。そして赤十字の一員として、この問題を多様な側面から正しく伝えられるよう自身の理解と知見を深め、国際赤十字のネットワークを生かした取り組み、特に今後を担う若い世代を対象に、被ばく者の声を聞く機会や核兵器問題について考え自ら発信する機会を創っていきたいと考えています。

 今回、核廃絶に向けて諦めずに取り組み続けてきた沢山の方と出会い、核兵器は人類が引き起こし得る恐ろしい人災ですが、だからこそこの脅威を完全に廃絶するのも私たち人間の努力で実現できると力をいただきました。一人でも多くの人が核兵器問題に自分事として向き合い、核のない世界に向けて共に力を集結して取り組んでいけるよう、小さくても自分にできることから行っていきたいと思います。

「一緒なら、達成できる(Together, we can achieve it)」

 今回の会議では、科学的観点、非人道性、既存の核軍縮の枠組みとの補完性などテーマ別の報告や議論が活発に行われました。また、インドネシアが核兵器禁止条約への批准を報告するなど、核兵器のない世界にむけてまさに前進している様子をリアルタイムで感じられました。核兵器禁止条約に参加していない国もオブザーバー参加しており、それらの政府の建設的な対話の姿勢も印象的でした。ジェンダー平等の参画を強調する国もあり、単に女性(核兵器の影響をより受けやすいと言われる)の代表者数を増やすだけではなく、参加の質についても言及され、会場からの賛同の拍手を得ていました。

 最終日に採択された会議宣言では、開かれた対話を通じて核兵器のない世界を実現するためのコミットメントが改めて確認され、他に決定された主な事項としては、被害者の援助及び環境の修復に関する国際信託基金の創設検討(第3回締約国会議の優先議題)、安全保障上の懸念に関する協議の調整役にはオーストリアが任命されました。

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 一緒に会議に参加した米国赤十字社のユースにアメリカ国内での「核兵器に関する教育」を聞いてみたところ、自分が知る限りという断りを添えつつも、アメリカの授業では、アメリカからの視点で語られることが多く、「戦争を終わらせるために核兵器が必要だった」、「今は核兵器を持たなければならない」といった意見を頻繫に耳にするそうです。被ばく者の証言や環境への負の影響、核兵器のリスクについて学ぶ機会はほとんどないため、今回の会議やサイドイベントで初めて知ることが多く、特に人道的影響についての情報格差が大きいと感じた、と話してくれました。
(写真:日赤職員(左)と米国赤十字社のユース(右))

 核兵器廃絶という壮大な目標と自分のできることのギャップに、つい無力感を抱きがちですが、被ばく者の声や世界中から集った締約国やユースの熱い想いや取り組みを目の当たりにし、同じゴールを目指す多くの仲間がいることに励まされました。今回の会議でICRCが繰り返し使っていた「一緒なら、達成できる(Together, we can achieve it)」という言葉を意識し、引き続き国際赤十字・赤新月運動として、核兵器のない世界の実現に向けて協力していければと思います。

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