人びとの力を「足し算」する支援〜パプアニューギニアで広がる、人びとの健康と安全な暮らしを守る活動〜
医療や教育、インフラへのアクセスが限られるパプアニューギニアでは、病気や災害の影響を受けやすい人が少なくありません。日本赤十字社(以下、日赤)は、皆さまからのご寄付をもとに、赤十字の国際的なネットワークを通じて、現地の人びとが自ら健康を守り、困難に備える力を高めるための支援を続けています。
今回は、2025年10月より約半年間、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、IFRC)パプアニューギニア国事務所に派遣された、松山赤十字病院の木本看護師が現地で感じたことや学んだことをお伝えします。
■地域でいのちを守る力を育てる
医療機関が少ない地域では、病院にたどり着く前の対応が、いのちを左右します。そのため、こうした地域では応急手当の知識がとても重要です。IFRCパプアニューギニア国事務所では定期的に救急法の指導者研修を実施し、国内各州から集まった赤十字ボランティアが応急手当や指導方法を学んでいます。研修を終えた彼らは、それぞれの地域に戻ったあと、家族や近隣住民へ応急手当の知識を広げています。
「一人が学び、次の一人へ伝える」、という積み重ねが、地域全体の安全を底上げしています。
救急法指導者研修の様子

地域で救急法を普及する赤十字ボランティア
■気候変動に向き合う地域の挑戦
海面上昇や高潮の影響を受ける同国ブーゲンビル自治州・ソハノ島では、住民主体の気候変動対策が進められています。現地を訪問した際、赤十字で行った研修での学びが生活の中で実践されているのを見ることができました。マングローブ植林や清掃活動、家庭菜園など、自然環境と自分たちの暮らしを共に守る工夫が続けられています。
一方で、住民の中には環境保全に無関心な人や自然に任せておけばよいという人もいて、せっかく植えたマングローブの苗木が薪用に掘り返されてしまうこともあるため、 継続的な啓発活動が欠かせません。こうした状況を受け、たとえ思うように取り組みが進まないことがあっても、研修後のフォローや話し合いを重ね、持続可能な仕組みづくりに取り組んでいます。
海水で浸水した居住エリア
育っているマングローブの苗
■健康を「知ること」から始まる予防支援
パプアニューギニア赤十字社は日頃の予防活動にも、さまざまな形で取り組んでいます。首都ポートモレスビーでは、世界糖尿病デーや世界エイズデーに合わせ、地域イベントや学校での啓発活動が実施されています。糖尿病やHIVに関する正しい知識を伝えるだけでなく、セルフチェックカードやクイズ形式の教材を活用し、「自分のこととして考え、行動につなげる」ことを大切にしています。こうした取り組みは、病気の早期発見や差別・偏見の軽減につながるとともに、赤十字のボランティアとして地域に関わる人材の育成にも役立っています。

世界エイズデーでの啓発活動

高校での啓発活動も実施
■健康だけでなく、安全な暮らしを守るために
パプアニューギニアでは、男女間の格差も大きな社会課題となっています。 世界経済フォーラムが公表したGlobal Gender Gap Report (世界男女格差報告書)2025では、148カ国中 133位で、東アジア・太平洋地域では最下位に位置しています。女性に対する暴力も深刻です。国際女性デーにあわせて、女性や女の子の権利と尊厳について考える啓発活動を行いました。安全・安心な暮らしには、健康だけでなく、一人一人が尊重され、地域の中で支え合える尊厳ある環境づくりが欠かせません。こうした啓発活動は、一人一人が身近な課題を自分のこととして捉え、支え合える地域づくりにつながっています。
国際女性デーでの啓発活動
国際女性デーに合わせたウォーキングイベント
■派遣を終えて
派遣を通じて特に印象に残っているのは、IFRCパプアニューギニア国事務所の五十嵐所長から学んだこの言葉です。
「開発支援の根底にあるのは、現地の人びとの考え方ややり方を『変える』のではなく、人びとが自ら選べる選択肢を増やす『足し算の支援』という考え方である。」
小さな学びや工夫の積み重ねが、現地の人びとの自信となり、未来を支える力へとつながっています。遠く離れたパプアニューギニアで、人びとの暮らしといのちを守る活動は、今日も着実に進んでいます。
パプアニューギニア赤十字社のメンバーとの送別会
派遣最終日、IFRC事務所メンバーとともに
■日本赤十字社の取り組み
パプアニューギニアを含め、大洋州地域は気候変動の影響を真っ先に受ける地域です。しかし、適応策が十分でなく、人びとがリスクにさらされています。
日赤は、IFRCとともに地域住民、特に若い世代が持つ力に着目し、気候変動の脅威に屈しない持続可能な社会づくりに取り組んでいます。