バングラデシュ南部避難民保健医療支援 避難民キャンプで生きる若者の苦悩と心理社会的支援

画像 元気にサッカーを楽しむ子どもの姿は避難民キャンプの中でも目にすることができる©日本赤十字社

 2022年12月、世界がサッカーワールドカップに沸きました。バングラデシュでもサッカー人気は高く、アルゼンチン、ブラジル、ドイツ、フランス、日本など自分が応援する国のゴールが決まると、夜中であろうと構わず大きな歓声と爆竹音やラッパが鳴り響きました。

 バングラデシュのコックスバザール県南部にある避難民キャンプにも、同じようにワールドカップを楽しんだ若者たちがいます。その一人であるアヤスさん(26歳)は、キャンプ13でバングラデシュ赤新月社(以下バ赤)の心理社会的支援ボランティアとして活動しています。

避難民ボランティア・アヤスさんとサッカー

 アヤスさんは、ミャンマーでは村のサッカーチームで活躍し、周りからの期待も大きかったそうです。しかしミャンマーで迫害を受け、サッカーをすることを禁じられてしまいました。

2017年8月の武力衝突により命に危険を感じ、ラカイン州から家族とともに必死の思いで逃げて避難民キャンプにたどり着きました。「今また、サッカーが出来るようになりバングラデシュには感謝している、サッカーができるようになってとても嬉しい」と話します。

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ワールドカップの結果について熱心に語るアヤスさん©日本赤十字社

 人びとがひしめき合って住んでいる避難民キャンプでは、サッカーが出来るような場所は限られています。また、たとえ避難民キャンプ内であってもほかの区域への移動や就労することもままならず、病院を受診するほかは、避難民キャンプの外に出ることが制限されています。

画像 小さな仮設の住居が延々と続く避難民キャンプの様子©日本赤十字社

 そんな状況で避難民キャンプの中で月に数回行われる試合はとても貴重な時間だとアヤスさんは言います。サッカーの試合で自分の活躍が話題となり少しは有名となったが、現状に満足したくない、もっと練習したい、と話してくれました。

制約や治安の問題にさらされるキャンプでの生活

 バングラデシュ政府は202111月から、6年生~9年生(11歳から14歳)までの子どもが、ミャンマーと同じカリキュラムで勉強することを認め、その下の学年の教育も徐々に開始されています。一方、高校生や大学生にあたる若者の学習機会はまだ提供されておらず、海外への留学のチャンスも当然ありません。ミャンマーでは学生だったアヤスさんも、バングラデシュに避難してから勉強を続ける機会を失いました。アヤスさんは自由に勉強したい、とつぶやきます。

 避難民キャンプの中の治安を守るため、警察は駐在していますが、子どもを誘拐や人身売買の被害から守るため、避難民コミュニティで安全対策を行っています。限られたキャンプ内での厳しい環境で、フラストレーションは溜まる一方です。

 避難民キャンプでの生活や医療は、たくさんの支援により向上してきました。その一方で故郷に帰ることが出来ず、将来の見通しが立たない今、避難民の心には不安や悩みが大きく重くのしかかっています。避難当時少年だった若者が今は結婚し、たくさんの子どもが産まれて成長しています。子どもの将来はどうなってしまうのだろうと、大人たちは考えると夜も眠れない、といった声がアヤスさんたちコミュニティボランティアの活動から浮きぼりになっています。

避難民を精神面で支えるボランティアの存在

 アヤスさんは2018年3月にコミュニティボランティアになりました。キャンプの人たちを助けたい、人の役に立ちたいと考えたそうです。活動開始当初は、キャンプ19で家庭訪問を行い手洗いの指導を行なったり、困ったことなど話を聞き、頼りにされる活動にとてもやりがいを感じていたそうです。

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優しくあいさつしながら、子どもたちがどんな気持ちか毎日確かめます。©日本赤十字社

 2022年に入ってキャンプ内の制限が強まり、避難民自身の住んでいる区域以外でのボランティア活動が出来なくなりました。アヤスさんは2022年3月に自身が住んでいるキャンプ13で行われている心理社会的支援のコミュニティボランティアに役割を変更しました。

コミュニティセーフスペース(CSS)と呼ばれる集会所を中心とした活動ですが、遠い家へも訪ねていき、人びとの話をじっくり聴いて、バ赤などの支援団体に住民の声を届けています。地域住民からは「相談する人がいなくて誰にも話せなかったので、話を聴いてもらえて本当に嬉しい」との声も聞かれます。

 アヤスさんは「自分が話を聴くことで相手を落ち着かせ、相手が安心して話ができたことで本人の気持ちが軽くなり、明るくなってくれた時が一番嬉しい」といいます。このような関わりは、サイコロジカルファーストエイド(PFA:心理的応急処置)と呼ばれ、研修を受けたアヤスさんのようなボランティアが周囲の人たちに必要な精神的な支えを提供することができます。

人びとに寄り添う心理社会的支援

 アヤスさんは避難民の子どもが行方不明になり、人身売買の被害にあっていることに触れ「できることなら自分が子どもたちを守りたい」と強い口調で話しました。アヤスさんが活動するCSSは、地域の人びとがいつでも利用できる場所です。集まった人びとは、人とのつながりやきずなを深めていきます。

画像 家より広いコミュニティセーフスペースでのびのびと振る舞う子どもたち©日本赤十字社

 CSSでは子供から大人までの個人やグループを対象とした活動を行っています。グループ活動は、幼児、学童期~思春期(女・男別)、成人(女・男別) の年齢に応じた支援が行われています。子どもたちは、ブロック遊びや工作、絵画、裁縫などを通じ創造性や自己肯定感を育みます。また、自己認識力やストレス対処法、問題解決能力、対人関係スキル、効果的なコミュニケーション能力の向上、困難な状況に対応する力といったライフスキルのほかに簡単な英語やミャンマー語を学ぶことができます。

 アヤスさんは「僕は死ぬまで勉強を続けたいと思っている、ミャンマーでもいろいろ勉強したかったけれど、制限があって大学に行くことができなかった。

 英語は勉強できるところを見つけて勉強した。今は専門技術を勉強して、コミュニティで子どもたちを教えたいけれど、その専門的知識を学ぶ機会がない。キャンプの子どもたちは、教育を受けて立派な人になりたいと言っている。僕はこの子どもたちを支援したいと思っています」と話してくれました。

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勉強熱心な子どもたちは、日赤要員に英語で話しかけてきます©日本赤十字社

避難民への継続した支援をお願いします

 苦しい状況にありながらも、アヤスさんのようなボランティアの前向きで純粋な気持ちがキャンプの子どもたちへ届くことを願い、日赤は子どもや大人たちが問題や困難に立ち向かい生きる力を強くする彼らの心理社会的活動を支援していきます。

 今後とも皆様からの温かいご支援とご協力を、どうぞよろしくお願いいたします。

*国際赤十字では、政治的・民族的背景および避難されている方々の多様性に配慮し、『ロヒンギャ』という表現を使用しないこととしています。

 日本赤十字社は、ミャンマーからの避難民の心身の健康と尊厳を守るため、支援活動を行っています。皆さまの温かいご支援・ご寄付をどうかよろしくお願いいたします。

※日赤へのご寄付は、税制上の優遇措置の対象となります。詳しくは税制上の優遇措置をご覧ください。

(税制上の優遇措置について)

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