支援を届ける赤十字の「人」:国際要員としての想い

 昨年の赤十字国際ニュース第42号でご紹介したとおり、自然災害や紛争などの人道危機に対する人道支援の展開のためには、お金や物資の支援だけでなく、それらの支援を現地に届け、活動を展開する「人」が欠かせません。日本赤十字社(以下、日赤)では医師、看護師、薬剤師等の医療職のほか、事業管理、地域保健、防災、心理社会的支援など、多様な背景をもつ「人」を国際救援・開発協力に従事する「国際救援・開発協力要員(国際要員)」として派遣しています。

 こうした「人」がどのようなきっかけで国際要員を目指したのか?なぜ、赤十字での国際活動に関心をもったのか?今回は、これまで海外派遣を経験した国際要員の声から一部をお届けします。

■日本赤十字社和歌山医療センター 寺尾 のぞみ

 高校2年生時に読んだ森沢典子著「パレスチナが見たい」という本がきっかけで、本格的に海外支援に携わりたいと思うようになりました。その後、海外支援に携われる仕事は何かを色々調べるうちに、国益や見返りを求めない支援をしている、そして世界192カ国に赤十字・赤新月社がある赤十字で国際救援活動がしたいと考えるようになりました。

 物流会社で2年間勤務した後、縁あって日赤和歌山医療センターへ転職。多くの同僚に「なぜ和歌山医療センターに来たの?」と聞かれました。「日赤の国際医療救援・赤十字の人道支援活動に参加したいから!」と話していたことを覚えています。

 その後、2020年と2022年にマレーシアへの派遣を経験しました。中立・公平といった赤十字の原則に基づいて、世界各国の職員が支援を必要としている被災者の方がたへ一刻も早く支援を届け、サポートするという「1つのベクトル」に皆が向かっていることを非常に強く感じました。

画像 パキスタン洪水支援に対する日赤からの支援物資積 込みの立ち合い(マレーシア空港)ⓒ日本赤十字社

■中東地域代表部首席代表 松永 一 

 1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに海外派遣を目指すようなりました。大学時代に先進国と途上国の経済格差を学んだことから、震災前は人が生きるためには「衣食住」が大切と感じ、「住」に携わる住宅メーカーに就職し、その後営業マンとして兵庫県で新築住宅の契約獲得等に奔走していました。ただ、震災後は本当に家が無くなってしまった人びとの住宅を提供することとなり、「住」を提供したかったのは正にこういう人たちで、そのような人びとが多い途上国で人道支援をしたい、ということに気づいた瞬間でもありました。

 人道支援という仕事の面白いところは、自分が担っていた仕事を、徐々に現地の人びとが担い、自分自身の仕事が無くなっていくところに顕著な成果が見えてくる、ということだと感じます。他者の助けを必要とする人びとがいるので、人道支援という仕事が生まれることを考慮すると、本来、他者の助けを必要としない世界には人道支援という仕事は要らないはずです。そんなことも考えると、「現地での自分の仕事が一日でも早く無くなる」というのが、少々不思議なやりがいのように感じています。

■東京都赤十字血液センター 古島 崇裕

 学生時代、長期休暇にはバックパッカーで世界を放浪していました。卒業論文で国内避難民の法的保護について研究したときに赤十字の存在を知り、人道支援に携わりたいと日本赤十字社に入社しました。入社1年目にスマトラ島沖地震・津波が発生し、日赤が医療チームを継続して派遣している姿を目の当たりにして、自分もそのような活動に参加したいと思うようになりました。

 ハイチ、ネパール、バングラデシュへの派遣を経験しましたが、国際要員としてのやりがいは、「赤十字の仲間と人道の原則の下で同じ目的に向かって活動できる」これに尽きます。赤十字の人道支援の主体は被災者であり、現地の赤十字ボランティア、支援機関はそれぞれの得意分野を活かして、被災者の生活を支えるために被災地に赴きます。チームとして支援活動が軌道に乗っている姿を裏方として支え、現地スタッフが私たちと生き生きと活動している姿を見たときにやりがいを感じました。

画像 バングラデシュでの活動の様子ⓒ日本赤十字社

■姫路赤十字病院 津田 香都

 看護師になってから数年後、仕事を辞めてワーキングホリデーでニュージーランドに行っていた時のことでした。新聞の求人広告で看護師を募集しているのを見つけ、海外で働くことに興味を持ちました。まずはボランティアでもできることはないかとニュージーランド赤十字社の事務所を訪ねたのですが敢え無く挫折しました。それが悔しく、いつかは世界中にネットワークがある赤十字社で働きたい、と思うようになりました。

 長い紛争が人びとの教育機会にも影響を及ぼした南スーダンでは、医師や看護師の知識や技術が不足していました。ある日、心臓マッサージや人工呼吸が必要な乳児が母親とともに来院しました。私と同僚の医師が必死で救命活動を行うなか、現地の医療スタッフは助けたいという気持ちがある一方で、何をすればいいのかが分からず戸惑っている様子でした。この経験から、同僚の医師や上司に相談し、現地の医師と看護師を対象に一次救命処置のトレーニングを開催することにしました。このトレーニングの後、現地のスタッフだけで必要な心臓マッサージや人工呼吸の処置ができて命を救えた事例があったと同僚から聞きました。また、現地スタッフから「自分たちでできたんだよ」と報告を受けた時は自分のこと以上にとても嬉しかったことを鮮明に覚えています。

国際要員を目指す方へ

 日赤のコーポレートサイトでは、「現地で活動した国際要員の声」として国際要員として登録されるまでの道のりや現地でのやりがいなどを公開しています。また、「国際要員ウェブサイト」を通じて、派遣先での活動についての帰国報告会などのイベント情報を随時更新しています。これから国際要員を目指す方、日赤の国際活動に関心のある方、ぜひウェブサイトを訪れてみてください。

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