2025年パキスタン洪水救援活動の現場から~赤十字の支援活動を支える調達部門~
2025年6月下旬以降、パキスタンでは記録的なモンスーンによる豪雨で大規模な洪水が発生し、10月初旬までに1,037人が死亡し、約350万人が避難、690万人以上が被災しました。住宅や道路、橋などのインフラも損壊し、人びとの暮らしや物流に深刻な影響が出ています。
こうした中、パキスタン赤新月社(PRCS)は、国際赤十字と連携し、国内全域にわたる23地区で25万人を対象に支援活動を展開しています。避難所の設置、食料や衛生キットの配付、多目的現金給付、巡回診療サービスなどを通じて、これまでに12万6,000人以上に支援を届けています[1]。特に、女性や子ども、高齢者、障がいのある方など、支援が届きにくい人びとへの配慮を重視しつつ、今後の災害にも備えた持続可能な復興を目指しています。
日本赤十字社(以下、日赤)は、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、連盟)の要請を受けて、連盟の調達部門の緊急対応要員として、日赤和歌山医療センターの職員1名をパキスタンへ派遣しました。10月11日に現地入りした職員は、現地スタッフと協力しながら、支援物資の迅速かつ効率的な調達・配付に尽力しています。
今回は、現地からの報告をお届けします。
[1] https://go-api.ifrc.org/api/downloadfile/92443/MDRPK028.OU1
被災した世帯に届けられた15日間の食料品が詰まったパッケージ。住民からは、「困難な時に寄り添ってくれた」とパキスタン赤新月社に感謝の言葉が寄せられた。(カイバル・パクトゥンクワ州)©PRCS
支援の裏側にある調達のしくみと責任(日赤和歌山医療センター 寺尾要員)
日赤和歌山医療センター、医療社会事業部兼国際医療救援部主事の寺尾と申します。これまでに、連盟アジア大洋州地域事務所(APRO)のロジスティクス部門へ2度派遣され、続いてバヌアツ地震救援(連盟緊急対応要員)、ミャンマー地震救援(日赤保健医療ERUロジスティクス要員)と、主にロジスティクス分野への派遣の機会を頂いてきました。
連盟パキスタン国事務所の調達部門のオフィスにて(右:寺尾要員)©IFRC/PRCS
現地の調達業務と品質確保の取り組み
今回の派遣では調達要員として、連盟パキスタン国事務所のロジスティクスマネージャーの下、救援事業に必要な物資(衛生キット、蚊帳、医薬品など)の現地調達を行っています。
寄付金を資金源とする連盟の調達活動は、連盟が定める手順に沿って実施され、透明性の確保、寄付者や社会に対する説明責任、品質の確保、費用対効果の担保が求められます。とりわけ、医薬品や医療消耗品の品質確認には、国際品質基準を満たしていることを確認するための証明書など、多くの書類を業者から提出してもらう必要があり、品質と安全性確保のために多くの手順と時間を要します。
パキスタン赤新月社は、巡回診療や献血活動を行っており、医薬品や医療消耗品、医療機器など、これまでも多くの資機材の現地調達を連盟のサポート下で行ってきました。今回の洪水対応でも医薬品調達が必要であることから、その品質確認のため、現在日赤から連盟ジュネーブ事務局に派遣されている薬剤師とも協働しています。
調達活動は、調達要員だけで選定を行うものではありません。要望元である支援プログラムの担当者を連盟およびパキスタン赤新月社双方から招へいし、「選定委員会」を開き、サンプル品の評価を行ってもらった上で、品質、価格、配送までの必要日数などを加味して業者を選定します。一言で「調達」と言っても、その過程では、計画段階から会計部門など多くの関係者を巻き込み、選定委員会が納得できる形で進める必要があるため、一定の時間が必要です。
そのため、支援現場が求めるタイムラインに100%の形で応えることができないこともありますが、その理由を丁寧に説明し、適宜情報共有を行うことで、関係者の理解を得ながら進めています。
衛生キットのサンプル品評価を行う選定委員©IFRC/PRCS
蚊帳のサンプル品を広げてサイズやデニール(糸の太さ)を確認©IFRC/PRCS
迅速かつ確実な支援を実現するために
ロジスティクス部門は「サービスプロバイダー」と言われ、保健医療部門や給水・衛生部門などが実施する活動(ワクチンキャンペーン、巡回診療、手指衛生、清潔な飲料水の提供など)に必要な物資やサービスを提供する役割を担っています。そのため、プログラムの計画立案段階から参加させてもらい、物資調達に必要なタイムライン、調達活動にかかる概算費用などを初期段階から提供することで、より現実的かつ実効性の高い活動計画の策定に寄与することができます。被災者の方と直接お話しをする機会は少なく、表舞台に出ることは少ないですが、ロジスティクス部門は非常に重要でやりがいのある部門だと感じています。
パキスタン洪水対応のための衛生キットの入札開封とサンプル評価の様子©PRCS/IFRC
連盟では、需要の高い品目に焦点を当てた長期的な包括契約の枠組みがあります。この枠組みによって、品質が確保されたものを短時間で供給することができます。防水シートや蚊帳、毛布もその一例です。しかし、国や地域によっては、特定の原産国の品物の輸入が非常に困難であったり、輸入時の免税申請に非常に時間がかかったりするため、枠組みを活用できないという課題も残されています。
大規模災害の対応には、スピード感が求められますが、前述のとおり、多額の資金を扱う調達部門にとって、手順を無視することはできません。そのため、国事務所レベルでも、緊急時に需要の高い物品について、平時から適切な業者と長期契約を結んでおき、緊急時に迅速に対応できる仕組みをいっそう強化していく必要があります。今回の派遣期間中に、少しでもこうした仕組みづくりの過程に携わり、今後を見据えた支援を行いたいと思います。
被害が最も深刻な村の住民に温かい食事と飲料水を届ける(パンジャーブ州)©PRCS
「2025年パキスタン洪水救援金」を募集中
被災地では、パキスタン赤新月社のスタッフやボランティアが中心となって、懸命な救援活動を続けており、日赤職員も現地の支援事業をさまざまな形でサポートしています。今後も、現地のニーズに応じた適切な支援を迅速に届けるために、皆さまの温かいご支援をどうぞよろしくお願いいたします。