熊本でつながる、支援のバトン(令和8年熊本地震)

令和8年熊本地震 熊本でつながる、支援のバトン

7月28日に発生した熊本地震。日赤は、発災直後から救護活動や避難所支援を開始。そこには、職員やボランティア、さまざまな立場から「救う」活動に全力を注ぎ、被災者の思いをくんで最善を尽くす姿がありました。現地から5人の活動を紹介します。

Voice 現場の声

1

日赤熊本県支部
講習係長

江上 詩帆(えがみ しほ) さん

避難所運営を支援

「避難所で高齢者が心肺停止したら?」
運営者の不安を聞き、救急法を指導

避難所(八代トヨオカ地建アリーナ)で行われた救急法講習

避難所で行われた救急法講習で胸骨圧迫を練習する参加者
訓練用人形で胸骨圧迫を実演する江上さん
避難所の管理者を対象としたBLS指導のためAEDトレーナーなどを避難所に持ち込み講習を実施した江上さん

それは、八代市で避難所運営をしている団体が赤十字救護班に吐露した不安から始まりました。「この避難所は高齢者が多い。この方たちが、急に倒れたり心肺停止したり、万一のことが起きたらどうしよう…。BLS*の講習を実施できないか?」。それを聞いた救護班が「すぐに講習用の人形とAEDトレーナーを持ってきて」と、日赤熊本県支部に連絡。真夏の避難所生活は高齢者には過酷です。講習の日時や参加者募集など「計画」している間に体調を崩す方が出てもおかしくありません。大急ぎで講習用の人形とAEDトレーナー3セットを用意し、救急法の指導員資格を持つ私と、他県から応援で来ていた日赤職員二人で避難所に駆けつけました。運営の方々は驚き、「相談したら、こんなに早く来てくださるなんて! すぐに人を集めます! 」と、その場で講習がスタートする流れに。集まったのは10代から60代までの運営スタッフ12人ほど。初めてAEDの操作や胸骨圧迫をする方もいて、講習の最後には避難所内のどこにAEDがあるのかも一緒に確認しました。

私は現在、熊本県支部で救急法などの講習を担当していますが、昨年春まで熊本赤十字病院の看護師でした。10年前の熊本地震の発生時は、たまたま熊本を離れ東京都内で研修を受けており、大混乱に陥りながらも基幹病院として被災者の治療にあたる病院の救護活動に従事できませんでした。そのことがずっと心残りでしたが、支部職員として今回の災害と向き合うことで、当時の申し訳ない気持ち、力になれずに苦しかった気持ちを少しずつ消化している感覚もあります。以前、日赤の本部の研修で、講師の方に「赤十字は絶対に見捨てないから」と言われたことがあります。聞いたときは正直、具体的なイメージが湧かなかったのですが、今回、全国から赤十字救護班が入れ替わり立ち替わり駆けつけ、熊本のために活動してくれる光景を見て、その「見捨てない」姿勢と行動力を、身をもって感じています。

*心肺停止や呼吸停止に陥った人に対し、救急隊や医師が到着するまでの間に行う応急手当「一次救命処置(Basic Life Support)」の知識と実技を学ぶ講習。

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2

熊本市立清水中学校
校長
(熊本県青少年赤十字指導者協議会長)

小崎 洋之(こざき ひろゆき) さん

赤十字ボランティア

最前線で救う人々が動きやすくなるように
後方支援は赤十字ボランティアの醍醐味

熊本県支部で業務の説明を受ける小崎先生
熊本県支部に駆けつけ、業務の説明を受ける小崎先生(左)。車両運転のボランティアとして参加

10年前の熊本地震で気づきました。最前線で人を救う人たちが、より動きやすくなるように、「後方支援」が重要なのだ、と。赤十字ボランティアのやりがいはまさにそれです。地震の後、私が校長を務める中学校も避難所になりましたが、数日で解除となり、そこに舞い込んできたのが、支部からのボランティア要請。本社から駆けつけた日赤職員を被災地へ運ぶ運転手の募集でした。すぐに手を挙げ、支部に向かうと、職員の方々が目まぐるしく動かれていて「今こそボランティアの力が必要だ」と感じましたね。無事に運転業務を終え、挨拶して帰ろうとしたら「救護倉庫を見ていきませんか?」と。喜んで応じたところ、倉庫では大量の救援物資を車に積んでいる真っ最中。うずうずして手伝わずにはいられませんでした(笑)。最前線で動く赤十字は、その内部で何層にも支え合うことで、初めて被災者が求める支援を届けることができるのだと思います。私はJRC*の指導者なので、ふだんから生徒たちに「利他」の心を伝えていますが、今回は私自身が、支え合う赤十字の一員になれたことを光栄に思います。

*青少年赤十字

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3

熊本赤十字病院
国際医療救援部

富田 香秀(とみた かほ) さん

避難所を支援

被災者を苦しめた「断水」
国際救援の「給水・衛生支援」ノウハウが生きた

WASHチームで手洗い場の水道を設置する富田さん
断水している避難所に設置された洗濯機
(写真・上)WASHチームで手洗い場の水道を設置する富田さん(右)/(写真・下)断水している避難所に洗濯機も設置

「手を洗える」「洗濯できる」という普段の生活では当たり前のことが、避難生活で、いかに重要か。私たちの給水・衛生支援は、まさに「命と健康を守る」ことにつながる活動でした。

熊本赤十字病院は、海外で災害が発生した際に川などの水源を浄水して、シャワーや手洗い場などを設置する「WASH*」チームが在籍する日赤施設の一つです。日頃から人材育成や資機材整備を行い、海外だけでなく能登半島地震でも活動しました。その実績から、今回は断水が続く避難所(八代市内の中学校)で活動することになりました。

活動前に状況を確認したところ、手洗い場が断水のため使用できず、トイレ利用後に十分に手洗いができていないとのこと。さらに、下痢や腹痛を訴える方も増えており、衛生環境の改善が急務。そのため、トイレ周辺に新たな手洗い場を設置することになりました。

まず事前に衛星写真などで周辺の水源を探し、避難所となっている中学校の体育館から約200メートル離れたプールの水を活用する計画を立てました。しかし、その距離を手持ちの資機材でつなげられるか、また途中のグラウンドが避難者用駐車場になっており、車両によるホースの破損の心配など、多くの不安が…。ところが、現地に到着すると、避難所を運営する皆さんが家庭用ホースを何本もつなぎ、プールから避難所まで水を引いてくださっていたのです! おかげで無事に手洗い場を設置することができました。また、避難されている方から洗濯ができず困っているというお話を聞き、翌日には近隣住民も利用できるように屋外に洗濯機を設置しました。活動中、赤十字のマークを付けた私たちが水道工事のような作業をしている姿を見て、「日赤って、そんなこともするの!?」と驚かれたり、避難者の健康支援をされている方には「避難者の健康を守る環境が整った」と喜んでいただきました。

私たちWASHチームは水そのものを被災地に持っていくことができません。水源の利用を認めてくださる地域や行政の方々、そして避難生活を送る皆さんのご理解とご協力があって初めて支援が成り立ちます。今回は「災害支援は多くの人の力で実現する」ことを改めて実感した活動となりました。

*「Water, Sanitation and Hygiene」の略。水と衛生の総合的な分野を指し、災害時に安全な水の確保や環境衛生の改善を行う。

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4

金沢赤十字病院
副部長

富樫 純治(とがし じゅんじ) さん

熊本県支部をサポート

能登から熊本へ
あの時の「苦悩」と「感謝」を忘れない

活動内容を説明するCoTのメンバー
地図を前に情報を整理するCoTのメンバー
被災地の情報を収集・分析し、救護班等の活動調整を行うCoT(写真下・右が富樫さん)

今回の地震発生の直後、福井県や富山県など近隣8県の支部と派遣を調整する中で「できれば石川県のチームを、最初に行かせてもらえないか」と申し入れました。2024年の能登半島地震の恩返しとして。そして、“支援を受けた側”として得た教訓を、次につなぐために。救護活動の進化に貢献することも、受援を経験した者の使命だと思います。

こうして希望が叶い、8月2日にCoT*として熊本に入りましたが、2年半前の能登での活動を思い出す一方で、被災者の苦しみは災害ごとにこんなにも違う、と思い知らされました。正月に地震が発生した能登では、電気も使えない中、どうやって厳冬期の寒さをしのぎ命を守るかが課題でしたが、今回の熊本の場合は、酷暑の中、どうやって熱中症を防ぎ、避難者の健康を守るかが課題。また、10年前の熊本地震では亡くなった方の8割が、地震後の避難生活などが原因で命を失う災害関連死だったことから、全赤十字が「災害関連死を0に」という大きな目標を掲げていました。そのため、熱中症や車中泊によるエコノミークラス症候群、DVT(深部静脈血栓症)の予防のため、行政や警察とも協力して啓発を行いました。

災害後の状況が異なっても、能登と同じだと感じる部分もありました。ある避難所で保健師さんと支援の相談をしていたら、その保健師さんが涙をこらえきれなくなり…。自身も被災者なのに、支援側として休むこともできず、心も体も耐え切れなくなる。赤十字が救うのは、避難生活を送る方だけではありません。被災地で苦しむ全ての人が私たちの救護の対象です。そのため、「こころのケア班」が「支援者のための支援」を行っています。

こうして、さまざまな課題に直面する中、励みになったのは、能登に支援に来てくれた全国の赤十字関係者との再会です。同じ赤十字の原則(視点)で動き、本音を語れる、「赤い服」の仲間たち。全国どこで災害が起きても、この赤十字のネットワークがあれば、被災者を救うことができる、と確信しています。

CoT*

災害医療コーディネートチーム。先遣隊として被災地へ派遣され、保健医療ニーズの把握や関係機関との連絡調整、全国から集まる医療救護班の管理を行う専門チーム。CoTは救護班のように被災者を直接診察することはないが、例えるならば「1つの救護班で100人を救う」能力を「10個の救護班で1万人を救える」ように救護力を最大化する役目を担う。

Voice 現場の声

5

熊本赤十字病院
看護師(看護部兼国際部 係長)

小林 賢吾(こばやし けんご) さん

熊本県支部をサポート

熊本で磨かれた、「つなぐ力」
必要な支援を確実に届けるために

熊本県支部で支援業務に携わる小林さん
熊本県支部で支援業務に携わる小林さん(左)

熊本では日赤の病院と支部が同じ敷地にあり、定期的に合同で災害訓練をするなど密な関わりがあります。一方、災害が起きると、「支部は支部」「病院は病院」で動き始める傾向がありました。

今回の地震で大きく変わったのは、支部と病院が一体となって支援体制を組み立てたことです。熊本赤十字病院は、2016年熊本地震、2020年7月豪雨、能登半島地震などを通して、必要な支援を確実に届けるには、現場で動く救護班だけでなく、全体を見て支援をつなぐ「コーディネート」が重要だと学んできました。

私は平時は手術室で勤務し、災害看護専門看護師としても活動しています。今回は院長の指示で発災直後から県庁の保健医療福祉調整本部に入り、その後は支部の災害対策本部でも、被災者の健康と生活への影響を見ながら、県庁⇔支部⇔地域の活動拠点をつなぐ調整を行いました。災害医療コーディネーターの医師、DMAT、地域の保健師とも連携し、組織を越えてつながることで、被災者の健康と生活を守るために必要な支援をより確実に届ける体制が、熊本で形になりつつあると感じています。

熊本赤十字病院の
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