令和8年熊本地震 災害医療コーディネーターから見た熊本地震 ―ワンチームで支援を届けるために―

 7月28日、大きな揺れが熊本を襲ったとき、熊本赤十字病院の救急科に勤める山家(やまが)医師は、病院内の勉強会に参加していました。「甚大な被害が出ているかもしれない。」直ちに部署に戻った山家医師は、事前に準備していた行動計画に沿って、診療統括部門のコントローラー(仲介調整)の役目を担うことになりました。エレベーターが停止するなどの問題はあったものの施設に大きな被害はなく、通常の患者さんの対応を続けながら、被災した病院から搬送される患者さんを受け入れ、病院スタッフが一丸となって災害救護体制を整えました。

 翌日より、山家医師は八代市内の病院に置かれた活動拠点に赴き、日本赤十字社(以下、日赤)の医療救護活動を調整する「災害医療コーディネーター」の任務に携わりました。日赤の活動を支えるコーディネーターの取り組みを、山家医師がご紹介します。

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熊本赤十字病院 救急科 山家医師

■ 情報を集め、整理し、支援の仕組みをつくる

 大きな災害が起きると、真っ先に医療チームが被災地に駆けつけるイメージがあるかもしれません。しかし、現地の状況や行き先も定まらないまま多数のチームが集まると大きな混乱が生じ、適切な支援ができないどころか、被災地にさらなる負担をもたらします。援助に携わる者が最初に行うべきは、情報収集と活動を調整する仕組みづくりです。

 地震発生後、日赤は熊本県支部、熊本県庁、そして被害の大きかった八代市、氷川町、宇城市にコーディネーターのチームを配置しました。私は発災翌日から3日間は八代市、その後は熊本県支部で災害医療コーディネーターの役割を担うことになりました。その活動は多岐にわたります。まずは、保健所や被災市町の会議などに出席して情報収集を行います。熊本県庁や被災地の保健所などに「保健医療福祉調整本部」が設置されました。これらの場所に日赤災害医療コーディネーターを配置することで、災害派遣医療チーム(DMAT)をはじめとする多くの支援団体との協働や調整が可能になりました。日赤は、熊本県内のみならず、全国からの救護班を派遣することになりましたので、その方針や全体計画づくりにも携わりました。

行政関係者と活動計画を協議する山家医師(中央)

行政関係者と活動計画を協議する山家医師(中央)

 災害の直後は情報が錯そうするものですが、日本全体で多くの災害を経験する中で他団体との協働体制が築かれ、今回の地震では比較的早い時期から情報収集ができていました。10年前の平成28年熊本地震を経験して、日赤も、他の医療機関や行政機関も訓練を重ねてきましたので、コーディネーターの調整下で救護班が活動することにより、どこに避難所が設けられ、どれだけの方がいらっしゃるのか、避難所の環境や人々の健康状態はどうか、といった調査結果が集められて、共通のフォーマットに整理されました。

■ 優先順位を決めて、必要な支援につなげる

 得られた情報から支援の緊急度を判断し、優先順位を決めるのも大事な任務です。日赤の救護班がどの避難所から巡回するか、どれだけのチームを派遣するのか、さまざまな判断と調整が必要となります。予想外のことも生じます。私は普段は救急外来に従事していますが、救急診療も想定していない事態に対処し、いのちを救う重い責任を常に負っています。ですので、災害への緊急対応も実は同じであると思っています。

 救護活動には「コマンド&コントロール」という明確な指揮命令系統が重要です。私が意思決定して良いことといけないことを見極め、日赤の中で出来ないことは他の機関や団体と相談して解決する、そのようなタテとヨコの連携がしっかり出来ることで、被災地・被災者のための支援活動が成り立ちます。「被災者のお役に立ちたい」という優しさや熱意は素晴らしいですが、それだけで行動すると「支援の押し売り」になってしまう危険があるのです。災害救護にはルールがあり、統制と調整のもとに行う。その秩序を正しく働かせることがコーディネーターの使命です。

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被災地のニーズに沿って避難所を巡回する日赤救護班(熊本県 宇城市)

■ 医療にとどまらない支援を届けるために

 今回の災害では、比較的早い段階で地域の病院やクリニックなどの医療機関が、被災しながらも診療を再開してくださったことがとてもありがたかったです。もちろん、避難所で体調を崩す方や健康の不安を訴える方々がいらっしゃるので、日赤の救護班が診察をすることもありました。しかし今は、出来る限り、住民の皆さまが地域のかかりつけ医の先生方の医療機関を「いつものように」受診してくださるようお勧めすることを心がけています。

 一方で、発災当初に避難所の環境を調査する中で、改善の取り組みが必要と思われる場所もありました。生活環境が整わないことで心身の健康を損ねたり、感染症が蔓延したりするリスクが高まります。そこで、日赤の救護班は、他団体の皆さまと一緒に段ボールベッドの設置や、床の清掃など、さまざまな活動を行いました。医師、看護師、薬剤師などの職種に関わらず、皆が少しでも環境を改善し、そこに避難する方々の苦痛を軽減し、感染症などのリスクから人々を守り、生活不活発を予防するために活動しました。「被災者ファーストで何でもやる」を徹底しました。

 熊本は、平成28年に発生した地震、令和2年と7年の豪雨災害、そして今回の地震と、繰り返し大きな災害に見舞われました。そのたびに、全国の皆さまや海外からも私たちに寄り添ってくださいました。被災県の熊本で働く医師として、また日赤のスタッフとして、心から感謝申し上げます。そして、政府や行政機関、さまざまな団体の皆さまと、連携・協力して活動を続けられることを心強く感じています。

 今後、外部からの医療支援の規模は小さくなっていくかと思いますが、被災された方々の生活再建には、まだ時間がかかるかもしれません。とくに、「こころのケア」の支援が必要です。余震もあり、「避難所から家に帰るのが怖い」という声もお聞きします。引き続き、被災地の求める支援とは何か?を常に意識しながら、日赤に、そして私自身に何が出来るのかを考え、行動していきます。