「家庭のぬくもりをすべての子どもたちに」乳児院の里親支援事業
現在、家庭の事情で家族と暮らせない子どもが全国に約4万2000人います。乳児院や児童養護施設には虐待を受けた子どもの入所も増加しています。こうした子どもたちがより家庭に近い環境で安心して生活できるようにするために、里親制度が重要な役割を果たしています。
この里親制度に対する理解を進めるため、こども家庭庁では、毎年10月を「里親月間」と位置づけ、集中的な広報啓発を行っています。
■「里親制度」とは
積み木で遊ぶ子どもと里親
里親制度は、家庭で暮らせない子どもを一定期間または継続的に家庭に迎え入れ、愛情と責任をもって養育する制度です。里親には、養育里親、養子縁組里親、親族里親、専門里親などがあり、子どものニーズに応じてさまざまな役割があります。
里親家庭で過ごすことで、子どもは大人との安定した愛着関係を築き、家庭や社会との関わりを学びながら成長することができます。
日本赤十字社(以下、日赤)が運営する乳児院と児童養護施設では、施設内での養育だけでなく、里親制度の普及活動や里親支援の推進にも力を入れています。
その中でも、松本赤十字乳児院と松江赤十字乳児院では「里親支援センター※」が設置され、より包括的な里親支援を展開しています。
今回は、 そのうち松江赤十字乳児院の里親支援センター「里親家庭サポートセンターてのひら」のほか、 里親委託支援事業を行っている乳児院の一つである日赤岩手乳児院の取り組み、そして子どもたちを支える職員の思いを紹介します。
※里親支援センター:令和4年(2022年)の児童福祉法改正によって新たに児童福祉施設として位置づけられた施設。里親への相談・研修・マッチング・委託後の支援など、里親制度の包括的なサポートを行う。
■子どもの幸せのために―「里親家庭サポートセンターてのひら」の取り組み
「里親家庭サポートセンターてのひら」(以下、てのひら)は、令和7年4月1日に松江赤十字乳児院内に設置されました。“てのひら”という名前には、手のぬくもりで子どもを包み込みたいという思いが込められています。
てのひらでは、制度の啓発から研修、マッチング、委託後の支援まで、一貫した里親支援を行っています。
▪ 知ってもらう〈啓発活動〉
里親制度への理解を広め、社会で子どもを育てることの大切さを知っていただくため、広報活動を行っています。里親になることを希望する方もそうでない方にも興味を持ってもらえるよう、インターネットでの情報発信やパネル展、街頭活動、相談会、出前講座など、さまざまな方法で啓発に取り組んでいます。
市役所ロビーでのパネル展示
地域住民対象の里親制度の説明会
▪ 里親になるために〈研修・トレーニング〉
里親登録に向けた法定研修やレベルアップ研修や養育体験事業を実施し、里親希望者が子どもへの理解を深められる機会を提供しています。
▪ 子どもと里親のマッチング〈委託支援〉
子ども一人一人の特徴や背景、里親希望者の思いを丁寧に聞き取り、どのような子どもを受け入れられるかを慎重に判断しています。委託する前から子どもと里親の顔合わせや交流の機会を設け、実際に里親宅で過ごす体験も行っています。こうした段階を踏むことで、子どもが安心して新しい家庭になじめるような支援を心がけています。
▪ 委託後の支援〈養育支援〉
子どもたちの養育環境がより幸せなものとなるよう、センターでは委託後の支援にも力を入れています。里親家庭同士が集まり、子どもたちと一緒に遊んだり、喜びや悩みを分かち合う「ひまわりネット会」を行い、里親家庭の交流を行っています。
交流会では、ともに歩む思いを込めて親子で手形を押す“てのひらの木”を作成
▪ 里親支援に込めた思いとこれから
てのひらセンター長にお話を伺いました。
親子が集う遊び場「育児サロン」で子どもに声をかけるセンター長
「子どもを取り巻く背景は年々複雑になり、子どもの特性も多様化しています。多くの需要に応えるためにも、里親希望者をもっと増やし、地域全体で支える社会づくりが大切です。てのひらはまだスタートしたばかりですが、子どもたちが安心して暮らし、自立できるよう、関係機関と連携し、最大限の支援ができるよう全力で取り組んでいきます。」
てのひらのホームページはこちらです。ぜひご覧ください。
■“もうひとつのおうち”を子どもたちへ―日赤岩手乳児院での里親支援
日赤岩手乳児院では、乳児院の事業として、里親委託の支援を行っています。主な取り組みは、里親制度の普及啓発活動と、里親委託後のフォローです。
里親希望者も、子どもと触れ合った経験が少ない方、実子の子育てをしながら子どもを迎える方、共働きの方など、家庭の状況や経験はさまざまです。
そこで、里親同士が自由に悩みや不安を話せる場として「里親サロン」を定期的に開催しています。これから委託を受ける予定の里親も参加できることから、サロンは貴重な交流の場になっています。
サロンでの入所児とのふれあいで子どもへの理解を深める里親希望者

サロンでの出会いから里親の笑顔と安心が生まれている
参加者からは「子育てに自信がなかったけど、話を聞いてもらってすっきりした」「先輩里親さんと話して知識が増え、できることから頑張ろうと思えた」「悩みながら子育てしているのは自分だけじゃないと感じられた」などの声が寄せられ、里親や未来の里親の心のよりどころとなっています。
また、乳児院に集まってもらうだけでなく、家庭訪問や電話相談などの支援もしており、里親が独りで悩みを抱え込まないよう、委託後も途切れないサポートを続けています。
▪ 里親支援の課題とこれから
里親支援専門相談員にお話を伺いました。
入所児とおもちゃの貸し借りを練習する里親支援専門相談員
「乳児院では家庭的な雰囲気を大切にしていますが、集団生活ではどうしても限界があり、“自分だけを見てくれる大人”と安定した愛着関係を築くことが、子どもにとって大切な経験になります。また、里親制度が広がる中で、持病のある子どもや障がい児の委託も増えていますが、受け入れ先はまだ十分とは言えません。里親制度の中には、さまざまなケアを必要とする子どもの養育を担う専門里親というものがあります。こういった里親のスペシャリストが増え、ケアを必要とする子どもたちもこぼれ落ちることなく、家庭で育つことができればと思います。今後も、里親を目指す方が、ケアを必要とする子どもの受け皿となれるよう、育成に従事していきたいと思います。」
日赤のYouTubeチャンネルでは、日赤岩手乳児院の里親支援について紹介する動画を公開しています。ぜひこちらもご覧ください。
■里親制度のさらなる推進を目指して
このほかの児童福祉施設でも、里親相談会やレスパイトケア(一時預かり)、里親家庭への訪問など、さまざまな形で里親支援や制度の普及に取り組んでいます。
社会全体に里親制度の理解が広まり、安心して養育できる環境が整い、里親となる方が増えることで、家庭的な環境で育つことができる子どもがさらに多くなります。
日赤の施設では、子ども一人一人が安心して成長できる環境づくりを目指し、里親制度の推進にも力を尽くしてまいります。
すべての子どもが安心して成長できる社会の実現のために、里親制度へのご理解とご協力をお願いいたします。
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