なぜ赤十字は核兵器廃絶を訴えるのか~長崎原爆の日によせて~

 本日8月9日は、ながさき平和の日(長崎に原爆が投下された日)です。1945年に広島に続き、長崎に原子爆弾が投下されてから78年となりました。原爆投下直後のみならず、今現在も放射能による健康被害やそのトラウマに苦しんでいる方がいます。他方、世界には未だ12,512もの核兵器が存在している状況です(2023年1月現在)[i]
 赤十字は、第二次世界大戦以降、長年にわたり核兵器が二度と使用されないよう、世界に核兵器廃絶を訴えかけています。

[i] https://www.sipri.org/yearbook/2023

0809-1.jpg長崎原爆の治療 小川虎彦氏撮影 昭和20年8月下旬 ©日本赤十字社

破滅的な結末をもたらす核兵器

 赤十字が核兵器廃絶を訴える際に「破滅的」、「壊滅的」ということばを使いますが、核兵器はその破壊力が故に、武力紛争に関与しない一般市民を巻き込み、生活に必要なインフラを破壊し、深刻な被害をもたらします。武力紛争に関する国際人道法では、「軍事目標と民用物の区別」が規定されていて、一般市民や民用物を保護することとしています。無差別且つ過度に大勢の人と環境に被害をもたらす核兵器の使用は、いかなる形であれ、国際人道法の規則と合致するとみなすことは難しいと考えられます。

 また、赤十字は人道危機が起きた際にいち早く被災者のもとに駆け付けようとしますが、核兵器の被害に対する救護は、現場へのアクセス含め格段に難しくなります。今年5月のG7広島サミットの開催に先立ち、日本赤十字社(以下、日赤)社長と赤十字国際委員会総裁は、政治的緊張により核兵器のリスクが高まっている今、核兵器廃絶を国際社会に訴える共同声明を発表しました。その声明の中でも、核兵器使用後の救護の困難について次のように言及しています。

 1945年の広島のような規模の核爆発が一回でも起きた場合、効果的な医療支援を行うことはほぼ不可能です。今日、同じことが起これば、状況はさらに厳しいものとなるでしょう。(中略)このような事態に対処できる政府や国際機関はありません。

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被爆者の治療(写真集「原爆の長崎」より複写)
©日本赤十字社

 原爆投下直後に治療にあたった広島赤十字病院救護看護婦も「止血剤、強心剤、化膿止めと薬のある限り注射を打ってあげるしか処置の方法はありませんでした」ということばを残しています[ⅱ]
 核兵器を作る術はあっても、それに対処し治療する術はいまだ確立されていない事実にも目を向けて行動していくことが求められます。

[ⅱ] Dialogue on Nuclear Weapons-赤十字に残る、核兵器と向き合った者の「言葉」

核兵器禁止条約第2回締約国会議に向けて

 近年、世界的に核兵器に関する議論が活発化してきています。先般のG7広島サミットの他、2017年に核兵器禁止条約が採択された一方、2022年2月以降のロシアとウクライナにおける国際的武力紛争などが背景にあります。
 アメリカ赤十字の「国際人道法ユースアクションキャンペーン」では、2023年7月から1年間のテーマを「核兵器と武力紛争」として、青少年が国際人道法を学び、同世代に普及する活動を展開していくそうです。
 日赤は、今年11月にアメリカ・ニューヨークで開催される核兵器禁止条約第2回締結国会議に参加予定です。この会議への参加は、昨年度の第1回会議に続き2回目になりますが、世代を超えて伝えていくことを大切に考えています。

 核兵器の恐ろしさやその是非について積極的に周囲に伝え、議論することが私たちが普段からできる第一歩だと思います。日赤では、無関心が最大の敵として、皆様に世界の人道危機について知っていただくことも人道支援の一つであることをお伝えしています。

 私たち一人ひとりの核兵器への認識と行動が世界を変えていきます。ぜひ、この記事を読んでいるあなたも関心を持つことから始めてみませんか。

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