レバノン:先の見えない不安の中で安心できる医療を
中東地域の紛争は、いつまで続くのか、終わりが見えません。
イスラエル・ガザ人道危機が注目を浴びる一方で、周辺国のレバノンでも、武力衝突の影響で不安定な情勢が続いています。レバノンではキリスト教、イスラム教それぞれの宗派が細かく分断されるなど、複雑な社会を背景に1975年から1990年まで内戦が続き、内戦後もしばらく、レバノンの安定化を図ろうとするアラブ連盟の要請を受けたシリア軍の駐留が続きました。昨年は、隣国からのレバノンの武装勢力への攻撃の影響が国境に近い南部だけでなく、レバノン全土におよび、多くの市民が国内外へ避難したため、レバノンは恐慌を来たしました。
今回はレバノンの首都ベイルートを拠点に活動している日赤中東地域代表部代表の吉田拓要員から届いた現地の支援の様子をお伝えします。
紛争下で増え続けた被災患者と地域診療への影響
終わりの見えない戦火と硝煙の中でも人びとは生まれ育った国で、それぞれの「ここ」で生きています。生きることは、病み、治る、を繰り返すことでもあります。病気になり、救いの手を必要とする人びとにとって、安心して医療を受けられるかどうかは死活問題です。紛争で被災した傷病者への緊急医療に注目が集まる中、これまで当たり前に受けられていた地域医療へのアクセスを断たれた人びとの、病気の治療を継続できないという不安の声は忘れられがちです。声なき声を聴き、救うためには、何ができるでしょうか。危険と隣り合わせの不安定な地域に暮らし続ける人びとのために、レバノン赤十字社と日本赤十字社は、地域診療所に対する支援を続けています。
いつも通りの診療につとめた赤十字の地域診療
シリアからの難民が多く出入りし、レバノンの中でも苦しい生活を強いられているトリポリにある赤十字の診療所では、昨年の隣国からの攻撃の最中も、避難民と地元住民の双方を診療し続けました。
■アブデルカリムさん
「当時、医療だけではなくて、水道や電気などの公共サービスも不足していました」
75歳のアブデルカリムさんは、昨年の隣国からの攻撃を受けて、トリポリが都市部からの避難民であふれかえったと語ります。
「私は心臓病を患って、手術を受けたことがあり、薬を飲み続けないといけないんです。昨年の混乱期には薬を飲めなくなってしまうのではと本当に心配しました。そんな中、近所の赤十字の診療所が、いつも通り気楽に診療を受けられるようにしてくれ、薬を処方し続けてくれて、安心できました」

赤十字のトリポリ診療所に通うアブデルカリムさん©LRC
■ワヒーバさん
61歳のワヒーバさんは、トリポリの診療所に通って20年になります。
「高血圧で、心臓も悪くしてしまって。定期的に診療してもらって、お薬ももらっています」
「昨年の有事の際には、家族みんなが不安でした。今まで当たり前だったことが全てそうではなくなってしまったので夫も、妹たちも強いストレスを感じていました。この診療所では、国がパニックの中でも、いつも通りの診療を受けられました。私も、私の家族も」

赤十字のトリポリ診療所に通うワヒーバさん©LRC
先が見えない不安と恐怖の中、それでもそこで生きていく人びとに寄り添うこと。当たり前の安心を、何があっても届けること。レバノン赤十字社と日本赤十字社の挑戦はまだまだ続きます。