世界難民の日に考える―バングラデシュ南部避難民支援の現場から
毎年6月20日は「世界難民の日」。この日は、紛争や迫害などから逃れるために故郷を離れざるを得なかった人びとに思いを寄せ、難民・避難民の保護と支援に対する理解を深め、支援の輪を広げるために国連が定めた国際デーです。
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の最新報告によると、現在、世界では約1億1,780万人もの人びとが故郷を追われています(2025年末時点)。どこの国の国籍も持たない人は、報告されているだけでも約450万人に上り、実際にはさらに多くいるとみられます。無国籍の人びとの中で最も大きな割合を占めているのは、ミャンマーから逃れた人びとです。
2017年8月、ミャンマー・ラカイン州で発生した武力衝突とそれに伴う暴力行為から逃れるため、約70万人が着の身着のまま隣国バングラデシュへ一斉に避難しました。避難する人はその後も増え続け、現在では118万人を超えています。避難民キャンプでは、多くの制約の中で厳しい日々が続いています。そこに暮らしているのは、私たちと同じ一人ひとりの人間です。
日本赤十字社は、先の見えない状況の中で過ごす人びとに寄り添い、必要な支援を届け続けるため、バングラデシュ南部避難民支援事業を行っています。今回は、現地で活動する山田看護師(日本赤十字社長崎原爆病院)の報告をご紹介します。過酷な状況にあっても、家族や周囲の人たちを大切にしながら懸命に生きる人びとの姿に触れ、その強さや守られるべき尊厳、そして未来について一緒に考えたいと思います。
バングラデシュ南部コックスバザールのキャンプで暮らす、ミャンマーからの避難民の家族©IFRC
■MHPSSとは
私は2025年8月より、バングラデシュ赤新月社のボランティアや職員と共に、デンマーク赤十字社が主導するMHPSS(Mental Health and Psychosocial Support:精神保健および心理社会的支援)の活動に携わっています。MHPSSとは、個人の精神的な安定を図るだけでなく、人とのつながりや安心して生活できる環境も含めて支える活動です。災害や避難生活などの困難な状況においては、不安やストレスだけでなく、孤立や生活環境の変化によって日常そのものが大きく影響を受けます。MHPSSでは、安心できる場づくりやコミュニティとのつながり、必要な支援への橋渡しを通じて、その人らしい生活を取り戻せるよう、回復する力を支えることを大切にしています。
■8年以上が経過した避難民キャンプ、厳しい生活環境
バングラデシュ南部コックスバザール周辺には、ミャンマーから避難してきた人びとが暮らす世界最大規模の避難民キャンプがあり、約118万人が生活しています(2026年1月 UNHCR統計)。新規流入も含め年々増え続ける避難民に対し、一人あたりの支援金額は減少しており、問題の長期化に伴って支援を続ける団体も減少傾向にあります。
その影響は生活全体に及んでおり、教育や医療、生活支援などさまざまな分野で支援が縮小されています。また、2026年4月からは食料支援の一部が削減され始め、人びとの生活はさらに厳しさを増しています。現地では、将来の見通しを持つことが難しい状況の中で、多くの人びとが今も不安やストレスを抱えながら生活しており、人としての尊厳や「安心して暮らせること」の大切さを改めて考えさせられる場面が多くあります。
■CSS(Community Safe Space)で裁縫をする青年が得るもの
MHPSSの一環として設置されているCSS(Community Safe Space:コミュニティ・セーフ・スペース)とは、人びとが安心して集まり、人とのつながりや日常性を取り戻すための場所です。ここでは、刺しゅうや絵画などの創作活動のほか、感情表現やセルフケア、衛生教育など、子どもから大人まで、年齢や性別に合わせたさまざまな活動が行われています。
日赤が支援する避難民キャンプで実施されているCSSの活動の一つに裁縫があります。そこで出会った一人の青年は、これまでに枕カバーやシャツなどを作製しており、現在は一般的に難しいと言われるズボン作りに挑戦していました。彼は、「裁縫は楽しい。ミシンの使い方や作り方を教えてもらって、いろいろなものを作っている。作ったものは自分で使うこともできる。このズボンにはポケットも付けたんだ」と話してくれました。
CSSで裁縫を教えるボランティアは、「避難民の中には新しい服を買うことが難しい人も多い。彼はここで、安心して過ごせる場所を得られ、裁縫を学べ、そして自分で洋服を作れるようになる。裁縫の技術があれば、将来どこかで働ける可能性にもつながる」と話してくれました。
活動を通して得られるのは、単なる技術だけではないのです。安心できる居場所や人とのつながり、自分にもできることがあるという感覚、そして将来への希望もまた、MHPSSの大切な支援の一つだと感じさせる出会いでした。
青年に声をかけると、自分で作ったズボンを見せてくれた©JRCS
CSSを訪問するとすぐに子どもたちが集まり、この日はホワイトボードにイラストを描きながら、一緒に顔や体に関する英語を学んだ©JRCS
■続けていく力、赤十字・赤新月である誇り
バングラデシュ赤新月社で活動するボランティアや職員の中には、ユースボランティアの経験がある人を含め、長年にわたって避難民支援に携わってきた人が多くいます。私は彼らに、どうしてそんなに長く活動を続けられるのか、と聞いたことがあります。すると、彼らは「まだまだ支援が必要な状況が続いているからだよ。それに、赤新月社で働くということは、僕たちにとって誇りなんだ。どこで働いているのか聞かれたときに、『赤新月社で働いている』と言うとそれだけでわかってもらえて、信頼してもらえるんだ。今までの実績があるからだよ」と誇らしげに話してくれました。
世界中で行われている各国赤十字社、赤新月社の活動が、人びととの信頼や支え合いによって成り立っていることを、改めて実感しました。

バングラデシュ赤新月社のMHPSSチーム。週に1~3回、共にキャンプに足を運んでいる、大事な仲間©JRCS

日赤が支援している地域保健活動のメンバー。「バングラデシュ赤新月社で働くことを誇りに思う」と話してくれた©JRCS
■続く青い空
避難民キャンプ内では、たくさんの子どもたちを目にします。とても幼い子どもが、さらに小さい子の世話をしているという、日本では考えられないような光景を目にすることも珍しくありません。このキャンプで生まれ育ち、外の世界を知らないまま成長している子どもも多くいます。
子どもに限らず、同じ空の下で暮らしていながら、私たちとキャンプ内で暮らす人びととの生活環境の違いを目の当たりにし、切ない気持ちになることも多くありました。しかし、そこで暮らす人たちをただ「かわいそうな存在」として見るべきではないのだと思います。
限られた環境の中でも、人は笑い、人とつながりながら生活しています。一人ひとりが少しでも尊厳を保ちながら、自分らしく生きていけるように支えていくこと。そして、それぞれがもつレジリエンス(困難な状況でも乗り越え、回復・成長する力)を育み、守っていくことも、MHPSSの大きな役割だと感じています。

CSSには毎日たくさんの子どもが集まる。日常の変化が少ない彼らにとって、私たちの訪問も一つの刺激となる©JRCS

日赤が支援するヘルスポスト(診療所)。ここでもMHPSSの活動は行われている©JRCS
■「知ること」から「関心を持ち続けること」へ
避難生活が始まってから9年がたとうとする今も、避難民の置かれている状況は、改善されているとは言いがたいものです。避難生活が長期化する中で「自分たちの存在が人びとの記憶から忘れ去られていくこと」を不安に感じている人もいます。
避難民支援には、長期的かつ継続的な取り組みが必要です。そしてその活動の多くは寄付によって支えられています。支援はまず「知ること」から始まるのだと思います。この記事をお読みいただいた皆さまが、遠い国の出来事として終わらせるのではなく、同じ青い空の下でおきている現実に、少しでも関心を持ち続けてくだされば幸いです。
バングラデシュ南部避難民救援金を受け付けています
日本赤十字社は、避難民の心身の健康と尊厳を守るため、支援活動を続けています。皆さまの温かいご支援をよろしくお願いいたします。
※日本赤十字社へのご寄付は、税制上の優遇措置の対象となります。詳しくは税制上の優遇措置をご覧ください。