アフガニスタン気候変動対応事業、第1期終了:災害や食料危機に立ち向かう人びとの生活を支援
日本赤十字社(日赤)は2020年7月から、国際赤十字・赤新月社連盟(連盟)と協力し、アフガニスタン赤新月社(アフガン赤)が主体となって行う5カ年事業を実施してきましたが、2025年6月で第1期目が終了しました。
5年前は荒れ地だった土地も、植樹支援によって緑豊かに。生計を助ける果樹も育った © IFRC
重なる危機の中で生きるアフガニスタンの人びと
2024年から2025年初めにかけて、アフガニスタン各地では大雨や鉄砲水が相次ぎ、数千の家族が被災し、多くの命が失われました。長く続く紛争や経済的な困難に加え、こうした自然災害が人びとの生活にさらなる打撃を与えています。
現在も多くの人が故郷を離れて暮らしており、2025年3月時点では国民のほぼ半数にあたる約2,290万人が人道支援を必要としています(UNOCHA)。しかし、支援活動を支える資金は大きく不足しているのが現状です。
また、2023年9月から2025年8月の間に、約410万人のアフガニスタンの人びとが、主にイランやパキスタンから帰国または送還されました(UNHCR)。これにより、国境地域や受け入れ地域では、住まいや水・衛生、生計の支援などが急務となっています。
さらに、食料危機も深刻さを増しています。2025年3月時点では、総人口の4分の1にあたる1,000万人以上の人びとが食料支援を必要としており、約350万人の子どもが急性の栄養失調に苦しんでいます(UNOCHA)。
アフガニスタンで広がる地域支援の取り組み
本事業は、干ばつや洪水の影響を受けやすい地域での、災害時対応計画の策定をはじめとする「防災・減災活動」と、生計手段を確保し、気候変動への適応を図る「生計支援活動」の2つを軸にしています。今回は特に、ヘラート州とサマンガン州の村々を対象に、そこに暮らす人びとのレジリエンス(回復力)強化に取り組みました。
この5年間に、気候変動の影響で干ばつが著しい地域の緑化を進める環境保全と生計支援の一環として、両州で合計20万本の果樹の苗木を配付したほか、果樹園管理の研修も行い、アフガン赤職員や地域の防災委員会のメンバーが地域住民に園芸知識を広めました。
防災体制の強化も進められ、各地域の防災委員会や学校安全委員会には、災害が起きた際の救援に用いる資機材、または資機材購入の予算を提供しました。これにより、災害発生時にも迅速な対応が可能となりました。
生計支援では、特定の技術や経験を有していないヘラート州の女性世帯主100人を対象に裁縫の職業訓練を実施。修了後には裁縫道具と収入創出のための現金支援(約6万6,000円相当)を提供することで、新たな生計活動を始める基盤を整えました。
さらに、紛争や災害により資産や職を失い避難を余儀なくされた人びとが自分の手で再び収入を得られるようになるための支援を実施し、300世帯が家畜の世話やバイク・携帯電話の修理などの収入創出活動を開始しました。各世帯には現金支援(約5万8,500円相当)の現金を支給し、そのうち約7割は女性世帯でした。
現場のニーズに応える
日赤と連盟はプロジェクト2年目の2021年、同国で政変に伴うさまざまな混乱が生じたことを受け、計画を見直し、緊急食料支援に重点を置くことにしました。対象はヘラート州の900世帯、サマンガン州の600世帯の合計1,500世帯。1カ月分の食料が入った食料パッケージを配付しました。
また、当初の計画にはありませんでしたが、干ばつが深刻化するアフガニスタンで支援の効果を持続させるために、配付した苗木や農作物のかんがい支援として、かんがい用の太陽光発電ポンプを両州に合計10基設置しました。また、現場での観察結果から、ヘラート州で過去に果樹の苗木を受け取った世帯には、苗木の健全な成長と管理を支えるため、農薬や剪定(せんてい)用具も調達・配付されました。これらの活動により、植樹した木々は順調に成長しています。今後も、住民の手によって木々や太陽光発電ポンプが管理・維持されていきます。
困難を乗り越え、自らの道を切り開いたモスタファさん
ヘラート州ジャンガン村の自動車整備士モスタファ・アフマディさんは、約2年前、さまざまな困難に直面していました。注文が入らなければ仕事はなく、顧客も少なかったため、家族の経済状況は厳しいものでした。職人としての技術は優れていたものの、仕事を得る機会はほとんどありませんでした。
そのような中、モスタファさんはアフガン赤の収入創出支援プログラムに参加しました。2万5,000アフガニ(約5万6,500円相当)の支援を受けたモスタファさんは、市場で必要な道具をそろえ、より専門的な仕事ができるようになりました。
バイクを修理するモスタファさん © ARCS
日々の努力、質の高いサービス、そして丁寧な顧客対応によって、モスタファさんは人びとの信頼を得て顧客を増やすことに成功しました。その才能と技術は注目を集め、ヘラート市からもパートナーシップの申し出が届いています。現在、モスタファさんは他の州にも出向き、車やトラクターの修理サービスを提供しています。サービスは拡大し、月収は1万アフガニ(約22,500円相当、1世帯4~6人で1カ月過ごす最低限の生活費であり、地方の平均月収は6,000アフガニ)以上に達しています。
今では、ヘラート州で最も成功した自動車整備士の一人として知られ、自身と家族に誇りをもたらしています。モスタファさんはこう語ります。
「チャンスは必ずあります。大事なのは、それを正しく生かすことです。努力を怠ってはいけません。忍耐と意志があれば、何もないところからでも全てを手に入れることができます。」
裁縫で家庭を支えるアデラさん
サマンガン州デカラン村に住むアデラさんは、6人の子どもを育てる35歳のお母さんです。長年、貧困と不安定な生活に悩まされてきました。家には家畜も農地もなく、家族は夫の日雇い労働の収入だけで暮らしていました。しかし、冬は仕事が少なく、収入はいつも不安定でした。
アデラさんは当時を振り返り「収入のない日もたくさんありました。夫は働けるときに働きましたが、仕事がない日の方が多かったです。私自身に収入はなく、本当に経済的に厳しい生活でした」と語ります。
アデラさんは数年前に姉から裁縫を学んでいましたが、経済的にミシンや裁縫道具をそろえることができず、その技術を生かすことはできませんでした。その状況が変わったのは2023年6月のことです。アフガン赤が地域の収入創出支援プログラムの一環として村を訪れ、彼女を支援対象に選びました。
服の仕立てをするアデラさん(左) © ARCS
ミシンと裁縫道具を得たアデラさんは、毎日1着から数着の服を縫い、得た収入は家族の生活に役立てています。この変化は一家にとって大きく、冬でも家族の収入が安定し、栄養状態が改善し、時には肉や果物を買えるようになり、アデラさん自身が「家族を支える存在」として自覚を持てるようになりました。
アデラさんは本プログラムに経済的支援以上の効果を感じ、「収入を創出し家族を支えるだけでなく、自分自身も強くなれる」と語ります。今では、デカラン村の女性たちにとって、アデラさんは単なる仕立屋としてだけでなく、「強さの象徴」として認められる存在になっています。
新たに始まるアフガニスタンでの取り組み
第1期で得られた知見や課題をふまえて、日赤は現在、連盟およびアフガン赤とともに、今年度より新たな村々を対象にした第2期事業を開始するための準備を進めています。
第2期では、第1期に引き続き防災・減災活動、生計支援活動の2つの軸で活動予定です。特に、学校で組織されている学校安全委員による、CHAST(Children’s Hygiene and Sanitation Training: 子どもの衛生研修)やPHAST(Participatory Hygiene and Sanitation Transformation:地域参加型衛生環境改善活動)を新たに実施し、コミュニティや学校における衛生習慣の向上を図ります。
日赤は、引き続き、アフガニスタンの人びとのいのちと健康、尊厳を守れるよう、現地と密接に連携して本事業を実施していきます。
