パレスチナ・ガザ:学びの機会が少ない医師や看護師たちに

パレスチナのガザ地区には1948年に多数のパレスチナ難民が戦禍を逃れて流入してきました。その後、パレスチナ暫定自治区となりましたが、2007年以降、ガザ地区が封鎖され、住民の地区外への厳しい移動制限がとられています。そのため医師や看護師は、地区の外に出てこそ得られる新しい知識や技術の向上の機会が限られています。

日本赤十字社(以下、日赤)は医療サービスの向上のために、201910月からパレスチナ赤新月社(以下、パ赤)が運営する病院へ医師・看護師を派遣しています。コロナ禍で、現地派遣が難しくなってからは遠隔での支援を続け、現地の医療スタッフへの学びの機会の提供しています。

現地に行けなかったとしても研修は出来るのか?

20220816-00b5213c4d053819f8996f6c32163c5470a3794e.jpg日赤メンバーがオンラインで研修会に参加している様子 ©パ赤

病院の看護部門では十分に整備された看護手順書がないため、日赤が協力して現地看護師と一緒に最新の科学的根拠に基づいた手順書を作成しています。今回、「酸素吸入療法[1]」、「膀胱留置カテーテル[2]」、「静脈注射の点滴管理[3]」の手順書が完成したのを受けて、研修会を実施しました。講師は、各手順書作成を担当した現地の看護師たち。80人の看護師に対する研修会は計4回に分け、日赤からも看護師などのメンバーが、パソコンの画面を通して研修会の様子を見守りました。コロナ禍で現地に一度も行ったことが無い日赤メンバーにとっては、このような研修会の支援は初めての経験となりました。

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[1] 酸素が必要な患者の看護。現地では喫煙者が多いため呼吸器に関連した疾患患者が多い。[2] 膀胱から直接尿を排泄するために入れておく管。安全な挿入方法や管理方法が重要。[3] 静脈内に薬液を注入するので、即効性があり、患者に及ぼす影響が大きく、とても責任の重い看護行為。

「実際に現場で活用する」

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静脈注射の実演。回を重ねる毎にこうした実演を数多く実施。日赤メンバーもパソコンの画面を通して実演を確認。左端は日赤のハムディ職員

研修会の初回では、過去の良い事例や悪い事例を参加者で話し合うはずが、資料を配って終わってしまったり、看護の実演をする予定を飛ばしてしまったりと、それぞれの講師の緊張感が伝わってきました。また日赤メンバーも、講義がアラビア語で行われるため、通訳を介して理解するのに苦労していました。

こうした問題点は、毎回の振り返りの中で解決策を見つけていきました。また事例討議と実演回数を増やすことも決め、このことが、「楽しみながら学べた」という参加者の声となりました。講師からは「現場で実際に活用していくことが目的なので、これから実践したい」という前向きな話がありました。

コロナ禍前から、日赤チームの一員として活動しているのはハムディ職員です。遠隔支援となった後は、唯一の日赤職員として現地で奮闘しています。「遠隔では難しいこともたくさんありますが、「日赤スタッフがガザに来て教えてくれたことや、遠隔となった後も多くのサポートがあったので、ここまで頑張ることができました。本当に感謝しています。」困難な遠隔支援ですが、日赤は今後も、機会を制限された現地の医師や看護師に学びの場を提供していきます。

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