学びが次の学びを生む―モンゴルで広がる人材育成の循環
日本での学びが、モンゴルの現場で実践へとつながっています。
2026年5月、日本赤十字社(以下、日赤)の招へいプログラムに参加したモンゴル赤十字社(以下、モンゴル赤)の職員は、帰国後、指導員を対象とした研修の企画・運営に携わり、その成果が形となり始めています。

日赤本社を訪問したモンゴル赤職員 (左から順にゾルジャルガル氏、ナルハジッド氏、ツァガーンダリ氏、ウスフバヤル氏)
日赤はモンゴル赤と連携し、2024年から3か年にわたって、「救急法」と「こころのケア」における人材育成と活動の強化を目的とした協力を進めています。3か年の最終年度にあたる2026年は、これまでに養成された支部職員の救急法の技術をさらに向上させ、日本での学びをモンゴルでの実践につなげることに重点を置いています。
この記事では、2026年5月に日本を訪問したモンゴル赤支部の救急法指導員3人の様子と、その後のモンゴルにおける取り組みについてご紹介します(本社職員1人も同行)。
日赤救急法講習会運営の知見を得るため、島根県支部を訪問
日赤の救急法講習会は各都道府県支部が主催し、計画・運営しています。今回の来日では、日赤の講習会運営に関する知見を得るために、島根県支部で、職員との講習事業に関する意見交換、講習会の視察を行いました。

招へいプログラムの一環で訪問した日本赤十字社島根県支部の皆様と
講習事業に関する支部職員との意見交換会では、それぞれの講習の特徴や実施方法について共有し、活発な議論が交わされました。特に、モンゴル赤職員からは講習指導員の資格や指導手法・運営方法に関する質問が出されるなど、モンゴル国内での指導員制度の整理や質の向上への関心の高さがうかがえました。
心肺蘇生とAEDの使い方を扱った救急法短期講習の視察では、ボランティア指導員がホワイトボードにキーワードを示して説明する工夫や、講習内容の要点をまとめた資料を配付する指導手法に強い関心が寄せられ、自国における講習の質の向上に生かしたいという意欲が見られました。また、受講者が協力して資器材の片付けを行う様子にも注目が集まり、指導員不足という同国の課題解決の一助になると考えられます。
短期講習終了後には、ボランティア指導員と受講した地域住民との意見交換の場が設けられました。指導員が地域で講習を普及させる思いを語る機会となったほか、地域のコミュニティのあり方についても話し合われ、貴重な交流の場となりました。
帰国後の実践―リフレッシャー研修で発揮された成果
6月にモンゴル国内で実施された、救急法の復習と技術向上を図る研修では、日本での学びが各支部でどのように実践へと展開されたのかが具体的に共有されました。
モンゴルで頻発するけがの手当に対して使用頻度の高い9つの手技を中心に、三角巾の扱い方や結び方、手の位置といった細かな動きを一つひとつ確認しながら指導が行われました。これまで経験や感覚に頼る部分の多かった手技について、その理由も合わせて整理されたことで理解が深まり、参加者が自信を持って伝えられる土台が整いつつあります。来日研修に参加した3人のモンゴル赤職員が中心となって進行する中、指導員同士が互いに教え合う姿も見られ、研修全体に主体的な学びが広がりました。
研修の最後に行われたシミュレーションでは、工事現場での事故や道路の凍結による転倒など、モンゴルで想定される場面をもとに対応を実践し、参加者同士によるフィードバックを通じて理解を深めました。また、統一した確認項目に基づくテストも実施され、特に細かな手技の定着が確認されるなど、学びが確かな形として表れています。
また、日本での学びをもとに、講習実施など支部の活動資金確保に向けたチラシの試験的配付や動画教材の作成・公開に取り組むとともに、各支部や協力団体への働きかけを行い、活動状況の改善につなげた事例も報告されました。
日本を訪問したモンゴル赤支部の救急法指導員の声
今回の来日研修に参加したモンゴル赤オルホン県支部のゾルジャルガル氏は、日本での研修を通じて、包帯法などの手技を標準化された手順に基づいて正確に行うことの重要性を学びました。これまで曖昧だった手技についての理解が整理されたことで、「現場でより確実に活用できる」と実感しています。
また、ゴビ・アルタイ県支部のツァガーンダリ氏は、参加者の知識や経験を引き出しながら進める双方向の研修手法の有効性を強調します。「一方的に教えるのではなく、参加者が主体的に関われる研修のほうが、より理解が深まる」という考えのもと、帰国後の研修では実技や対話を重視した進行を心がけました。
さらに、首都ウランバートルのスフバートル地区支部のウスフバヤル氏は、「重要なポイントに焦点を当てて伝えることの大切さ」を実感したといいます。帰国後の研修では、三角巾を用いた応急手当などを中心に、参加者が実際に手を動かしながら学べる機会を多く設けました。
来日した4人とも、帰国後の研修を通じて指導に対する自信の向上を実感しており、「今後は各支部や地域に学びを広めていきたい」と、活動のさらなる展開に意欲を示しています。
2026年は3か年の最終年度となり、これまでの成果を一時的なものに終わらせず、現地での実践を通じて定着させていくことが重要となります。今回の来日を通じて得られた知識や手法が、指導員から各支部、さらに地域へと広がっていくことで、継続的な人材育成の基盤が築かれつつあります。日本での学びが、モンゴルの現場で次の学びを生み出す―その循環が、今後の活動のさらなる発展につながっていくことが期待されます。