パプアニューギニア:"ワントク"の精神が支える防災
国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)は、各国・地域に事務所を設置し、現地赤十字社の活動を支援しています。今回はIFRCパプアニューギニア国事務所へ5か月間派遣された福岡赤十字病院の北原一希主事から、パプアニューギニアでの支援活動の様子をお届けします。
機内から撮影したパプアニューギニア©IFRC
多様性に富む国、パプアニューギニア
パプアニューギニアは、インドネシアの東、オーストラリアの北に位置し、日本との時差はわずか1時間。ニューギニア島の東半分と600以上の島々から成り、約850もの言語を話す1000以上の部族が暮らす、文化的・地理的に非常に多様な国です。
各自、部族の民族衣装をまとって独立50周年記念日を祝う©Maki Igarashi, IFRC
火山帯に位置していることから、噴火や地震、津波などの自然災害が頻発しているほか、昨今は気候変動などの影響から豪雨災害や山間部の地滑りも多発しています。
2024年5月にはエンガ地方で大規模な地滑りが発生し、2000人以上が犠牲となりました。復興支援は現在も続いています。
ぜい弱なインフラ
パプアニューギニア国内のインフラは非常にぜい弱です。停電や断水は日常茶飯事で、一日に何十回も停電します。都市部では道路が舗装されているものの、凹凸が非常に多く、気を付けて走行しないと車を損傷しかねません。
何週間も放置されていた大きな倒木©IFRC

国内の長距離移動は主に航空便。日が昇る前のフライトも珍しくない©IFRC
都市間をつなぐ道路は未整備で、国内移動は高価な航空便に頼るほかありません。医療については、日本より国土が広いにもかかわらず、パプアニューギニア国内に医師は500人程度しかおらず、人口1万人あたりの医師数は、0.63人と日本の約40分の1。
こうした状況下で災害が起こった場合、被災地の人びとへ物資や人員を迅速に送ることは極めて困難です。
パプアニューギニア赤十字社の防災活動
パプアニューギニア赤十字社は、日本赤十字社を含む各国の人道支援組織や政府からの支援の下、気候変動、災害、防災・減災、保健・衛生などの分野で、女性や子どもといった社会的に弱い立場の人びとへの支援を中心にさまざまな人道支援活動を続けています。
その中でも特に、災害時の被害を最小限に抑え、即座に被災者への支援を行うため、防災活動に力を入れています。私は、睡眠マット、太陽光発電の懐中電灯、水タンクといった救援物資を、マダン(ニューギニア島中央北側)とラバウル(ニューブリテン島北端)の支部へ備蓄する活動に携わりました。
マダン支部への救援物資の搬入©IFRC
紫外線が日本の7倍もあるパプアニューギニアでの炎天下の重労働は過酷でしたが、精力的な地域のボランティアやスタッフとともに、手配した救援物資を何とか備蓄用のコンテナ型倉庫に運び入れることができました。
災害時には、これらの救援物資を用いて、地域の人たちが主体となり、迅速に救援活動を行います。
一方で、備蓄コンテナがさびて老朽化してしまっていること、そもそもほとんどの支部には社屋やオフィス機器もないため、首都ポートモレスビーのパプアニューギニア赤十字社本社との連絡が困難で、本社側は平時から支部の活動状況を極めて把握しづらいことなど、まだまだ課題も残されています。

物資搬入で訪れた太平洋戦争の激戦地ラバウルの夕焼け©IFRC
“ワントク”の絆が支える防災意識
私が救援物資の搬入でマダンを訪れた際、印象的なエピソードがありました。前述の炎天下の作業は非常に大変なもので、マダンは特に暑さが厳しい地域であり、午後に作業が終わるころには私は口もきけないほどヘトヘトになってしまいました。
夕方、業務を終えて宿泊先に戻ろうという時、赤十字ボランティアのシルベスターさんが話しかけてきました。
彼は私に、「いつまでパプアニューギニアに滞在するのか」「パプアニューギニアをできるだけ楽しんでいってほしい」と親しみをもって声をかけてくれたのですが、話していると、なんと彼は消防隊員で、これから夜勤があるので仕事に行くと言うのです。
マダン支部のボランティア、左がシルベスターさん©IFRC
日中の搬入作業は精魂尽き果ててしまう重労働でしたが、彼にとってはあくまでボランティア活動であり、彼が得たのは軽食とわずかな日当のみです。私なら、おそらく自分の疲れなどを考慮して依頼を断ったのではないかと思います。
しかしながら、彼はこの地域にとって災害対策を事前に行っておくことがどれだけ重要であるかを考え、地域のため、自分たちのコミュニティのために、それでも物資搬入に参加していたのです。このことに、私は強く心を打たれました。
パプアニューギニアではたくさんの部族が共存していますが、同じ部族のグループは「ワントク」(≒ワントーク、同じ言葉を話す仲間)と呼び、家族のように大切にします。このような地域やコミュニティ、人と人とのつながりを強く保っているからこそ、地域の防災についても、自分自身の事柄として考えることができるのではないかと感じています。

搬入作業時のメンバー:IFRCパプアニューギニア国事務所スタッフ、パプアニューギニア赤十字社スタッフ、マダン支部のボランティア©IFRC
パプアニューギニアにはまだまだ取り組むべき課題がありますが、温かく人を受け入れ、いつでも笑って物事に対応するパプアニューギニアの人びとから、日本人もまた学ぶところが大いにあるのではないかと思います。