令和8年熊本地震 船上から人びとの健康をサポート ―八代港での新たな取り組みに日赤救護班が参加―
8月5日、熊本県八代市の八代港に、防衛省が借り上げた民間フェリー「はくおうⅡ」が停泊し、船内の大浴場を被災地の方々に開放しました。八代市内では各地で断水が発生し、猛暑の中、避難所などでの入浴が困難であったことから、多くの方々が船内の入浴施設を訪れ、汗を流しました。
災害時の医療救護に船舶を活用する取り組みは、令和3年に法律が整備され、内閣府を中心に防衛省、日本赤十字社(以下、日赤)、全日本病院医療支援班(AMAT)、日本医師会災害医療チーム(JMAT)、などが参加して、実施体制を整えてきました。令和7年12月には内閣府と日赤が協定を締結して、日赤救護班による活動の枠組みを構築しました。
こうした背景から、八代港での活動には日赤医療センター(東京)の救護班が派遣され、乗船者の問診や検温などの健康チェックにあたりました。八代港での救護班の活動を、日赤医療センター国内医療救護部長の諸江医師が振り返ります。

八代港に停泊するフェリー 「はくおうⅡ」
■ 船舶活用医療: 島国・日本における災害救護の新たな切り札

日赤医療センター 国内医療救護部 諸江医師
今回の地震を受けて、私は政府と日赤との協定に基づく内閣府調査チームの一員として熊本県に入り、被災状況や支援ニーズなどの情報収集に携わりました。活動初日の8月1日、熊本県知事から政府に対して、船舶による被災者支援の要請がなされたことを知りました。
私はこれまでも、「船舶を活用した医療提供体制のあり方検討会」に日赤の医師として携わり、船舶活用医療の推進に向けた話し合いに参加してきました。日本は海に囲まれた島国であるため、海上からのアプローチが有利になる場合があります。例えば、令和6年能登半島地震では、土砂災害などで一部の道路が通行止めになり、被災地へのアクセスが制限されました。しかし、被災地近隣で被害を受けていない港に、船を安全に着岸させることが出来れば、より早く、より多くの支援物資や要員を現地に届けることが可能になります。
令和7年には、「災害時等における船舶を活用した医療提供体制の推進に関する計画」という国の指針が定まり、具体的な手順も協議されました。例えば、被災地で多数の負傷者が発生した場合、こうした方々を船で被災地外の医療機関まで搬送することが想定されます。あるいは、被災地の港に長期間停泊して、救護活動を行ったり、船室を被災者に宿泊施設として提供したりすることも考えられます。日赤は、内閣府との協定に基づいて、船の上という特殊な環境下での医療救護サービスを実現するため、資機材などを準備し、船を用いた国の実働訓練にも参加してきました。
■ 日赤救護班の取り組み: 避難生活で疲れた心身を休めていただくために
今回、防衛省は民間借り上げ船の大浴場を開放する支援を計画していました。そこで、内閣府は新たな船を用意する代わりに、同じ船内で船舶活用医療を実施することとし、防衛省と調整を図ってきました。続いて、関係機関による役割分担を話し合いました。入浴サービスは防衛省が行うほか、日赤救護班は乗船者の健康チェックを行い、体調が優れない方に対して、JMATのチームが船内の救護所で対応することになりました。これを受けて、8月3日に日赤医療センターから医師、看護師などの9人で構成される船舶医療対応の救護班が熊本に到着しました。
8月4日の午後、「はくおうⅡ」の大きな船体が八代港に現れました。当初の予定より3時間も早く入港したことから、急きょ、救護班に集合を促すハプニングもありました。医療資機材などを船内に持ち込み、関係機関が協力して準備を行いました。停泊しているとはいえ、船上での最高指揮官は「船長」です。船内には多くの部屋や設備があり、通常の避難所とは勝手が違います。船員の方々の協力も欠かせません。まずは、船内の受付や救護所などのレイアウトを確認しました。また、狭い場所もある船内で車いす利用の方を安全に案内できるルートを設定し、事前にシミュレーションを行うなど、誰もが安心してサービスを受けられるよう、念入りに備えました。
そして、8月5日の午後2時、いよいよ活動が始まりました。避難所からの送迎サービスも行われ、徐々に利用者が集まって来ました。乗船すると、まず、入口のホールで日赤救護班がお迎えします。問診票に沿って体調をお聞きしてから、体温を計測します。避難所では感染症も報告されており、その拡大を防ぐことが目的です。併せて、健康状態が優れない方がいらっしゃれば、早期に適切な医療サービスにつなげる役割も担いました。
小さなお子さんからご高齢の方まで、合わせて187人の方々が訪れ、大浴場でのひと時を満喫されました。お元気にもかかわらず体温計の数値が上がっている方には、ホールで少しお休みしていただいたところ、平熱に戻ったケースがありました。炎天下を歩いて来られたためと思われます。親子連れの利用者も多いことから、急遽、船内の部屋をプレイルームに仕立てて、医師や看護師、内閣府の職員などが子供たちの遊び相手になりました。救護班の誰もが「避難生活の中、皆さまに海の上でリフレッシュしていただきたい」という思いで活動しました。中には、体調が優れない方もおり、救護所に案内しました。また、ストレスや不安を訴える方には、別室でお話しを傾聴し、こころのケアを行いました。

乗船される方をお迎えする日赤救護班

お一人ずつ健康状態を確認する日赤救護班
■ 災害救護の学びを、備えに活かす
八代港での日赤救護班の活動は、日本初の船舶活用医療でしたが、台風が九州に接近したため1日限りとなりました。しかし、今回の取り組みは、船舶活用医療の実践への大切な学びとなりました。日赤の救護班は、避難所や地域を巡回しており、被災された方々によく認知されていました。そのため、船上で赤い救護服でお迎えすることで、安心感を得ていただくことができたと感じました。陸上でも船上でも終始一貫して、被災された方々の健康を守ることこそ、日赤の使命であると思います。
最近の日本では、地震、火山噴火、豪雨、豪雪などの自然災害が頻発しており、いつ、どこで被災しても不思議ではありません。日赤は全国に活動拠点があり、スタッフやボランティアが控えています。船舶で避難をする際は、その出発地にも到着先にも日赤がいて、活動しています。その使命と責任は大変重いと感じています。
熊本地震の発生から2カ月が経過しました。被災地では地域の医療サービスが復興し、日赤救護班の活動も収束しました。しかし、日赤は今後も地域に根差した支援を実施して参ります。併せて、日頃から災害への訓練を重ね、関係機関と連携して、いざという時にしっかりと活動ができるよう、備えを確実にしてまいります。
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