ハリケーン「メリッサ」:災害後の地域医療を支える - ジャマイカで続く国際赤十字の巡回診療

2025年1028日、超大型ハリケーン「メリッサ」がカリブ海のジャマイカに上陸し、同国史上最大規模の被害をもたらしました。特に、西部・南部を中心に、セント・エリザベス教区、ウェストモアランド教区、ハノーバー教区、セント・ジェームズ教区などでは壊滅的な被害が発生し[1]、150万人以上が住宅被害、停電、断水の影響を受けました。ピーク時には電力、給水の大部分が停止しましたが、発生から3カ月たった現在では電力供給や給水も回復してきています。医療施設は135カ所が被害を受けるなか、主要病院では電力・水道供給が復旧しましたが、一部のヘルスセンター(政府が運営する初期診療・地域保健の施設)では貯水タンクや発電機など予備システムに頼っている状態が続いています。また、避難所に身を寄せている住民の数も減少傾向にある中、保健医療サービスのニーズにも変化が生じています。

[1] ジャマイカの行政区画。日本の県レベルに相当。国内全体で14教区ある。

 

IMG_2205.jpg屋根が破損したヘルスセンターの待合室©JRCS 

■被災地の医療課題を見つめる日赤医師の声-巡回診療の現場から

多くの医療施設が影響を受けたことで苦境に陥っている現地の医療提供体制を支援するため、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)は、ジャマイカ赤十字社の要請を受け、カナダ赤十字社主導の診療所ERU(Emergency Response Unit)をジャマイカに派遣しました。同チームは2つのチームに分かれて、ジャマイカ西部の地域保健局が指定するヘルスセンターや避難所を巡回しながら診療活動を行っています。
 日本赤十字社は、このチームの一員として、先日の国際ニュースで紹介した益田医師に続き、1月9日からは日本赤十字社和歌山医療センターの古宮医師を派遣しています。ここからは、古宮医師からの現地リポートをお届けします。

20260206-848deedc2a3e3f406384cfd7f29eb4fa230928d4.JPG 学校の敷地にテントを張って設置した巡回診療所©JRCS 

私たちのチームは、2026年1月末、ジャマイカ西部ウェストモアランド教区シーフォートの避難所で、被災者を対象とした診療活動を行いました。当地では、以前コミュニティセンターとして使われていた建物の一角を活用し、医療チームが巡回診療を続けています。診療は1チームあたり1日10人前後、2チームで約20人の診療を行っていますが、1月末の段階では被災地の医療状況は徐々に平常に近づいている印象で、災害に直接起因する外傷はほとんど見られず、診療の中心は糖尿病や高血圧といった慢性疾患の治療継続となっています。

災害後の医療というと、けがや感染症への対応を想定しますが、近年は高血圧や糖尿病など、もともと治療を受けていた慢性疾患のケアが大きな課題となっています。ジャマイカでは慢性疾患を抱える人が多く、世界保健機関(WHO)によると、成人の約3人に1人が高血圧だとされています。[2] 高血圧や糖尿病は、症状が出にくい病気であるため、災害をきっかけに治療を中断してしまう人も少なくありません。避難生活では衣食住の確保が最優先となり、体調に大きな変化を感じなければ、通院が後回しになってしまうからです。被災後、初めて医療機関を訪れた際に、血圧や血糖値が非常に高い状態になっているケースも見られます。

さらに、発災後は野菜などの食品価格が大幅に上昇し、健康的な食事を続けることも難しくなっています。医療施設自体の被害も深刻で、屋根が壊れたヘルスセンターでは、患者のカルテが水浸しになったため、どんな病気で何の薬を使っていたのかも分からないまま対応せざるを得ない状況も起きています。また、レントゲンや心電図検査などはヘルスセンターで行う必要がありますが、施設を使用できない状況になっている地域もあることで、都市部の病院に患者が集中するなど、地域医療への負担は今も続いています。巡回診療では提供できる医療に限りがありますが、住民の方々から不満の声が聞かれることはほとんどありません。むしろ、「来てくれてありがとう」「ジャマイカを楽しんでください」と、感謝や温かい言葉をかけていただくことが多くあります。

[2] Health Ministry, PAHO Renew Calls for Healthy Lifestyles - PAHO/WHO | Pan American Health Organization

20260206-f81aa127d31e7ee26c8bb0b1e08b742b3d9094b6.jpg巡回診療で診察を行う古宮医師©JRCS

IMG_2308.jpg巡回診療で診察を行う古宮医師©JRCS

国際赤十字の診療所ERUによる診療活動はまもなく終了し、今後は地域の医療従事者を対象とした研修を行う予定であると同時に、現在、医療資機材の引き渡しについて現地の保健福祉省と協議を進めており、地元の基幹病院やジャマイカ赤十字社への引き継ぎに向けた準備を進めています。
 被災地域の復興には、これからも長い時間と継続的な支えが必要です。私たちは、地域の医療従事者や医療体制への支援を通じて、必要とする人に必要な支援が途切れることなく届けられるよう、被災された人びとに寄り添い続けていきたいと思います。

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