バングラデシュ南部避難民の支援開始から6年: 長期化する避難生活と求められる継続的な支援

2017年8月にミャンマー・ラカイン州で発生した暴力は、隣国バングラデシュへの大量の避難民の流入につながりました。発生からまもなく6年を迎え、ミャンマーからバングラデシュの国境を越えて避難した人の数は96万人以上に上っています。ミャンマーへの帰還の見通しも立たず、避難生活も長期化の様相を呈している中で、人びとは日々の生活を支援に頼る状況が続いています。国際社会の目が新たな人道危機や災害に移っていく今、それでも、制限の多い環境の中で前向きに懸命に生きる避難民や彼らを受け入れる地域社会の状況、そして求められる支援についてお伝えします。

※国際赤十字では、政治的・民族的背景及び避難されている方々の多様性に配慮し、『ロヒンギャ』という表現を使用しないこととしています

ミャンマーから避難してきた人びと

「避難民」という言葉から、みなさんはどのような人たちを想像するでしょうか?

バングラデシュ南部の避難民キャンプでは、密集した簡易テントの住居が立ち並ぶ一方で、人通りの多い道路はレンガで舗装され、両脇には野菜や果物、雑貨を売る露店や喫茶店、床屋などが店を構え、避難民の活気ある日常の様子を垣間見ることができます。また、キャンプ内のひらけたスペースを使い、避難民キャンプでも人気の娯楽であるサッカーに興じる姿や、キャンプ内の床屋で身だしなみを整える姿、イスラム教徒が多い避難民にとっては重要なイベントであるラマダン明けの祝祭を家族や友人とお祝いする姿からは、彼らが我々と変わらず、誰かの家族のひとりとして、コミュニティの一員として日々のささやかな幸せを大切にしながら生きている人びとであることを実感させられます。

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避難民キャンプでキャンプの壁を鮮やかにデコレーションする避難民の人たち©IFRC

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手にきれいなヘナの装飾をしてもらってうれしそうな女の子。身だしなみに気を配る避難民が多い©IFRC

制限や災害のリスクととなり合わせの避難生活

大量の避難民がキャンプ生活を始めてからまもなく6年。避難民はキャンプ外への自由な移動や就業規制が厳しくなるなど、制限された生活を余儀なくされています。例えば、避難民キャンプ周辺には有刺鉄線や検問所があり、避難民は許可なしにキャンプ外へ出ることができません。また、ミャンマーへの帰還や第三国定住等を含む恒久的な問題解決の糸口が示されない中で、先行きの見えない生活が続き、将来への不安や閉塞感から精神的不調を訴える声もよく聞かれます。

さらに、竹とブルーシートでできた住居が密集するキャンプでは、小規模な火災があっという間に燃え広がり、大規模な火災となることもあります。また、バングラデシュはサイクロンの通り道でもあるため、毎年のように風の影響や大雨による住居の冠水や土砂崩れに見舞われるといった自然災害のリスクも抱えています。

しかしながら、こうした厳しい生活環境であっても、困難や逆境に避難民が力強く立ち向かう姿を見かける場面が多くあります。今年3月の避難民キャンプ内で発生した大規模火災や8月初旬のモンスーンでの冠水や土砂災害では、避難民ボランティアや現地のバングラデシュ赤新月社のスタッフがいち早く現地での活動を開始し、その都度被災者の救助活動や応急手当、近隣の医療施設への案内、被災家屋の修繕のための資材の配布、こころのケア活動などを実施しました

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2023年3月の大規模火災直後に竹とビニールシートの家屋を修繕するバ赤スタッフと避難民©IFRC

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2023年8月初旬、モンスーンによって冠水した避難民キャンプで子どもを抱えて避難する女性©BDRCS

避難民を受け入れるバングラデシュ側ホストコミュニティへの負担

他方で、2017年の避難民の大量流入当初から避難民を隣人として受け入れているのはミャンマーとの国境近くに住むバングラデシュの農村の人たちです。彼らは避難民の危機的状況に真っ先に手を差し伸べ、避難民に自主的に食事や水を与えたり、自らの家に招いて休ませたりしてきました。しかしながら、もともとバングラデシュの中でも貧しい地域といわれる受け入れ側の農村の人たちにとっては、大量の避難民を受け入れ続けることは容易ではありません。長期的な受け入れによって彼らの生活や地域経済に大きな負担がかかり続けています。避難民の滞在が長くなる中で、避難民への支援と同様に避難民を受け入れるホストコミュニティへの配慮や支援も求められています。

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2017年の人道危機発生当初から100万人近いミャンマーからの避難民を受け入れるバングラデシュ南部の農村©日本赤十字社

避難民とホストコミュニティの双方を支える赤十字の支援

現地のバングラデシュ赤新月社(以下、バ赤)は、2017年の危機的状況の発生当初から国際赤十字・赤新月社連盟や各国姉妹赤十字社、赤十字内外の関係者とともに避難民の支援にあたってきました。現在は避難民を受け入れるホストコミュニティへの支援も行い、防災・災害対策や保健・医療支援、給水・衛生に関わる支援、安全な家屋の提供、こころのケア活動などを実施しています。

日本赤十字社(以下、日赤)は、バ赤とともに2017年9月から緊急医療救援を開始し、その後、中長期的な支援に移行する形で、避難民とホストコミュニティ向けに心と体の健康を保つための保健医療サービス等を提供しています。また、支援にあたっては、バ赤スタッフやキャンプ等で実際に活動する避難民・ホストコミュニティボランティアに対して技術的にも支援をすることで、現地での継続的な支援体制づくりを目指しています。

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長引く避難生活を送る避難民から話を聞く日赤要員©日本赤十字社

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先行き不透明な支援状況。それでも赤十字は支援を届け続ける。

世界各地で発生する災害や紛争の影響により、国際社会からバングラデシュ南部の避難民支援向けに拠出される資金は減少しています。加えて昨今の燃料や食料といった支援物資の世界的な価格高騰も現地の支援活動に影を落とし始めています。現地で避難民の食料支援を行う世界食糧計画(WFP)も資金難から2023年3月と6月に、支援額を12米ドル(USD)から10USD、8USD(避難民1人/月)と立て続けに引き下げを行いました。このような状況を踏まえ、限られた資金を最大限に有効活用するため、赤十字内外を含めた支援関係者による資源の適正な分配と見直しの動きが始まっています。

先行きが不透明な支援状況や長期化する避難生活により、困難な環境を生きる避難民の人びとは、それでも、家族や周囲の人たちを大切にし、他者への貢献の意思をもって暮らしています。現地で彼らを支えるバングラデシュの人びとは、祖国を逃れた避難民を隣人として受け入れ、彼らの生活を支える活動をいまも継続しています。日赤は現地のバ赤とともに、ミャンマーからの避難民やホストコミュニティの心身の健康と尊厳を守るため、支援活動を行っています。皆さまの温かいご支援を引き続きよろしくお願いいたします。

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日本赤十字社はバングラデシュ南部避難民救援金を受け付けています。皆さまの温かいご支援・ご寄付をどうかよろしくお願いいたします。 ※日赤へのご寄付は、税制上の優遇措置の対象となります。詳しくは税制上の優遇措置をご覧ください。