イスラエル・ガザ人道危機:止まない武力衝突、深まる人道危機、懸命に続けられる赤十字の活動
イスラエルとガザとの間では、2025年1月に一時的な停戦合意が発効しましたが、3月には再び武力衝突が激化。ガザではすでに壊滅的だったインフラがさらに破壊され、医療・水道・電力といった基本的なサービスが、ほとんど機能していない状況です。人道支援物資の搬入は極めて困難で、食料や医薬品の深刻な不足が続き、多くの住民が飢餓や感染症の危機に直面しています。
国連人道問題調整事務所(OCHA)によれば、3月以降、新たに、ガザ地区の全人口の約3分の1にあたる約71万4,000人が避難を強いられました。燃料の枯渇により集中治療室(ICU)や透析施設、上下水道、通信網などの生命維持に関わるサービスが停止の危機にひんしています。食料配給所や避難所への攻撃も相次いでおり、5月下旬以降だけでも、食料を求める市民600人以上が死亡、4,500人以上が負傷しています。人道支援職員の犠牲も増え続けています。さらに、5歳未満の子どもを中心に急性栄養不良の発症の増加や、衛生環境の悪化による感染症の流行も深刻化しています。こうした状況の中、ガザ全域の85%が退避命令または立ち入り制限の対象となっており、人びとは極めて限られた空間での避難生活を余儀なくされています。
赤十字野外病院の救急外来の待合スペース(ガザ南部ラファ)©ICRC
ガザ全域の85%(色付けされた部分)が退避命令または立ち入り制限の対象(OCHAより)
医療が危機的状況、懸命に続けられる赤十字の活動
ガザでは医療や保健分野の状況が極めて深刻です。限られた医療施設がなんとか稼働を続けているものの、停電は慢性的に発生しており、発電機を動かすための燃料供給も不安定なため、人工呼吸器や冷房設備が使用できない時間が長くなっています。その結果、熱中症や感染症のリスクがさらに高まっています。
パレスチナ赤新月社(PRCS:パレスチナの赤十字社に相当)は困難な状況の中、ガザ市内のアル・クッズ病院、ガザ南部ハン・ユニスのアル・アマル病院を部分的に稼働再開し、臨時の野外病院運営も継続しています。アル・クッズ病院では、2019年以降、日本赤十字社(日赤)が職員を派遣し、2023年10月の武力衝突の激化以前まで医療技術支援を行っていました。現在は限定的な機能ながらも、地域住民にとって欠かせない医療拠点となっています。日々、数十人に及ぶ患者を受け入れ、困難な状況下でも救急医療、手術、診断、外来診療などを無償で提供し続けています。また、アル・アマル病院は、ハン・ユニスの強制避難区域内に位置しながらも、医療サービスを途切れることなく提供し続けています。

厳しい状況の中、運営を継続するアル・クッズ病院©PRCS
運営継続のために通勤するアル・アマル病院のスタッフ©PRCS
赤十字国際委員会(ICRC)と日赤を含む14の赤十字社は、パレスチナ赤新月社と連携し、昨年5月からガザ南部ラファに60床の野外病院を設置しています。酷暑下のテント診療や清潔な水の確保は依然困難で、医療物資の搬入にも厳しい制限を受けています。先月下旬には149人の傷病者が一度に搬送されましたが、そのうち16人は到着時に死亡が確認され、さらに3人がまもなく命を落としました。負傷者の多くは銃創によるもので、同病院では今年5月末以降、一度に多数の傷病者を受け入れるケースが20回を超えています。紛争下に暮らす人びとは、食料や水、医療品、衛生用品などへの安定したアクセスが不可欠であり、人道支援は迅速かつ妨げなく実施される必要があります。負傷者が緊急医療を速やかに受けられる体制の確保も、喫緊の課題のひとつです。
赤十字は改めて、戦時のルールである国際人道法の遵守を紛争に関わる全ての当事者に訴えます。民間人や医療機関・医療従事者、人道支援に携わる者は保護の対象です。
赤十字の根幹である、苦しんでいる人びとの命と尊厳を守る活動、支援が続けられるよう、皆さまのご関心とご支援をどうぞよろしくお願いいたします。