エチオピアにおけるマールブルグ病対応~「人を守る仕組み」を未来に残すために~

 2025年11月、エチオピアで同国初となるマールブルグ病の発生が確認されました。マールブルグ病は、エボラ出血熱と同じフィロウイルス科に属するウイルスによる重篤な感染症で、迅速かつ慎重な公衆衛生対応が不可欠です。発生を受け、現地の保健当局をはじめ、エチオピア赤十字社(ERCS: Ethiopian Red Cross Society)、国際機関、NGOが連携し、感染拡大の防止に取り組みました。なかでも、地域社会に根差して活動する赤十字ボランティアは、正確な情報を住民に届け、地域の人びとの不安を和らげるうえで大きな力となりました。
※本記事は、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の緊急対応要員としてエチオピアに派遣された黒川看護師(日本赤十字社医療センター)による現地報告です。

「人」を守るということ

 黒川看護師が担当したのは、感染症対応に従事する赤十字スタッフやボランティアの安全と健康を守る「スタッフヘルス」です。日本では赤十字病院で看護師として勤務し、感染症管理を含む医療現場に携わってきた黒川看護師。活動する場所が変わっても、支援の要が「人」であることに変わりはなく、人があってこそ活動は成り立つ、その思いは変わりません。
 マールブルグ病が発生した同国南部のジンカは、首都アディスアベバから遠く離れた町です。それでも、地域のボランティアは毎日活動を続けていました。黒川看護師は、そんな一人一人の確かな歩みを支えることが、自身の役割であると感じたと振り返ります。

エチオピア赤十字社の活動

 エチオピア赤十字社は、今回、地域に広がるボランティアのネットワークを生かして、次のような活動を実施しました。

  • 地域住民へのリスクコミュニケーション(※1)・啓発活動
  • コミュニティレベルでの感染症サーベイランス(感染症発生動向調査)支援
  • 保健当局と連携した感染拡大防止活動
  • 家庭訪問や地域での情報共有
  • 安全で尊厳ある埋葬(SDBSafe and Dignified Burial)活動への支援

 SDBは、感染防止を徹底しながら、地域の文化や宗教的背景、遺族の尊厳を尊重する重要な取り組みです。感染症流行時に地域社会との信頼関係を維持するうえでも欠かせません。
(※1)感染症について正しい情報を地域住民と共有し、不安や誤解を減らしながら、自分や周囲を守る行動につなげてもらうための取り組み

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赤十字ボランティアより感染予防の説明を受ける地域住民©ERCS

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マールブルグ病対応に関する研修を受講する赤十字ボランティア©ERCS

仕組みを整えるという支援

黒川看護師は現場を訪れ、スタッフやボランティアの声に耳を傾けながら、次のような取り組みを行いました。

【リモートでの支援】

  • スタッフヘルスに関するSOP(標準作業手順書)の作成
  • 現地スタッフ・ボランティアの安全管理体制の整理および活動前の態勢確認

【現地での活動】

  • エチオピア赤十字社ジンカ支部およびハワサ支部へのフィールド訪問
  • 医療紹介・搬送経路および緊急医療後送(MedEvac)(※2)体制の確認
  • スタッフ安全管理に関する実務支援
  • エチオピア赤十字社本社と支部間の運用上の課題整理と改善提案

 制度や体制を整える作業は目立つものではありません。しかし、それは次に起こり得る感染症への対応に備えるための、重要な基盤づくりでもあります。
(※2)治療を継続しながら患者を他の医療機関へ緊急搬送する仕組み

    画像 エチオピア南部の流行地ジンカで、現地ボランティアを対象に安全確保に関する聞き取り調査を実施©ERCS/IFRC

    熱意を支えるもの

     ジンカで活動するボランティアに「これからも活動を続けたいですか」と尋ねると、多くの人が迷うことなく「はい」と答えていました。地域を支えたいというその意志こそが、赤十字活動の要です。
     一方で、熱意だけでは守れない現実もあります。十分な情報や防護体制が整わないまま対応にあたり、命を落とした医療従事者がいたことも事実です。
     だからこそ、個人の努力に頼るのではなく、組織として「人を守る仕組み」を整えることが必要です。

    未来へつなぐ

     2026年1月26日、エチオピア保健省は、最後の患者の死亡後42日間、新たな症例が確認されなかったことを受け、マールブルグ病流行の終息を宣言しました。
     流行が落ち着いた今こそ、現場で得た経験を整理し、次の感染症対応へとつなげることが求められています。スタッフやボランティアが安心して活動できる環境を整えることは、地域の健康といのちを守る力を未来へつなぐことでもあります。こうした備えは、次の感染症対応を支える、確かな土台となっていきます。

    画像 エチオピア赤十字社スタッフ・ボランティアとIFRCスタッフ(写真中央:黒川看護師)©ERCS/IFRC

     私たち日本赤十字社は、世界で起きる人道課題に寄り添いながら、人びとのいのちと尊厳を守る活動をこれからも続けてまいります。皆さまの温かいご支援とご理解に、心より感謝申し上げます。

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