悲しみを乗り越え、未来をつくる現場から~日赤ルワンダ現地代表部事業管理要員の視点
日本赤十字社は、2019年よりルワンダ赤十字社との協働により、「ルワンダ気候変動等に対するレジリエンス強化事業(通称:モデルビレッジ事業)」を実施しています。住民が主体となって、貧困や災害に立ち向かう村づくりを目指すこの事業は、昨年6月に第1期事業が終了し、12月には、対象地域を拡大して第2期事業が開始されました。この記事では、2026年4月から日赤ルワンダ現地代表部(キガリ)に事業管理要員として派遣されている、唐津赤十字病院の時津要員が、現地で取り組む活動や、現地の人びととの対話を通じて得られた気づきについて報告します。
私たちは「ルワンダ人」だ―その言葉が意味すること
今から32年前の1994年、ルワンダでは大虐殺(ジェノサイド)が発生しました。現在ルワンダ赤十字社本社のある建物では当時、赤十字孤児院が運営されていましたが、この大虐殺により、中にいた子どもやスタッフだけでなく、避難してきた近隣住民を含め、数十人の方の命がここで失われました。
ルワンダ赤十字社の職員との何げない会話の中で、「1994年の後遺症で病院に行かなければならない」という話や、「当時は国外へ逃れていた」という話を耳にすることがあります。自らが被害者でありながら、今は支援する側として活動している、その歩みの重さを考えると胸が痛みます。
現在のルワンダでは、復興の過程で民族による区分が廃止され、すべての国民が「ルワンダ人」となりました。自分たちを「ルワンダ人」と呼ぶことそのものが平和の表れであり、悲しい歴史から立ち上がった彼らの誇りなのだと思います。
ルワンダ赤十字社 Humanitarian Center にて。同社の歴史や、大虐殺当時使われていた担架が展示されている©JRCS
32年前にそのような悲劇があったとはとても思えないほど、現在のルワンダでは、人びとが穏やかに暮らし、平和が保たれ、経済発展が進んでいます。一方で、その著しい発展の陰で取り残されている地域の一つが、日本赤十字社の支援対象地である、ルワンダ南部のギサガラ郡です。
子どもたちのいのちと健康、尊厳を守るために
現在、同郡の8つの学校を対象に、衛生と栄養の改善に関する啓発活動を行っています。その一環で、赤十字クラブの生徒約400人を対象に、衛生と栄養に関する意識調査を行いました。その結果、調査対象の34%が、トイレの状態や不足を理由に学校を欠席することがあると回答しました。
どのようなトイレなのだろう、と疑問に思われた方もいるかもしれません。私自身も実際に使ってみましたが、地面に深さ4mほどの穴を掘った、いわゆるボットン式で、便座やカバーはありません。電気が通っていないため、ドアを閉めると昼間でも薄暗く、その穴に足を滑らせてしまう不安も感じました。雨の日はどうやってトイレに行くのだろう、どこで手を洗うのだろう、靴がない子や生理中の女の子は清潔を保てているのだろうか…。当たり前のように清潔で安全な環境で学んできた私にとって、深く考えさせられる光景でした。
こうした状況を受け、現在、事業対象の学校では、清潔で安全なトイレの新設や改修に加えて、月経衛生管理(MHM:Menstrual Hygiene Management)ルームの設置を進めています。同時に、手洗いや清掃といった衛生に関する授業を通じて、生徒たちの知識の向上と行動変容を促しています。
先日、ある住民から「子どもが赤十字クラブに入ってから『ごはんの前にちゃんと手を洗いたいから石けんを買って』と言われるようになり、今では石けんを常備するようになった」と言われ、うれしくなりました。
子どもたちが健康的に生活し、安心できる環境で学ぶことができるように、そのためのお手伝いをすることが今の私の仕事であり、この国の将来につながると信じています。
地域住民との対話を大切に活動する赤十字ボランティア©JRCS
地域で支える、地域で強くなる
「家に帰って家族に学びを伝えてほしい。その学びを忘れず、大人になっても生かしてほしい。」
日赤ルワンダ現地代表部の関塚首席代表が、栄養講習会のあとに生徒たちへ伝えた言葉がとても印象に残っています。子どもたちが学んだことを家庭で共有し、その知識が家庭から地域へと知識が広がっていくことで、地域全体の持続的な生活改善につながると信じています。
また、地域の人びとの助け合いの心に感謝する場面もありました。ある暑い土曜日、生徒たちは学校菜園づくりのために土を耕し、畑の土台に使うバナナの葉を集めていました。この活動を主導してくれたのは、モデルビレッジ事業第1期で育成された赤十字ボランティアの方々でした。彼らは、事業を通じて培った家庭菜園づくりのノウハウを、今度は学校菜園づくりのため、生徒たちへ惜しみなく伝えてくれました。
知識を伝え合って、困ったときは助け合って、みんなで生活をより良くする。こうした相互関係が地域全体に広がっていく、それこそがレジリエンス強化なのだと気付きました。
赤十字クラブの生徒たちがクラスメイトに学びを伝えている©JRCS
プランター代わりに、耐久性に優れたバナナの葉、肥料は家畜のフンなど、菜園はすべて自然由来©RRCS
思いをつなぎ、かたちにする
私は、皆さまからいただいたご寄付を無駄にできないという思いと、限られた予算のなかで、いかに活動の質を高められるかを常に考え、事業に取り組んでいます。時には活動内容や予算配分について「うーん」と悩みながら、時には赤十字の7原則に立ち返りながら。
ルワンダでの私の活動は4か月間と限られた期間ですが、事業管理要員として予算計画の見直しや、学校の赤十字クラブの先生方の意見を活動計画に反映させることなど、ルワンダ赤十字社と連携しながら事業の根幹に携わることができました。
思いをつなげてかたちにしていく事業のやりがいを実感しています。これからも誠実に日々の業務に取り組み、少しでも現地の人びとのより良い暮らしに貢献できればと思います。
プロジェクトマネージャーと共に活動計画を協議する時津要員©JRCS